ICU思考のつくりかた
出版社からのコメント
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内容
ICUでの急変対応から蘇生後の管理までを7日間の研修形式で学ぶ!
神戸市立医療センター中央市民病院のICUで毎朝行われている教育回診の内容をベースに構成された病棟回診マニュアル.7日間の短期研修に参加しているような感覚で読むことができ,ICUでよく遭遇する疾患や心肺蘇生後,術後管理などを中心にベッドサイド回診で出会う具体的なケースを挙げながら,指導医と研修医の会話形式も交えてわかりやすく解説.重症管理の基本から集中治療における患者管理の考え方まで,ICUでの動き方,考え方がわかる必読書.
序文
序
枯木に花咲たりといふとも,先,生木に花さく故をたづぬべし
三浦梅園「三浦梅園自然哲学論集」 1)
集中治療専門医の数は2,326名 2).世界に生息するパンダの数よりちょっと多いぐらいしかいません.私が以前所属していた神戸市立医療センター中央市民病院ICU(以下,港島ICU)には,そんな希少種とも言える集中治療専門医が大勢いました.港島ICUには多くの集中治療フェローが在籍し,臨床・教育・運営で重要な役割を担っています.集中治療フェローの目標はICUを立ち上げる力を身につけること.私は初代の集中治療フェローでした.現在私は福岡の飯塚病院で新たな組織づくりに励んでいます.そんな集中治療フェローを経験した気の置けない仲間たち(Goodfellas)の,集中治療を広めたいという思いによって本書は作られました.ちなみに『Goodfellas(グッドフェローズ)』という映画がありますが,Goodfellasはマフィア界の隠語で「自分と同じ組織の所属にある者」 3)という意味もあるそうです,知らんけど.
多くの施設では,集中治療専門医から学ぶ機会は少ないかもしれません.本書は,初期研修医や集中治療を志す若手医師,集中治療を行う機会のある各科専門医に向けて書いていますが,指導医クラスの先生にもティーチングの参考として楽しんでいただけるのではと期待しています.また,看護師,薬剤師といったICUで働くメディカルスタッフの方にも集中治療医の考え方に触れていただく機会になるといいなあと思っています.
港島ICUでは毎朝ベッドサイドで多職種回診を行います.それは治療方針の意思決定の場としてだけでなく,ローテーターの教育の場としての役割も担っています.本書はその回診を再現し,集中治療の基本的アプローチを学ぶことを目的としています.あたかも港島ICUに短期研修に来たかのように.
本書は「魚を与えるのではなく,魚の取り方を教える」という,単なるマニュアルやHow To本ではなく,考える道筋を訓練することを目指しています.治療方針の決定は,患者さんごとに個別化されるものであり,絶対的な正解があるわけではありません.本書に書いてあるアプローチがすべてではありませんが,本書が重症患者さんの診療に興味を持ち,新たな問いを立てる手がかりになればと願っています.
集中治療と言えば,「ECMOで劇的救命!」といった華々しいイメージを持たれる方もいらっしゃるかもしれません.しかし,集中治療の本質は,患者さんの回復を邪魔しないように支持療法を行うという地味なものだと思います.例えば人工呼吸は,人工呼吸「治療」とは言わず,人工呼吸「管理」と呼びます.人工呼吸自体は「治療」ではなく,むしろ患者さんの肺に人工呼吸器関連肺障害(VALI)を引き起こしうる“害”となりえます.患者さんの呼吸機能が回復するまでの間に,その害を最小限に抑える「管理」が必要なのです.害を起こさず,当たり前のように回復してもらうこと,これが集中治療の目指すべき姿ではないかと思うのです.
冒頭の言葉は,「枯れ木に花咲くに驚くより,生木に花咲くに驚け」として有名かもしれませんが,江戸時代の思想家で医師でもあった三浦梅園の言葉です.枯れた木に花が咲くと誰しもが驚きますが,生きている木が花を咲かせるという,一見当たり前なことにこそ本当は驚くべきだという意味です.劇的救命というのは枯木に花を咲かせるようなことかもしれません.しかし,重症患者さんが何事もなかったように改善し,「ICUに入るまでもなかったな」と思ってもらえるような管理を目指すべきではないでしょうか.それは生木に花が咲くような目立たぬものです.しかしそれによって,患者さんの人生にももう一度花を咲かせることができると信じています.
さあ,集中治療を学ぶ旅に出ましょう.港島ICUへ,ようこそ.
前作から引き続き中外医学社の宮崎雅弘さんには大変お世話になりました.また,いろいろ無理を聞いてくださった担当編集の桑山亜也さんにも感謝しております.私が初代の集中治療フェローだったというだけで,いまだにいろいろな頼みを聞いてくれる優秀なフェローとOBのみんな.みんながいないと本書は生まれませんでした.そしてフェローたちの育ての親である港島ICU室長の瀬尾龍太郎先生,下薗崇宏先生,いつも支えてくださった部長の美馬裕之先生をはじめとした港島ICUスタッフのみなさんにも感謝しています.新たな視点を与えてくれた飯塚病院ICUスタッフのみんなにも.そして本書を手に取ってくださったみなさまにも.すべての出会いにより本書があります,深く感謝いたします.
2022年,年の瀬.新年の神戸に響く汽笛の音を思い出しながら.
飯塚病院 集中治療科
川上大裕
1)尾形純男,島田虔次,編注訳.三浦梅園自然哲学論集.岩波文庫; 1998.
2)2022年4月時点.
3)Wikipedia〔https://ja.wikipedia.org/wiki/グッドフェローズ(2022年12月19日閲覧)〕より.
目次
目 次
ようこそ,港島ICUへ〈川上大裕〉
DAY 1 下部消化管穿孔後の敗血症患者〈川上大裕〉
Dr.川上の学習ポイント
1●ICUにおける鎮静/鎮痛/せん妄管理〜PADISガイドライン
2●SBT(spontaneous breathing trial)と抜管
3●循環管理 〜酸素需給バランスと灌流圧の維持
4●ショックの分類と初期評価
5●ボリューム評価
DAY 2 結石性腎盂腎炎による敗血症患者〈建部将夫〉
Dr.建部の学習ポイント
1●SOFAとqSOFA〜Sepsis3〜
2●敗血症の管理〜SSCG2021〜
3●重症患者の栄養療法
4●ICUでの予防
5●血液ガスの解釈
6●ICUにおける新規の心房細動(NOAF)
DAY 3 肺炎・ARDS患者〈伊藤次郎〉
Dr.伊藤の学習ポイント
1●人工呼吸管理の適応と目的
2●人工呼吸器のモード
3●人工呼吸管理中のモニタリング
4●ARDSの肺保護換気
5●ARDSに対するステロイド使用
DAY 4 急性腎盂腎炎・急性腎不全患者〈土田高裕〉
Dr.土田の学習ポイント
1●AKIの定義,鑑別,管理
2●CRRTとIRRTの違い
3●CRRT原理
4●CRRT開始基準,終了基準,処方量
5●ヘパリンとナファモスタット
6●HIT
DAY 5 縊頸による心肺停止蘇生後の患者〈三好祐輔〉
Dr.三好の学習ポイント
1●二次性脳損傷予防とTTMプロトコル
2●予後評価
3●医療倫理〜4原則と4分割表
4●ICUでの発熱の評価
5●VAP,CRBSI,CA-UTI
6●ベイズの定理
7●認知バイアス
DAY 6 院内急変対応・Rapid Response System〈野浪 豪〉
Dr.野浪の学習ポイント
1●RRS(Rapid Response System)について
2●重症患者の見分け方,初期評価
3●ノンテクニカルスキル
4●重症患者の院内搬送
5●医療安全
DAY 7 クリニカルクエスチョン(CQ)に出会ったら〈大内謙二郎〉
7.1 CQの分類
7.2 前景疑問に対する情報収集
Dr.大内の学習ポイント
1●前景疑問のカテゴリー
2●EBM情報源のピラミッド
3●PubMed検索のテクニック
7.3 系統的レビュー(SR)の読み方と患者への適用
Dr.大内の学習ポイント
●治療の疑問に関する系統的レビュー結果の読み方
7.4 Step5 フィードバックとまとめ
Dr.大内の学習ポイント
●本稿で述べたEBM(7.2〜7.4)のまとめ
COLUMN
●ABCDEFバンドルとPICS
●SIRS,NEWS,MEWS
●昇圧薬の使い分け
●ICUにおける血小板減少症
●POCUS(Point of care ultrasonography)
●背景疑問と前景疑問のイメージ
●そのガイドラインは,診療ガイドライン(CPG)か? それとも診療ガイダンス(CG: clinical guidance)か?
●Google Scholarの使いどき
●Surviving Sepsis Campaign Guidelines(SSCG)
●EBMの5ステップと診療ガイドライン(CPG)の作成過程