世界基準と比べてわかる こどものおなかの診かた,考えかた
- 定価:
- 6,600円(本体価格6,000円+税)
在庫あり
書誌情報
| サイズ | A5判 |
|---|---|
| 頁 | 304頁 |
| ISBN | 978-4-498-24516-7 |
| 発行日 | 2026年06月17日 |
内容
やさしく読めるのに,中身は本格派!
著者が北米トップ小児病院で培った視点と日本・北米・欧州ガイドラインを踏まえて,こどもの腹部診療を徹底解説しました.症状の見方,危険なサイン,検査の考え方,説明の仕方など,断片的になりがちな知識をひとつにつなげ,臨床で使える“型”を多数そろえました.こどもの腹痛で迷うことはもうありません.外来でも,救急でも,最初に頼れる世界基準がここにはあります.
序文
はじめに
1 本書の目的と特徴
Healthier Children Make a Better World. Heal the FUTURE !
子どもの消化器・肝臓疾患は,日常診療から専門領域まで幅広く,今や世界中の小児科が注目するサブスペシャリティの一つとなっています.なかでも,慢性腹痛と不登校・心理社会的問題との関連,潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患の増加,欧米での高い有病率が知られるセリアック病の存在などは,日々の診療において切実な課題となっています.さらに,消化管内視鏡検査や肝生検といった診断技術,肝臓・小腸移植などの特殊治療,そして慢性嘔気や腹痛といった難治性症状への対応が求められるのも,この領域が「挑戦とやりがい」に満ちている理由の一つです.ひとりでも多くの子どもが健やかに育つ社会は,より良い世界を進める一歩につながります.私たちがその未来を支える伴走者になれることは,この領域に携わる大きなやりがいの一つです.
本書は,すべての小児科医が日常診療で遭遇しうる「小児消化器・肝臓疾患」について,世界標準の視点から実践的に学べることを目指しています.筆者がカナダのHospital for Sick Children(トロント小児病院,通称SickKids)や米国のシンシナティ小児病院など,国際的に高く評価される小児医療施設で臨床と研究に携わってきた経験,さらに日本国内の済生会横浜市東部病院小児肝臓消化器科や成人消化器内科で培った知見を,わかりやすくまとめています.
本書では,これら日本,アメリカ,カナダの小児消化器・肝臓診療の現場で得た経験を基に,成人医療の知見を含めた「こどものおなかの診かた,考えかた」を世界標準の視点から解説します.また,ESPGHAN(欧州小児消化器肝臓栄養学会),NASPGHAN(北米小児消化器肝臓栄養学会),JSPGHAN(日本小児栄養消化器肝臓学会)のガイドラインや,NASPGHAN公認のポッドキャスト「Bowel Sounds」1)などの情報を取り入れ,最新のエビデンスに加えて,リアルワールド(現場)の実情の両面をバランス良く網羅しています.特に,専門医への紹介タイミングや成人医療の知識応用など,幅広い視点を取り入れることで,小児科医としての総合的な判断力を養う一助になればと思います.
本書が,小児科医や小児科研修医の皆様にとって実践的かつ信頼できる指針となり,小児消化器診療のさらなる発展に寄与することを心より願っています.
2 小児消化器診療の基本理念
小児の外来診療や救急医療において,腹痛は特に対応が難しい主訴の一つです.多くの場合,その原因はウイルス性胃腸炎,機能性腹痛,便秘症などの比較的頻繁にみられる疾患に由来します.しかしながら,虫垂炎や腸重積といった外科的治療を要する疾患や,IgA血管炎や炎症性腸疾患など特殊な治療が有効な疾患も否定できないため,慎重な対応が求められます.また,小児患者における消化管症状に対する鎮痛薬の選択肢は限られており,アセトアミノフェンや蒸しタオルを用いた温罨法が外来診療の主な対応策となる場合があります.一方,膵炎や胆石発作に対してはNSAIDsやオピオイドが有効であることも知られており,症例ごとに治療法を慎重に検討する必要があります.
小児消化器診療の基本は,問診と身体診察(子どもを泣かさない技術も重要)を通じて鑑別診断を絞り込み,必要な検査を迅速に行うことで診断を確定させるプロセスにあります.そのためには,以下のような体系的なアプローチが有用です.
3Cによる推定
まず「Common(よくみられる疾患)」「Critical(緊急性のある疾患)」「Curable(治療可能な疾患)」の観点から鑑別を進めます.
痛みの部位と解剖学的な関係の考察
痛みの解剖学的な部位に基づいて疾患を推測します(例:心窩部痛では胃十二指腸潰瘍や膵炎を考慮).
AIUEOTIPSによる網羅的な原因検索
アレルギー性疾患(A),感染症(I),腎障害(U)など,原因を幅広く検討するフレームワークを活用します.
A Allergy(好酸球性胃腸炎やFPIESなど)/Autoimmune/Acidosis
I Insulin(DKA)/Inborn errors of metabolism/Intussusception
U Uremia(腎障害など)
E Endocrinology/Electrolytes/Encephalopathy
O Overdose
T Trauma/Tumor
I Infection
P Psychiatric/Porphyria
S Sepsis/Seizure/Space—occupying lesion
Croskerryの6つの診断戦略
Croskerryの診断エラーに関する考え方をもとに,本書では以下の6つの診断戦略として整理しました2).これらは,小児消化器疾患のような複雑なケースでも応用可能であり,特に診断が難しい症例において効果的です.例えば,われわれは新生児の黄疸に関して紹介を受ければ,多くは母乳関連黄疸かもしれませんが,見逃しは許されません.この場合は,全ての鑑別疾患を考えたうえで,リストを削除していく「網羅的な探索」が必要な場合もあります.われわれ小児科専門医は,生涯で一度しか出会わない疾患も見逃さないように日々勉強し,鑑別疾患リストをアップデートしていく必要があります.
戦略 説明 利点 注意点
パターン認識 過去の経験に基づいて典型的な症例を認識する 迅速な診断が可能 初学者や新しい疾患には適用が難しい
最悪のシナリオの除外 生命を脅かす重大な疾患を最初に除外する 安全性が向上 その他の診断を見落とすリスクがある
網羅的な探索 可能性のある全ての疾患をリストアップし,一つずつ検討する 見落としが少ない 時間がかかり,非効率的
シャーロック・ホームズ的アプローチ 演繹的推論に基づいて矛盾のない診断を導き出す 論理的かつ体系的な診断が可能 時間がかかる場合がある
経験則 臨床経験に基づく直感的な判断を行う 迅速な診断が可能 経験に依存しすぎると誤診リスクが高まる
診断エラーと予防 診断後に判断を振り返り,エラーを学びとして次に活かす 継続的な学びが可能 振り返りに時間が必要
(Croskerry P. Diagnostic failure:a cognitive and affective approach. 20052)を参考に筆者作成)
本書では,これらの診断アプローチをもとに,小児消化器疾患に関連する症状や主訴について具体例を交えながら解説します.また,欧州,北米,日本のガイドラインに基づいた標準治療を,日本の現状に合わせて紹介し,読者が臨床現場で実践できる内容を提供します.
文献
1)NASPGHAN公認ポッドキャスト“Bowel Sounds”. https://naspghan.org/bowel-sounds/(北米のレジェンド小児消化器肝臓医たちの診療の実践を学べます)
2)Croskerry P. Diagnostic failure:a cognitive and affective approach. 2005. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK20487/
目次
はじめに
1.本書の目的と特徴
2.小児消化器診療の基本理念
I 総論:診察・評価・基本手技
1.問診のポイント
1.小児診療で問診が最重要視される理由と2段階アプローチ
2.年齢・発達段階による特徴的な問診のコツ
3.これだけは聞き逃せない問診の基本項目
4.症状日誌(排便日誌など)の活用方法
2.身体診察
1.身体診察の基本
2.発達段階に応じた患児とのコミュニケーション法
3.身長・体重・BMI・成長曲線,そして体組成も測定
4.NFPEと腹部診察
3.検査の解釈
1.血液検査の基本的な考え方
2.画像検査の基礎知識(腹部超音波検査,CT,MRI,造影検査など)
3.機能検査の概要(HRM,impedance monitor,EndoflipTMなど)
4.消化管内視鏡検査・肝生検の適応・手技と注意点
1.小児における消化管内視鏡(EGD/CS)の適応と準備
2.小児内視鏡における鎮静法の実践
3.肝生検の適応・合併症・施行時のポイント
II 小児の主訴・症候で学ぶ消化器疾患アプローチ
1.異物誤飲
症例:コイン? ボタン電池? 何かを飲んだ4歳女児
2.腹痛
症例:朝からの泣き叫ぶ腹痛,6歳男児
3.消化管出血
症例:3週間前からの下痢と血便,7歳女児
4.繰り返す嘔吐
症例:2か月ほど前からの食後頻回の嘔吐,15歳女性
5.便通異常
症例:3週間続く水様性下痢,14か月男児
6.体重減少・成長障害
症例:るい痩が目立ってきた脳性麻痺の5歳男児
7.ALT値が偶然にも高値(chance LFD)への対応
症例:服薬状況下でALTが上昇を続ける,14歳男児
8.乳児期黄疸
症例:眼球黄染の持続,生後25日男児
9.嚥下障害・ARFIDへのアプローチ
症例:食事中の食べ物の詰まり,胸痛,12歳男児
III 各論:疾患・病態別
1.機能性消化管疾患
1.機能性ディスペプシア
症例:8週間前からの心窩部痛とゲップ,12歳女児
2.過敏性腸症候群(IBS)
症例:半年前からの腹痛,12歳女児
3.機能性便秘・便失禁
症例:改善しない便秘,6歳男児
4.周期性嘔吐症
症例:1年に6回の激しい悪心・嘔吐,7歳男児
5.Rumination syndrome
症例:2か月ほど前からの食後頻回の嘔吐,15歳女性
2.消化管感染症 ウイルス性腸炎,細菌性腸炎,Clostridioides difficile腸炎を中心に
症例:経口抗菌薬内服後に腹痛・下痢が増悪した5歳女児
3.食道疾患 164
1.胃食道逆流・逆流性食道炎
症例:毎食ごとの嘔吐,軽快後の食後の喉の痛み,2歳女児
2.好酸球性食道炎
症例:小児喘息の既往,食事中に食べ物が詰まる,14歳女児
4.胃・十二指腸疾患 胃潰瘍・十二指腸潰瘍,
Helicobacter pylori関連疾患 180
症例:食後の心窩部痛,H. pyloriとの関係は? 15歳女児
5.小腸・大腸疾患 186
1—A.炎症性腸疾患(IBD) 概観 186
症例:改善しない下肢湿疹,2週間前からの腹痛,下痢,14歳女児
1—B.炎症性腸疾患(IBD) クローン病
1—C.炎症性腸疾患(IBD) 潰瘍性大腸炎
症例:1週間続く粘血便を伴う下痢,腹痛,4歳女児
1—D.炎症性腸疾患(IBD) VEO—IBD
症例:生後10か月からの下痢・血便,肛門病変の6か月男児
2.メッケル憩室 215
症例:1週間持続する暗黒色便,2歳男児
3.IgA血管炎 220
症例:泣き叫ぶ腹痛,耳たぶの紫斑,5歳男児
4.好酸球性胃腸炎 229
症例:小児喘息の既往,半年前からの心窩部痛にPPIでの
改善がない10歳女児
6.小児消化管の外科的疾患 236
1.胃軸捻転・腸回転異常 236
症例:過食後30分の急激な下腹部痛,嘔吐,4歳女児
2.腸重積 245
症例:30分おきの間欠的啼泣と血便,2歳男児
7.消化管アレルギー(FPIESとは?)
新生児・乳児食物蛋白誘発胃腸症 254
症例:ミルク哺乳後のショック状態,5か月女児
8.膵疾患 急性膵炎 265
症例:急激な嘔吐と心窩部痛,急性膵炎の既往がある12歳男児
9.肝疾患 272
1.急性肝炎・肝不全 272
症例:1週間ほど前からの下肢の浮腫,昨日からの眼球黄染,12歳男児
2.脂肪肝(MASLD)
症例:生活指導でALTが改善しない,BMI 35の15歳男児
3.薬物性肝障害(DILI) 290
症例:アモキシシリン・クラブラン酸使用中に ALT,γGTP高値を示した,8歳男児
主要文献・ガイドライン/コンセンサスステートメント 296
索引 301
COLUMN 11
1.カナダ・トロントの臨床留学事情
2.アメリカの臨床留学事情
3.鎮痛薬としてアセトアミノフェンの使用量が少量すぎませんか?
4.MALS(median arcuate ligament syndrome)とは?
5.生後3か月未満の遷延性下痢
6.SIBO(small intestinal bacterial overgrowth)とは?
7.PICU入室したら予防的にPPIを投与する?
8.好酸球性胃腸炎と消化管アレルギーの違い?
9.日本の静脈脂肪製剤は遅れている?