緩和治療薬の考え方,使い方 ver.3
内容
痛み,吐き気,食欲不振,呼吸困難,消化管閉塞,便秘,倦怠感,眠気,不眠,不安,抑うつ,せん妄……患者さんの苦痛の訴えに適切に対処し,効果的な緩和ケアを行うための考え方と薬の使い方について,エビデンスと著者の長年の臨床経験に基づき明快にまとめました.第3版では定番の薬のオーソドックスな使い方を中心としつつ,増え続けるエビデンスの大局を俯瞰的に整理し,最新の国際ガイドラインも幅広く網羅しました.
序文
3版への序
大幅改訂せねば‼─次々出る臨床試験とガイドラインに急かされるように全面改訂しました.
今回特に意識した点が3つあります.
1つ目は,増え続けるエビデンスの大局観がわかるようにしたことです.この数年緩和ケアでも臨床研究がものすごい勢いで増えていて,コクランレビューをはじめとして系統的レビューが行われるようになってきました.しかしながら,結論をみると,「あれ,元の研究そんなこと言ってたっけ?」と思うことがしばしばあります.これは,対象集団,治療方法,アウトカムが研究によってばらばらなのを無理にひとつにまとめようとするためです.ひとつひとつの研究を読むとなんでそういう結論になったのか納得できますが,個々の研究をすべて読むわけにもいきません.本書では,臨床をするうえで知っておいたほうがいいエビデンスの大局観がわかる表を入れて,紹介する論文は国際的に一定の評価が得られているもの(国内のものでも国際的な考え方と矛盾していないもの)を選択しました.
2つ目は,ESMOなど国際的なガイドラインでも緩和ケアのテーマがぐんと増えましたので,国際的なガイドラインについて記載をまとめています.国内で普通と思っていることの海外での位置づけはどうなのだろうかという視点からもながめられますし,海外のガイドラインのなかでも年々変わってきている内容があることもわかります.これも大局観をつかむというコンセプトに応じたものです.特に2018年にWHOの疼痛ガイドラインが稀にみる大改訂になり,いままでの経験的な記述から一線を画すものになりました.EAPC(ヨーロッパ緩和医療学会)の疼痛ガイドラインも2020年に改訂なのですが,社会情勢のために遅れそうで今回は盛り込めませんでした.
3つ目は,2版からの流れとして,「まあこの辺がオーソドックスではあるだろう」という柱が明確になるようにするという路線を継続しました.この辺の大筋は(ちょこちょこ臨床研究が出ても)大きくは変わらないだろうという内容,自分が診療をして実際に経験していることで自信をもって書けることを中心にすえています.筆者の性向なのか,もういい加減歳をとってきたせいなのか,「新しく出た薬をバンバン使う」というより「定評のある薬をしっかり使う」(これまでのやり方で不具合がある領域に限って新薬を使っていく)というやり方になっています.本書であまり詳しく記載されていない「新しく出た〇〇」に物足りなさを感じた読者はほかの著者の本もあわせて読んでいただけるといいと思います.またマニュアル系の本はいまやいっぱいありますので,細かい使い方や処方例よりも,背景にある考え方を中心に記載しています.
本書は,2014年3月に1版,2017年10月に2版と改訂しており,今回2021年6月でだいたい3〜4年ごとの改訂になっています.改訂ペースとしては妥当かと思いますが,改訂のたびに分厚くなっており,読者諸氏のご意見をいただきながらコンパクトにせねば……と思っています.また,改訂中に筆者が思っていたより間違いが多くみつかりましたが,初版以降目くじら立てずにあたたかくみてくだった諸氏に感謝です.本書が引き続き,「哲学のある1冊」と感じてもらえれば著者としてありがたいことです.
2021年5月
森田達也
目次
目次
§1-1 痛みに対する薬 オピオイド総論
A.ものすごく単純化したオピオイドのイメージ
B.古典的WHOラダーと現代版ラダー
C.現実的な使用パターン
D.オピオイドの特性についてのエビデンスのまとめ
E.オピオイドの特性に従った使い分け
F.オピオイドの換算
G.オピオイドの副作用対策
H.オピオイドの使い方全般に関するエビデンスのまとめ(マニア向け)
I.オピオイドの使い方全般に関するガイドラインでの推奨
J.オピオイドの換算表
§1-2 痛みに対する薬 オピオイド各論
A.オキシコドン(オキシコンチンⓇ,オキノームⓇ,オキファストⓇ)
B.フェンタニル(フェントスⓇ,フェンタネストⓇ,アブストラルⓇ,イーフェンⓇ)
C.モルヒネ
D.トラマドール(トラマールⓇ,トラムセットⓇ,ワントラムⓇ)
E.タペンタドール(タペンタⓇ)
F.ヒドロモルフォン(ナルサスⓇ,ナルラピドⓇ,ナルベインⓇ)
G.メサドン(メサペインⓇ)
H.ブプレノルフィン(ノルスパンテープⓇ,レペタンⓇ)
I.オピオイドのエビデンスのまとめ(マニア向け)
資料 オピオイドの代謝と腎不全・透析時の対応
§2 痛みの治療薬:鎮痛補助薬
A.ガバペン誘導体(ガバペンチノイド):プレガバリン(リリカⓇ),ミロガバリン(タリージェⓇ),ガバペンチン(ガバペンⓇ)
B.デュロキセチン(サインバルタⓇ)
C.アミトリプチリン(トリプタノールⓇ)
D.リドカイン(キシロカインⓇ)
E.ケタミン(ケタラールⓇ)
F.ステロイド
G.カルバマゼピン(テグレトールⓇ)
H.鎮痛補助薬に関するガイドラインでの推奨
I.鎮痛補助薬に関するエビデンスのまとめ(マニア向け)
§3 非オピオイド鎮痛薬
A.アセトアミノフェン(カロナールⓇ,アセリオⓇ)
B.経口NSAIDs:ロキソプロフェン(ロキソニンⓇ),ナプロキセン(ナイキサンⓇ),メロキシカム(モービックⓇ),セレコキシブ(セレコックスⓇ)
C.非経口NSAIDs:ジクロフェナク(ボルタレンⓇ坐薬),フルルビプロフェン(ロピオンⓇ)
D.アセトアミノフェンとNSAIDsをオピオイドに併用する意味
E.アセトアミノフェンとNSAIDsのエビデンスのまとめ(マニア向け)
§4 呼吸困難の治療薬
A.モルヒネ
B.コデイン
C.抗コリン薬(ハイスコⓇ,ブスコパンⓇ)
D.呼吸困難に対するガイドラインのまとめ
§5 悪心・嘔吐の治療薬
A.メトクロプラミド(プリンペランⓇ)
B.プロクロルペラジン(ノバミンⓇ)
C.抗ヒスタミン薬(ポララミンⓇ,トラベルミンⓇ)
D.多次元受容体拮抗薬(MARTA),ノルアドレナリン・セロトニン作動性抗うつ薬(NaSSA)
§6 食欲不振の治療薬
A.Early satietyの治療薬:ドンペリドン(ナウゼリンⓇ)とメトクロプラミド(プリンペランⓇ),モサプリド(ガスモチンⓇ)
B.ステロイド製剤:ベタメタゾン(リンデロンⓇ),メドロキシプロゲステロン(ヒスロンⓇH)
C.がん悪液質に対する治療
D.ASCOのガイドライン
§7 消化管閉塞の治療薬
A.オクトレオチド(サンドスタチンⓇ)
B.ブチルスコポラミン(ブスコパンⓇ)
§8 便秘の治療薬
A.酸化マグネシウム(マグミットⓇ)
B.センノシド(プルゼニドⓇ)
C.ピコスルファート(ラキソベロンⓇ)
D.ラクツロース(モニラックⓇ,ラグノスⓇゼリー)
E.ナルデメジン(スインプロイクⓇ)
F.便秘に有効な漢方薬
G.上皮機能変容薬:ルビプロストン(アミティーザⓇ),リナクロチド(リンゼスⓇ),エロビキシバット(グーフィスⓇ)
H.PEG:ポリエチレングリコール(モビコールⓇ)
I.MASCCとESMOのガイドライン
§9 倦怠感・眠気の治療薬
A.精神刺激薬:メチルフェニデート(リタリンⓇ),モダフィニル(モディオダールⓇ),ペモリン(ベタナミンⓇ)
B.眠気に対するその他の薬
C.ベタメタゾン(リンデロンⓇ)
§10 不安・抑うつの治療薬
A.ベンゾジアゼピン系抗不安薬:アルプラゾラム(ソラナックスⓇ),ロラゼパム(ワイパックスⓇ),クロナゼパム(リボトリールⓇ)
B.SSRIとSNRI
C.鎮静系抗うつ薬:アミトリプチリン(トリプタノールⓇ),ミアンセリン(テトラミドⓇ),ミルタザピン(リフレックスⓇ)
D.ESMOのガイドライン
§11 不眠の治療薬
A.超短時間作用型睡眠薬:ゾルピデム(マイスリーⓇ),エスゾピクロン(ルネスタⓇ)
B.短時間作用型睡眠薬:ブロチゾラム(レンドルミンⓇ)
C.中時間作用型睡眠薬:フルニトラゼパム(サイレースⓇ)
D.トラゾドン(デジレルⓇ)
E.ラメルテオン(ロゼレムⓇ)
F.スボレキサント(ベルソムラⓇ)
§12 せん妄の治療薬
A.ハロペリドール(セレネースⓇ)
B.クエチアピン(セロクエルⓇ)
C.リスペリドン(リスパダールⓇ)
D.クロルプロマジン(コントミンⓇ)
E.オランザピン(ジプレキサⓇ),ペロスピロン(ルーランⓇ),アリピプラゾール(エビリファイⓇ)
F.ミアンセリン(テトラミドⓇ)
G.せん妄の薬物療法のガイドライン
§13 鎮静の治療薬
A.ミダゾラム(ドルミカムⓇ)
B.フェノバルビタール(フェノバールⓇ)
C.坐薬で使用する鎮静薬:ブロマゼパム(セニランⓇ),ジアゼパム(ダイアップⓇ),フェノバルビタール(ワコビタールⓇ)
§14 コクランレビューのまとめ
資料
A.聖隷三方原病院麻薬フォルダオーダーセット
B.緩和ケア病棟入院時指示の一覧
C.院内製剤
column
NNT(Number needed to treat)とは?
緩和ケアにおける有効率の定義