乳癌診療エッセンシャルガイド
内容
女性のよりよい未来のために,国内有数の症例数を誇る乳癌専門病院である相良病院の叡智をすべて伝授! 最新のガイドライン・国際基準を反映したベストマニュアル.画像・病理診断や乳房温存術・乳腺全摘術・再建術など手術手技から,近年注目の遺伝子パネル検査や妊孕性温存などの実際まで網羅.豊富な画像とエキスパートの知識や技術をまとめたTipsで臨床力をUPしよう.この1冊で乳癌診療のすべてを掴める必携書!
序文
推薦文
近年の乳がん治療の著しい進歩の中,臨床試験やBig dataなど科学的根拠に基づく標準的治療がガイドラインで示され,医療の均てん化が求められてきた.これまでの診断と治療に加え,遺伝性疾患としての治療や再建,新薬の治験などとともに,こころのケアや就労支援,妊孕性温存などを含めたサバイバーシップも注目されるようになってきた.乳がんという「病気」だけでなく「病をもったひと」を診る医療の大切さも唱えられるようになり,治療方針の決定には患者と医療者が情報とともに意思も共有する「Shared decision making」の重要性が認められている.一方,このような多様化・複雑化する乳がん医療を担当する医療者にとってリソースの有効活用とともに幅広い知識の取得や症例毎に最適な医療を考えていくことは決して容易なことではない.
IT革命後の科学技術の向上により,膨大な情報を得ることができるようになった社会においても,1冊の成書の意義は極めて大きいものがある.ひとりひとりの乳がん患者に適切な医療を提供するために診察室や外来,病棟などに「この1冊」が必要であることは今も変わりはない.この役目を果たすべき乳癌診療ハンドブックが10数年ぶりに改訂されることとなった.最近の乳がん医療におけるキーワードとして「De-escalation & escalation」や「個別化医療」,「ゲノム診療」,「遺伝性腫瘍」,「サバイバーシップ」などが挙げられるが,本書はそれらの多くを盛り込んだものとなっている.
乳がん医療においては,「流れ」がとても重要である.乳がんの個性ともいうべき,疫学と予防,病態と病理,診断,そして治療(手術,薬物療法,放射線療法),フォローアップ・サバイバーシップ,再発治療,臨床試験など,部分部分ではなく大きな流れの中で,乳がん医療というものを考えていく必要がある.また多岐にわたる患者の思い・願いに応えるためには多職種によるチーム医療が必須となる.本書は「相良病院」の多職種スタッフが総力をあげて取り組んだ成書である.多くの本が多数の施設の著者から書かれているのに対し,単施設の多職種スタッフで書き上げたことに驚きを抱くとともに,医療における流れが基本になっていることに大きな意義を感じざるを得ない.質の高い内容,わかりやすい図表,ヒントやコツとなるtipsなど,読者にとって乳がん医療の一連の流れの中でさまざまな局面で最適な医療を実施できる参考になるものとなっている.
長年にわたる患者・家族・医療者そして社会の努力・経験・知識・知恵などによって乳がん医療は発展してきた.先人の積み重ねた発見に基づいて新しい発見をするという意味の「Standing on the Shoulder of Giants」という言葉がある.「流れ」を大切に執筆された本書が広く利用され,最善の乳がん医療が創られていかれるものと信じ,推薦の言葉とさせていただきたい.
2022年2月
がん研究会有明病院乳腺センター
大野真司
------------------------------------------
序
本書は,乳癌診療に携わる医療者が必要とする情報を広く網羅し,日常臨床で取り組むべき事項を簡潔にまとめることを目的として,当院や関連施設,大学の専門職の方々を中心に執筆した.乳癌医療の発展は日進月歩であるため,新たな情報をアップデートし,患者の生存率や生活の質の改善につながる信頼性の高いエビデンスを臨床に応用していくことがとても重要である.2005年に福富隆志先生が編著し出版された乳癌診療ハンドブックの初版から15年以上経過し,乳癌治療は大きく変化している.まず,乳癌検診による早期発見や乳癌のサブタイプに基づいた治療選択と薬物療法の発展によって患者さんの予後は大きく改善している.
質の高い医療を実践するためには,乳癌の急性期における診断・治療から,慢性期において患者が直面する問題への対応,エンドオブライフまで,多職種・専門職によるアプローチが非常に重要である.それを可能にするためには,皆が正しい知識を理解し,実践するために協力していくことが大切になってくる.本書では,画像・病理診断,オンコプラスティックサージャリー手技を含めた乳房温存術や乳腺全摘術,乳房再建術,また近年重要性が更に高まっている遺伝性乳癌やがん遺伝子パネル検査,妊孕性温存や就労支援,晩期合併症などのサバイバーシップ関連,看護師による意思決定支援,アドバンスケアプランニング(ACP)など,幅広く実践的な臨床上のトピックを網羅した.最新の知見を織り込み,根拠となる臨床研究の参考文献をつけて頂いた.また,当院における診療上の工夫や取り組みについてもなるべく紹介するようにした.
本書が乳癌患者の生存率や生活の質改善の一助になってくれればと願っている.最後に,本書作成に際し多大なるご協力いただいた執筆者の方々,このような機会を与えて頂いた中外医学社の上岡里織様に感謝を申し上げて,序文の辞とさせていただきたい.
2022年2月
相良安昭
目次
目 次
1 乳癌治療の変遷〈藤木義敬〉
2 疫学・予防
●A 日本人女性の乳癌罹患数の変遷,好発年齢 〈相良安昭〉
●B 乳癌のリスク因子 〈相良安昭 城田京子〉
●C 遺伝性腫瘍としての乳癌/遺伝カウンセリング 〈西 光代 金子景香 川野純子〉
●D 一次予防,二次予防のエビデンス
(1) 一次予防(運動,食事,生活習慣) 〈相良安昭〉
(2) 二次予防(検診)−乳がん検診について 〈馬ノ段彩〉
3 乳癌の病態と病理
●A ホルモン環境 〈玄 安理〉
●B 乳癌の病理 〈大井恭代〉
●C 乳癌の病態とバイオロジー評価 〈大井恭代〉
●D 乳癌とまぎらわしい疾患 〈玄 安理 大井恭代〉
●E 病理検体の取り扱い 〈前田ゆかり 大井恭代〉
4 乳癌の診断
●A 問診・視触診 〈藤木義敬〉
●B 画像診断 〈戸崎光宏 佐々木道郎〉
(1) マンモグラフィおよび乳房トモシンセンス
(2) US
(3) MRI
(4) PETとその他
●C 細胞診・針生検 〈満枝怜子〉
●D ステージング 〈藤木義敬〉
5 乳癌の治療総論
●A バイオロジーとステージに応じた治療方針 〈四元大輔〉
●B 宿主の状況に応じた治療方針 〈権藤なおみ〉
●C 乳癌初期治療における看護師の役割 〈戸畑利香 江口惠子〉
6 手術療法
●A 局所解剖 〈金光秀一 権藤なおみ〉
●B 術前検査のポイント 〈佐藤 睦〉
●C 術式の選択 〈金光秀一〉
●D 乳房部分切除術:マーキング,術中断端評価 〈佐藤 睦〉
●E 乳房全切除術 〈寺岡 恵〉
●F 腋窩手術 〈金光秀一〉
●G 乳房再建術 〈野元清子 矢永博子〉
●H 手術合併症 〈寺岡 恵〉
7 周術期における薬物療法
●A ルミナルタイプ 〈柏葉匡寛〉
●B HER2タイプ 〈柏葉匡寛〉
●C トリプルネガティブ(TN)タイプ 〈柏葉匡寛〉
●D 乳癌術後の予後や治療効果の予測 〈國仲弘一 相良安昭〉
8 術後放射線治療 〈東龍太郎 仙波明子 土持進作〉
9 術後フォローアップ・サバイバーシップ
●A 術後フォローアップ 〈満枝怜子〉
●B 乳癌の治療中および治療後におけるサバイバーシップ 〈相良安昭〉
●C 晩期合併症 〈玄 安理〉
●D 就労支援 〈金光秀一〉
●E 妊孕性温存 〈城田京子〉
10 転移・再発乳癌
●A 局所・領域再発 〈國仲弘一 東龍太郎〉
●B 転移性乳癌(再発,de-novo)
(1) 薬物療法転移性乳癌の治療方針 〈太良哲彦〉
(2) 原発巣 〈國仲弘一〉
(3) 脳転移 〈東龍太郎 満枝怜子〉
(4) 骨転移 〈東龍太郎 満枝怜子〉
(5) オリゴ転移 〈東龍太郎〉
●C がん遺伝子パネル検査 〈金光秀一〉
●D Oncologic emergency 〈満枝怜子〉
●E 治癒困難な患者に対するアドバンス・ケア・プランニング〈山本瀬奈 江口惠子〉
11 臨床研究の運用 〈脇いくみ 太良哲彦〉
12 薬物療法副作用マネージメント・ケア 〈柿本智広 小峰歩美 太良哲彦〉
薬物療法レジメンリスト
索引