CPX・運動療法ハンドブック 改訂4版 心臓リハビリテーションのリアルワールド
内容
循環器疾患の病態解析や治療技術は著しく進歩し,心臓リハビリテーションについては社会的欲求の高まりと共にその必然性が叫ばれ,日本循環器学会のガイドラインでも新たに項目が設けられた.そんななか,本書は心肺運動負荷試験と運動療法の実際を“リアル”に解説し,多くの医師,スタッフから好評を得てきた.今版は最新情報を盛り込み,さらにバージョンアップ.CPXを利用し尽くして,心血管疾患の病態を深く理解できる1冊だ.
序文
改訂4版の序
2009年に初版を出版してから10年が経過した.その間,AT談話会や循環器負荷研究会など運動負荷関連の研究会が姿を消し,運動負荷を省略して循環器診断を行うことが増えてきた.背景として,運動負荷試験は患者に大変な思いをさせるだけで情報が少ないという声が聞かれる.また,医学部の教育としても,臨床系の講義が増えている代償として生理学のような基礎医学の講義が減っているように感じる.そのため,運動生理学に興味を持ち,必要性を理解する若手医師が減っていることも原因と思われる.心疾患治療についても,相変わらず,心臓のパーツを治すことが最終目標と考え,その後は自分の仕事ではないと言う医師が多い.
しかし,ここ数年,風向きが変わってきている.虚血性心疾患にしろ心不全にしろ,患者の側から健康寿命を延ばしてほしいとはっきりと言われるようになってきた.そのためには体を意のままに動かせることが必要で,そのようなことをターゲットにした治療法,すなわち心臓リハビリテーションの実施を希望する声が増加している.また,非侵襲的な治療法で心臓病を管理してほしいという声も増えてきた.筆者のもとにも,群馬県外からはるばると心臓リハビリテーションの実施や運動許容量の判定を求めて来院する患者さんがいる.医者ではなく患者さんのほうからCPXが要望される時代になってきている.
今年の日本循環器学会のガイドラインでも,心不全については慢性期を見据えた急性期治療が重要という考えのもと,急性心不全にも心臓リハビリテーションの項目が設けられた.また,慢性心不全に関しては疾病管理という項目名で心臓リハビリテーションによる心不全管理に多くのページが割かれている.心不全患者に心臓リハビリテーションを実施する際には運動療法が欠かせないため,心不全管理にはCPXが欠かせないということになる.また,慢性冠動脈疾患診断ガイドライン(2018年改訂版)にも,安定冠動脈疾患を疑う患者には最初に運動負荷試験でリスクの層別化を行うように記載されている.この場合はDuke scoreが勧告されているが,CPXを用いれば,膝痛のために歩行が十分できない患者でも実施でき,同時に心電図所見以外の観点から虚血重症度を判定できる.このように,CPXは心疾患治療に欠かせないものになっている.
CPXからは呼気ガス分析のほか,心電図,血圧,SpO2などのデータが得られる.心エコーや呼吸機能検査等の結果と併せて病態を鮮明にすることができる.そしてCPXのパラメータを適切に解釈すれば,治療法を決定するうえの大きな根拠となる.CPXはここ数年の間にかなり多くの病院に普及したとはいえ,いまだ十分とは言えない.決して安くはない機器ではあるが,患者さんに大きな恩恵をもたらすものである.この書が,さらなるCPX普及の助けになれば大きな喜びである.
2019年6月
群馬県立心臓血管センター 安達 仁
初版の序
私が運動生理学を学びにUCLAへ留学してから15年が経ちました.その間に,心肺運動負荷試験のデバイスは大きく進化し,格段にCPXを実施しやすくなりました.また,運動生理学も発展し,運動中のさまざまな体内の変化が理解されるようになり,これらが現在の心臓リハビリテーションの発展の礎になっております.
ところが,それでもなお,実際に行うと難しそうだとか,パラメータから患者の状態をうまく読み取っているのかどうか不安だという声が多々聞かれます.CPXは準備に気を遣い,また,得られるパラメータも多く,その分,解釈も難しそうに思えます.
本書では,実際にCPXを行う場合に,どのような準備が必要かを,できるだけ具体的に記載したつもりです.臨床の場で,時に犯してしまう過ちを再現し,その時のパラメータを記録したりもしました.本書を読めばすぐにでもCPXを開始できるものと思います.
解釈の項では,心疾患患者を対象にCPXを行った場合,どのようなパラメータが重要で,どのような病態のときにそれらのパラメータが変化するのかにつき解説しました.なるべくパターン化して解説したつもりですので,かなりCPXが身近に感じられるようになるのではないかと思います.運動処方の項目も,すぐに実地に生かせるように記述しました.
後半部分は,実際に運動療法を行っている理学療法士に,様々な状態にある患者に対する運動療法の実際を記述してもらいました.現場の感覚が感じられると思います.また,心疾患患者の重症度や病態を評価する場合,運動中の心エコーも欠かせません.その点についても最後の項に記載しました.この分野での仕事はまだ少なく,本書をきっかけにたくさんの仕事が為され,心疾患患者の治療法開発に役立つことを願っております.
姉妹本の「実践 眼で見る心臓リハビリテーション」同様,本書が常に呼気ガス分析装置の傍らに置かれ,ぼろぼろになるまで使い込んで頂ければ筆者にとって望外の喜びです.本書が,安全で効果的な運動療法の普及,および心不全患者の病態把握・治療方針決定の役に立てることを祈念申し上げます.
2009年2月
群馬県立心臓血管センター 心臓リハビリテーション部長
東京医科大学茨城医療センター リハビリテーション部兼任教授
安達 仁
目次
目次
第1章 CPXの目的 〈安達 仁〉
1 CPXで何がわかるか,誰にできるか
A CPXの特徴
B 他の負荷試験との相違点
C どのような患者に実施できるか
2 CPX中の測定項目
3 CPXの臨床応用
A 運動耐容能評価
B 運動処方作成・日常活動指導
C 息切れの鑑別
D 虚血重症度の判定・労作性狭心症治療方針決定
E 慢性心不全の病態解明・重症度把握,治療法決定
F ペースメーカ至適モードの設定
G 心不全における僧帽弁置換術(MVR)/形成術(MVP)の治療効果の予測
第2章 CPXの準備 ─ハード面─ 〈小林康之〉
1 呼気ガス分析装置
A ガス分析計の校正(キャリブレーション)
B 流量計の校正(キャリブレーション)
C 日常管理(精度管理)
D 呼気ガス分析器の検定
2 負荷装置
A サイクルエルゴメータ
B トレッドミル
3 フェイスマスクとマウスピース
A フェイスマスク
B マウスピース
4 室内環境
A 緊急事態への準備
5 呼気ガス分析装置のモニタ画面の設定
第3章 CPXの準備 ─ソフト面─ 〈上田正徳〉
1 電極の貼りかた
A 事前準備
B 電極とコード
C 誘導法
2 検査の説明
3 運動負荷試験の禁忌
4 運動負荷試験中止基準
5 心電図異常陽性基準
A ST-T変化
B 不整脈
6 負荷試験中の注意点─呼吸法,漏らさないコツ─
A 呼吸法
B 顔の向き(センサの向き)
7 ウォームアップ,クールダウンの意味
8 患者の異常と考える前に─おしゃべり,呼気ガス分析装置の異常─
9 運動中の心拍出量および血管拡張能の測定
第4章 運動中の生体応答 〈安達 仁〉
1 自律神経活性・神経性調節・central command
2 心拍数
3 血圧応答
4 心拍出量・心収縮能・心拡張能
5 肺動脈楔入圧(PAWP),左室拡張末期圧(LVEDP),拡張期肺動脈圧(dPAP)
6 収縮期肺動脈圧(sPAP)
7 血流分配
8 呼吸パターン
9 血糖値
第5章 活動筋での酸素摂取量に影響を与える因子 〈安達 仁〉
1 フィック(Fick)の理論
2 心拍出量
3 骨格筋
4 骨格筋への血流
5 肺血流
6 呼吸機能
7 貧血
8 喫煙(COHb)
第6章 ランプ負荷試験の実際 〈安達 仁〉
1 ランプ負荷強度設定法
2 安静時にみるべきポイント
A 心電図,血圧
B 心拍数
C 酸素摂取量(VO2)
D ガス交換比(R)
E VE/VCO2
3 ウォームアップ
A 持続時間と強度決定法
B 酸素摂取量(phase I, phase II, τon phaseIII)
C VE/VO2,VE/VCO2の変化
D 心拍応答
4 ランプ負荷中に得られる指標
A 酸素摂取量
B 最高酸素脈(peak VO2/HR, oxygen pulse)
C VE/VO2,VE/VCO2
D VE vs. VCO2 slope
E PETCO2,PETO2
F TV-RR関係
G RR threshold
H Ti/Ttot
I 呼吸予備能(breathing reserve)
J SpO2
K Oscillatory ventilation
L OUES
5 回復期
A VO2/HRのjump up phenomenon(ジャンプアップ現象)
B VO2(τoff,タウオフ)
第7章 9パネルの読みかた 〈安達 仁〉
パネル3 VO2,VCO2
パネル5 Vスロープ
パネル6 VE/VCO2,VE/VO2のトレンドグラフ
パネル2 VO2/HRとHR
パネル8 ガス交換比(R)
パネル4 VE vs. VCO2 slope
パネル9 ETCO2,ETO2のトレンドグラフ
パネル1 VE
パネル7 TV/VE slope
第8章 パラメーターの総合的解釈 〈安達 仁〉
1 運動耐容能の指標─AT,peak VO2─
2 総合的解釈
A 運動耐容能低下の原因の推測
B 心拍出量評価
C 息切れ感の鑑別
D %peak VO2とVE/VCO2の関係─cardio-muscle panel─
E VE/VCO2とVE vs. VCO2 slope
第9章 疾患・病態別のCPX 〈安達 仁 村田 誠〉
1 虚血性心疾患
2 心不全
3 不整脈(発作性心房細動と心室頻拍)
4 肺高血圧症
5 R-Lシャント
6 成人先天性心疾患
7 CRT-D設定不全
第10章 運動処方
1 AT処方 〈安達 仁〉
A AT決定法と運動処方
B ATが決定不能な場合の運動処方
C 自転車エルゴメータとトレッドミルの対比
2 心拍処方(Karvonenの式)
3 自覚的運動強度による処方
4 トークテストによる処方(坂道が多い地域での運動処方)
5 RR thresholdを用いた運動処方
6 重症心不全への処方
7 不整脈患者への処方
8 ICD,CRT-D患者への処方
9 ポジティブリモデリングと運動処方
10 HR<110の勧め
11 運動処方レベルの確認法
12 HIIT(high intensity interval training)
第11章 CPXの実例 〈村田 誠 中出泰輔 安達 仁〉
1 低体重の正常例
2 高齢者
3 鍛錬者
4 重症肥満
5 重症糖尿病
6 大動脈弁狭窄症に対する大動脈弁置換術後
7 心不全による低体力:心臓リハビリテーション前後
8 狭心症(末梢病変)
9 狭心症:心臓リハビリテーション前後
10 大動脈弁閉鎖不全症+僧帽弁閉鎖不全症
11 oscillation
12 LVAD植え込みと心臓リハビリテーション実施前後
13 安静を好む正常心機能被検者の心房細動アブレーション前後
14 運動を好む正常心機能被検者の心房細動アブレーション前後
15 僧帽弁閉鎖不全症を伴う拡張型心筋症
16 大動脈弁置換術後
17 心房粗動
18 心房中隔欠損症
19 ファロー四徴症術後:ペダル回転数の影響
20 末梢動脈疾患
21 CTEPH BPA前後
22 胸水貯留状態
23 中等症肺気腫
24 運動習慣のある重症肺気腫
第12章 呼気ガス分析装置ミナトAE310S解析手順 〈安達 仁〉
1 ATの決定
2 各区間の決定
3 VE vs. VCO2 slopeの決定,印刷
4 VE/VO2-VE/VCO2関係の表示されたグラフの印刷
5 HR-VO2関係の回帰
6 TV/RR slopeの回帰
7 Ti/Ttotの評価
8 RR曲線の評価
9 エネルギー消費量の評価
第13章 運動療法実施法リアルワールド
1 心筋梗塞 〈設楽達則〉
A 発症から運動療法までの流れ
B リスク管理
C メディカルチェック
D ウォームアップ
E 有酸素運動
F レジスタンストレーニング
G クールダウン
H 維持期(phase III)心臓リハビリについて
2 狭心症 〈安達 仁〉
A 狭心症の至適治療
B 運動療法の効果と危険性
C 運動療法実施法
D 運動療法実施時の注意点
E PCI施行後の狭心症に対する心臓リハビリ
3 開心術後 〈中野晴恵〉
A 開心術後の心臓リハビリ
B 【Phase I:急性期】術後〜1週間:個別プログラム
C 【Phase II:回復期】術後2週間〜退院まで:個別・集団運動療法
D 【Phase III:維持期】外来プログラム
E 開心術後のレジスタンストレーニングについて
4 心不全,LVAD植え込み患者 〈風間寛子〉
A 心不全患者に対する心臓リハビリ
B Phaseに応じた心臓リハビリのポイント
C LVAD植え込み患者に対する心臓リハビリテーション
5 ICD,CRT-D植え込み術後 〈猪熊正美〉
6 糖尿病 〈設楽達則〉
A 運動処方
7 成人先天性心疾患 〈猪熊正美〉
A 心不全
B 不整脈
C チアノーゼ性心疾患の患者の合併症
D 肺高血圧
8 慢性腎臓病 〈猪熊正美〉
9 高齢者 〈中野晴恵〉
A 高齢者の心臓リハビリの効果
B 高齢者の心臓リハビリの実際
C 当院での高齢者に対する心臓リハビリ
Appendix 心電図 〈安達 仁〉
略語集 〈上田正徳〉
索引