がん緩和ケアにおける精神症状の漢方薬アプローチ せん妄・不安・抑うつ・倦怠感を改善する処方術

定価:
3,300円(本体価格3,000円+税)

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書誌情報

書誌情報
サイズ A5
頁 124頁
ISBN 978-4-498-12210-9
発行日 2026年10月22日

内容


がん患者の心身の苦痛に,漢方という新たな選択肢を.不安,抑うつ,不眠,せん妄,倦怠感,食欲不振…がん患者が抱える多様な症状は複雑に絡み合い,QOLや治療の継続にも影響します.本書では,精神科医として多くのがん患者を診療してきた著者が,精神神経薬理学の知見と豊富な臨床経験をもとに,漢方薬の役割と実践的な処方術をわかりやすく解説.ポリファーマシーにも配慮しながら,患者の「証」をどう捉え,どのように処方へ結びつけるのか.総論から症状別の各論まで,がん緩和ケアに漢方を取り入れるための考え方と使い方が身につく一冊です.

序文

はじめに

 がん医療の現場において、患者が抱える苦痛は身体的な症状にとどまりません。不安や抑うつ、不眠といった精神症状や、食思不振・倦怠感などの不定愁訴は相互に複雑に絡み合い、患者のQOL(生活の質)を著しく低下させます。これらの症状が改善されない場合、患者自身の治療意欲が減退し、時にはがん治療そのものの進行や継続を妨げる要因にもなり得ます。特に高齢のがん患者においては、西洋薬による対症療法を重ねることでポリファーマシー(多剤併用)に陥り、副作用や相互作用のリスクが高まる点も重大な課題です。
 このような課題に対し、心身を一体として捉える漢方医学のアプローチは、非常に有用な選択肢となります。西洋医学が特定の疾患や局所の症状を標的とするのに対し、漢方医学は患者個々の体質や病態のバランスを診る「証」に基づき、全身状態を「補う」治療を行います。例えば、消化器症状と精神的不安が同時に出現している場合でも、患者の「証」に適した漢方薬を選択することで、単一の処方で複合的な症状を包括的かつ穏やかに改善することが期待できます。
 また、がん患者の中には精神科の受診や向精神薬の内服に対して、依存性への不安や心理的抵抗(スティグマ)を抱く方が少なくありません。自然由来の生薬からなる漢方薬は、「体に優しく体質を整える」という受容しやすいイメージを持ち、精神的介入への心理的ハードルを下げる重要な「橋渡し」の役割を果たします。
 本書は、がん医療に従事する医療者が精神症状に対する漢方治療を臨床で円滑に実践できるよう、その学術的根拠と具体的な臨床応用を分かりやすく提示することを目的としています。西洋医学の治療と漢方医学の補完的介入を融合させることで、がん患者の心身の苦痛を和らげ、治療を支える一助となれば幸いです。

2026年10月
国家公務員共済組合連合会 斗南病院
副診療部長・緩和ケアセンター長
上村恵一

目次

目次

第1章 総論:がん医療における漢方薬の可能性
 1.治療を阻む不定愁訴と漢方薬の有効性:心身相関の視点から
 2.精神神経薬理学から見た漢方薬のメリット:多面的作用と副作用対策
 3.ポリファーマシーからの脱却:漢方薬の包括的アプローチ
 4.依存性の高い向精神薬の代替薬としての漢方薬
 5.向精神薬に抵抗のある患者への漢方薬という選択肢
 6.緩和ケアにおける漢方薬の具体的な活用

第2章 認知症のBPSDを改善する漢方:緩和ケアの視点から
 1.がん医療と認知症の行動・心理症状(BPSD)の接点
 2.陽性症状のファーストチョイス:抑肝散
 3.陰性症状に活力を:人参養栄湯
 4.血管性認知症(VaD)の治療と予防:釣藤散
 5.末期腎不全患者と抑肝散:安全性の検証と活用法
 6.漢方治療における「証」と柔軟な使い方
 7.緩和ケアにおける漢方の未来

第3章 フレイルを改善する漢方:緩和ケアとがん治療における知見
 1.高齢化社会と「がんサバイバーシップ」におけるフレイルの課題
 2.フレイル総論:「フレイルの悪循環」について
 3.高齢のがん患者におけるフレイルの悪循環の背景
 4.薬物介入におけるピットフォールと漢方併用療法の役割
 5.フレイルを改善する漢方薬の臨床応用
 6.漢方で叶える「質の高いサバイバーシップ」

第4章 気虚への挑戦:希望を灯す補剤の処方戦略
 1.がん医療における「気虚」と補剤治療の意義
 2.気虚の本質と緩和ケアにおける治療意義
 3.補剤選択の基本戦略:処方順序のピットフォール
 4.気虚治療の王道:補中益気湯の徹底活用
 5.処方の絞り込みの誤謬:加味帰脾湯を初期選択から避ける理由
 6.補中益気湯からのバリエーション:次の手と合方の活用
 7.気虚治療の安全管理
 8.自信を持って「気」を立て直す治療を提供するために

第5章 食思不振を改善する漢方:がん緩和ケアにおける六君子湯の役割
 1.がん患者における食思不振の深刻な課題
 2.漢方医学における「食」と「消化機能」の捉え方
 3.六君子湯:組成と伝統的な効能
 4.六君子湯の作用機序:科学的知見に基づく詳細な解説
 5.がん緩和ケアにおける六君子湯の臨床応用
 6.まとめ:統合医療における六君子湯の価値

第6章 イライラと不眠を改善する漢方:柴胡加竜骨牡蛎湯と加味帰脾湯という選択肢
 1.がん患者における「眠れない夜」と「制御できない苛立ち」
 2.漢方医学における「不眠」と「精神安定」のメカニズム
 3.柴胡加竜骨牡蛎湯:精神的高ぶりを鎮める「重鎮安神」の力
 4.加味帰脾湯:心身の消耗からくる不安を癒やす「補血安神」
 5.緩和ケアにおける臨床的使い分け
 6.西洋薬(睡眠薬・抗不安薬)との併用とメリット
 7.安全な使用のための留意事項
 8.睡眠の質の向上と気持ちの安定を目指して

第7章 せん妄を改善する漢方:抑肝散と抑肝散加陳皮半夏による穏やかな療養環境の構築
 1. 緩和ケアにおける「せん妄」の臨床的課題と漢方の意義:全人的苦痛としての理解
 2.漢方医学におけるせん妄の捉え方:「肝」の機能異常と「気」の高ぶり
 3.抑肝散:神経の高ぶりを鎮める
 4.抑肝散の作用機序:グルタミン酸とセロトニンの二重調節
 5.抑肝散加陳皮半夏:睡眠覚醒リズムの改善と内因性メラトニンの強化
 6.臨床的使い分け:がん患者の個別性に合わせた戦略的投与
 7.ご家族への説明:リズムを整える「癒やしの効果」
 8.調和というバランス

第8章 意欲低下や抑うつを改善する漢方:人参養栄湯という選択肢
 1.がん患者における気持ちのつらさ:意欲低下と抑うつの本質
 2.漢方医学における「心身一如」と「気血両虚」
 3.人参養栄湯:組成と特徴
 4.人参養栄湯の作用機序:科学的エビデンスに基づく深掘り
 5.臨床現場における実践的適用
 6.注意点とリスク管理
 7.エネルギーを補う大切な選択肢として

第9章 繰り返す誤嚥性肺炎を改善する漢方:半夏厚朴湯と六君子湯による「守り」のケア
 1.緩和ケアにおける誤嚥性肺炎の重み:生命の尊厳と「食べる」喜び
 2.誤嚥の多角的なメカニズムと「二つの防衛線」
 3.半夏厚朴湯:嚥下・咳嗽反射を呼び覚ます「神経的アプローチ」
 4.六君子湯:胃の排出を助け逆流を防ぐ「消化管アプローチ」
 5.半夏厚朴湯と六君子湯の使い分け・併用戦略
 6.作用機序のさらなる深掘り:ドパミンとアセチルコリンの協調
 7.安全な処方のためのリスク管理と留意点
 8.最期まで「味わう」ことを支えるために

第10章 がん性疼痛を改善する漢方:多角的なアプローチによる鎮痛とQOLの向上
 1.緩和ケアにおけるがん性疼痛管理の現状と課題
 2.急激な痛みに即効性を示す「芍薬甘草湯」
 3.「温める」ことで痛みを制する:附子の力
 4.神経障害性疼痛としびれへのアプローチ:牛車腎気丸
 5.緩和ケアにおける統合的戦略:西洋薬とのベストミックス
 6.注意点とリスク管理
 7.痛みの先にある「安寧」を目指して

第11章 緩和ケア・精神症状に用いる主要漢方方剤の臨床詳解
 1.補中益気湯
 2.加味帰脾湯
 3.抑肝散
 4.人参養栄湯
 5.釣藤散
 6.六君子湯
 7.柴胡加竜骨牡蛎湯
 8.半夏厚朴湯
 9.八味地黄丸
 10.牛車腎気丸

第12章 緩和ケア・がん医療における漢方Q&A:緩和ケア医が答える30の知恵
 1.漢方治療の基本と理念
 2.身体症状へのアプローチ
 3.精神症状と心のケア
 4.副作用対策と支持療法
 5.安全性と上手な付き合い方
 6.終末期と家族のケア

索引

執筆者一覧

  • 国家公務員共済組合連合会 斗南病院副診療部長・緩和ケアセンター長・精神科・緩和ケア内科 科長 上村恵一 著
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