キレやすい開業医が伝える クリニックアンガーマネジメント
内容
病院やクリニックなど,医療現場は特に「怒り」が充満しやすい場所の一つです.治療が奏功しない患者や待ち時間に耐えられない患者の発する怒り,スタッフに声を荒げる怖い院長,逆に院長がスタッフと人間関係を構築できず悩むことも……本書では,「キレやすかった」と自認する著者のアンガーマネジメント実践後の自身や自院の変容をふまえ,医療現場におけるアンガーマネジメントの効能と方法について解説します.
序文
はじめに
アンガーマネジメントは「怒りという感情と上手に付き合う」ための心理教育、心理トレーニングで、1970年代にアメリカで生まれたとされています。一般社団法人日本アンガーマネジメント協会はアンガーマネジメントについて「怒りの感情で後悔しないこと」とし、常に怒らない自分になることではありません。怒る必要のあることに対しては上手に叱り、怒る必要のないことに対しては怒らないようにすること、つまり、感情的にならずに怒りを自分でコントロールできるようになることがアンガーマネジメントです。
世の中は新型コロナウイルス感染症に揺れる2021年、以前より自著の出版でお世話になっている中外医学社の岩松さんから、ドクターのアンガーマネジメントに関する本を書いてみないか、とお話がありました。
開業してから13年が経ち、組織が大きくなっていくに連れ、自分の仕事のウエイトが、医師としてよりも経営者としてのものへと移行しています。さらに新型コロナウイルス感染症によるパンデミックなど、社会環境の変化によるストレスも増えたことで、考えなければならないことも増加しています。思うようにならないことが増えてくるとイライラし、些細なことにも腹が立つなど自分自身の怒りのコントロールがますます大切になっていることを実感しています。また、どのような状況下でもクリニック運営を軌道に乗せ、クリニックが発展していくために、欠かせないポイントの一つがスタッフも含めたアンガーマネジメントであることも13年間の経験でわかってきました。
私自身もまだまだアンガーマネジメントできているとは言いきれませんが、13年前に比べれば飛躍的に改善されているとは思っています。開業した頃、ただただ感情に任せて、時間と場所を考えずに自分の思い通りに動かないスタッフに声を荒げ、同じチームで働く上で重要な信頼関係が決定的に壊れてしまい、そもそもの問題の解決に繋がらなかったばかりか、クリニック全体の雰囲気はダダ下がり……。挙句の果てには採用したスタッフは辞めていくという事態を招いていたのを思い出します。
今は、少なくともスタッフたちとクリニックの理念を共有し、同じ目標に向かって協力しながら、それぞれの職責を果たしていると感じています。
クリニックという組織の中では、トップである私だけでなく、看護師さんをはじめとする医療従事者すべてが、自らをアンガーマネジメントする必要があります。組織のトップにいる院長が背中で示す、トップとしての私の在り方がスタッフに及ぼす影響は大きいと思います。私は元来アンガーマネジメントの達人ではなく、むしろ逆で怒りっぽい方なのですが、だからこそ、私の試行錯誤は同じ医師の方には参考になるでしょうし、自分にとってももう一度自分の在り方を見直すチャンスになります。自分と自分のクリニックのアンガーマネジメントに関するアレコレを書かせていただく意義は大きいと感じました。そこで、「ぜひ書かせてください」と二つ返事でこの本をお受けすることにしました。
今まで私は、経営者として様々な学びの場を踏んできましたが、アンガーマネジメントに関しては、本場アメリカで学ばれ、日本におけるアンガーマネジメントの第一人者、日本アンガーマネジメント協会代表理事の安藤俊介さんの『アンガーマネジメント入門』(朝日文庫)という本を読んだのが最初でした。
読んでまず、怒ることは人の持つ大切な感情の一つであるから、アンガーマネジメントにおいては怒りそのものは否定するものではない、と書かれているところに強く安心感を覚えました。そして、そこに書かれている「怒ってしまったことで、その自分を否定し後悔しないようにする」ための方法は、想像していたよりハードルが低く、これなら自分も取り組めるのではないかと思ったことを覚えています。
私は幼い頃から、経営者としては先輩である父が、しばしば部下を怒鳴っている場面をよく目にし、その様や空気感にとても不快な気持ちを持っていました。また父は、お酒を飲んで酔った時に、愚痴のように部下や知人の悪口を言っていることもありました。私はそれを嫌い、そういうことだけは絶対したくないとずっと思っていました。ですから、自分は大人になってもそうはならないつもりでいましたが、開業して経営者となった時、無意識のうちに自分も父と同じようにスタッフに怒鳴り散らしていたことにハッと気付いて落ち込んで、さらにストレスを溜めたこともありました。そのことについて安藤先生の本には、私たちの感情表現は両親、特に男子は父親のコピーと言っても過言ではない……と書いてあり、大いに納得することができました。また、そうわかったことでスーッと楽になり、「ストレス→怒り→さらなるストレス→さらなる怒り→ストレス」という負の循環を防ぐことができるようになりました。
何かとストレスの多い昨今、アンガーマネジメントに関する本は書店にたくさん並んでいます。私もこの本を書くにあたって多くの本に目を通しました。そしてわかったことは、アンガーマネジメントのノウハウの基本は同じ、安藤先生がアメリカから日本へ紹介し、日本アンガーマネジメント協会で提唱している方法を取り入れたものです。それらを読破したうえで、私にとっては、怒りやすい自分を根本から改善する方法の一つとして、マインドフルネス瞑想を取り入れることが自分の怒りという感情と上手く付き合うことに合っていると感じています。
私は、クリニックを経営する医師としての自身の経験をもとに、自分自身のアンガーマネジメントばかりでなく、スタッフへのアンガーマネジメント教育、さらには患者さんやスタッフからのクレームや自分に向けられた怒りへの対応についての私のやり方、私の取り組み方も紹介したいと思っています。なぜなら、クリニックをめぐる様々な怒りは、どのクリニックでもほぼ同じでしょうし、その怒りを上手くコントロールすることが、クリニックの発展につながると考えているからです。
先ほども言いましたが、私もアンガーマネジメントに関しては達人ではありません。また、私の取り組み方が誰に対してもベストなわけではありません。しかし、この本を読んでくださった皆様にアンガーマネジメントに興味をもっていただくこと、そして、実践してみようと思ってくださった方には、その際の一つのヒントになれれば幸いです。私自身もさらに怒りのコントロールが上手くなることを目指しながら、家族、クリニックの仲間や患者さん、友人……などなど、私の周囲の人たちみんなと楽しく活力ある毎日を過ごしたいと思っています。
医療法人社団梅華会理事長開業医コミュニティM.A.F主宰
梅岡比俊
目次
目 次
I 基礎編
§1 アンガーマネジメントの“基本のキ”
怒りの感情が生まれる仕組み
怒りの解決方法
§2 医師にとってのアンガーマネジメント
クリニックのスタッフに対するアンガーマネジメント
患者さんに対するアンガーマネジメント
§3 なりたい自分に目を向ける
>休憩室:現場の声(1)Sさんの場合
II 実践編
§1 効果的な怒りの伝え方
相手を理解する
女性の特性を知る:存在を承認する
たまったストレスを上手く発散する
物事の定義付け
§2 上手な怒りの受け止め方
職場環境を整える
チームメンバー全員のアンガーマネジメント
患者さんのクレーム
§3 梅岡の体質改善セラピー「マインドフルネス瞑想」
>休憩室:現場の声(2)Iさんの場合
III 対談編:医療業界におけるアンガーマネジメント
多様性から生まれる怒り
怒りやすい人は人権意識も低い
怒りのメカニズムと対処法
アンガーマネジメントがもたらすもの
医療現場のアンガーマネジメント
ストレス耐性
「不機嫌な人」を黙認しない
異なる意見を受け止める
医師自身の怒りをどう処理するか
ニュースやSNSとの付き合い方
おわりに
>休憩室:現場の声(3)Yさんの場合
おわりに