症例から学ぶ 輸入感染症 A to Z ver.2
内容
海外渡航者やインバウンドが増加し続ける現在、いかなる医療機関においても輸入感染症に遭遇する可能性は少なくありません。大幅改訂となったver.2では、マラリアやデング熱などのメジャーな疾患から近年話題のジカウイルス感染症やエボラウイルス病、さらには見落としてはいけないマイナーな感染症まで、国内で遭遇しうる輸入感染症の診療について忽那、上村の師弟コンビがさらにゆる〜く解説します。
序文
第2版の序
『症例から学ぶ 輸入感染症 A to Z』を書いて4年が経ちました.4年前に私がこの本を書いていた頃,西アフリカではエボラウイルス病(エボラ出血熱)が流行しており,いつ日本にも輸入症例が発生するかと戦々恐々の状況でした.国内では9例の疑似症が発生したものの,確定例はなく2016年3月には西アフリカでの流行も終息しました.その後,2015年には韓国でMERS(中東呼吸器症候群)がアウトブレイクしました.これも日本への輸入例が危惧されましたが,持ち込まれることなく韓国でのアウトブレイクも終焉しました.さらには,2016年にはジカウイルス感染症の中南米での大流行がみられ,ジカウイルスに感染した妊婦から生まれた新生児が小頭症をはじめとする先天性ジカウイルス感染症の症状がみられたことから大きな社会問題となりました.何を隠そう,私はジカウイルス感染症の国内輸入例の最初の3例を診断しており,第1版にもその1例について「こんな珍しい蚊媒介感染症もあるんだよ〜」という感じで紹介していたのですが,まさかこの感染症がこんなに大事になるとは思いもしませんでした…….2017年にはブラジルで黄熱が流行し,そしてマダガスカルではペストが流行しました.
というわけで,本書が出た後も輸入感染症を巡る状況は刻一刻と変わっています.ありがたいことに,私はこの2018年1月から国際感染症対策室 医長を拝命し,まさに日本を輸入感染症から守るための仕事に就くことになりました.私にとって天職だと思っています.しかし,もちろん私一人で日本を輸入感染症から守ることはできません.本書が皆さまの輸入感染症の診断・治療のお役に立ち,またそれが日本を輸入感染症から守るための一助となれば幸いです.
2019年3月
忽那賢志
初版の序
本書のタイトルは『症例から学ぶ輸入感染症A to Z』です.最初にお断りしておきますが,看板に偽りあり,です.本書は輸入感染症のすべてを網羅しているわけではありません.実臨床で遭遇する頻度が高い疾患については網羅していますが,無鉤条虫症やスナノミ症などの疾患は扱っていませんし,MERSやインフルエンザH7N9などについても触れていません(初版時).読者の方が「過大広告だ!」と訴訟を起こされる前に自己申告しておきたいと思います.
本書は「日本で」輸入感染症を診療する際の一助となることを目的として作成いたしました.熱帯感染症やトラベルメディシンの良書はすでにたくさんありますし,私ごときがかなうべくもありません.また,日本国内には私よりも熱帯感染症やトラベルメディシンの造詣が深い先生がたくさんいらっしゃいます.しかし……しかし,なぜ私が本書を書くに至ったかと申しますと,こと「日本で輸入感染症を診る」という点においては,それなりに自負があるからであります.アフリカで診るマラリアと日本で診るマラリアは同じ感染症であっても違います.それは診断へ至る過程の鑑別疾患であったり,検査方法であったり,また治療方法であったり.この本は「日本で」輸入感染症をどう診るのかという視点から書かれており,同じく日本で実臨床をされている臨床医の先生方のお役に立てるのではないかと思っております.
実は本書を書き始めたきっかけは,国立国際医療研究センター国際感染症センター(DCC)で出版予定の『グローバル感染症マニュアル』という本のコラムでした.そこで本書のような「症例から学ぶClinical Problem Solving形式」を取り入れてみたのですが,どうにも前衛的すぎたのか編集者の方に「ちょちょ,ちょっとこれは……(絶句)」ということで不採用になってしまいました.危うくお蔵入りになりかけたところに,中外医学社の岩松さんが「いいですね!」と言ってくださりトントン拍子に書籍化ということになってしまいました.中外医学社の英断(なのかどうなのかわかりませんが)に感謝いたします.本書を書き始めたのは2014年12月ですが,あまりにトントン拍子に進みすぎたため,元々の『グローバル感染症マニュアル』と発売時期が被りそうなのでちょっと気まずいのですが,『グローバル感染症マニュアル』は輸入感染症だけでなく渡航前相談も詳しく載っていますし,マニュアル本として使っていただくことを想定しています.輸入感染症の診断にフォーカスした本書とは内容の重複はあまりないはずですので,ぜひそちらもお読みいただければと思います(よし,これで早川先生には怒られないはずだ……).なお,本書の内容は私忽那の個人的見解に基づいたものであり,国立国際医療研究センター 国際感染症センターの見解ではありませんので,そこんとこよろしくお願い致します.
私が輸入感染症に興味を持ったのは,ある一人の患者さんがきっかけでした.2010年10月のことです.当時,私は奈良市の市立奈良病院という市中病院で一人感染症医をやっていました.そこで非常に珍しい輸入感染症を経験したのですが(本書にも登場します),私はその症例を通じてすっかり輸入感染症の魅力に取り憑かれてしまいました.ちょうど大曲貴夫先生が国立国際医療研究センターに移動されるという話を聞きつけ,「ここしかない! そしてこのタイミングしかないッ!」と思い家族を説得し,2012年に国立国際医療研究センターの国際感染症センターという部署にやってきたわけです.そこで今回の国内デング熱や西アフリカでのエボラウイルス病のアウトブレイクといっためくるめく輸入感染症系のイベントを経験できました.東京にやってきて早3年ですが,楽しい仲間に囲まれて本当に退屈しない日々が続いています.もしこの本を読んで輸入感染症に興味を持たれた方がいらっしゃいましたら,ぜひ国立国際医療研究センター 国際感染症センターで一緒に働きませんか? いつでも見学可能ですのでお待ちしております.
最後に,私に輸入感染症の世界を教えてくださったボス・大曲貴夫先生を始めとする国際感染症センターの皆さま,そして私に学ぶ機会を与えてくれたすべての患者さんに心より感謝いたします.あと,上村も.
2015年3月
忽那賢志
目次
目 次
各感染症の流行地域と潜伏期間
A はじめに〜日本を取り巻く輸入感染症
B 海外渡航歴を取ろう!
Column ポケモンGO
C 渡航地はどこだ!
D 潜伏期から絞り込もう
E 曝露歴をしっかり聴取しよう!
F ちゃばい感染症を除外しろッ!!
G 隔離すべき感染症を除外しろッ!!
H 身体所見と検査所見,特徴があれば儲けもの
I マラリア,マラリア,そしてマラリア
Column 第6のマラリア
Column non-immuneだとリアメットによる治療後の再燃が多い?
Column ヨーロッパでマラリアに感染? その1
Column ヨーロッパでマラリアに感染? その2
Column 学会を作ってみた
J デングとその仲間たち
Column チクングニアとジカの次に来るのはどれだ!?
K 季節外れ?
Column 熱帯医学の短期研修
L 渡航歴があるからこそ性交渉歴を!
M たかが下痢症,されど下痢症
Column キャンピロバクター腸炎は辛い!
N 下痢,ときどき便秘……?
O 輸入感染症ではオッカムのかみそりの切れ味が悪い
P ジカにまつわるエトセトラ
Column 輸入感染症は症例報告の宝庫!
Column 検疫所って何するところ?
Q 海外での入院歴は要注意!
R 海外で犬に咬まれたら
Column コアラに咬まれたら
S 渡航歴がなくても
Column ドイツ人中年女性は日本のどこでデング熱に感染したのか?
Column お寺とオレ
T 鳥に気をつけろッ!
U ウイルス性出血熱
Column 日本唯一のウイルス性出血熱の症例
V バイオテロって起こりえますか?
W ガチなヤツに気をつけろッ!
X 結核を見逃すなッ!
Y MERSに気をつけろッ!
Z 最終試験
Column 日本でも土着回帰熱?
Column 日本海に浮かぶ無人島にまだ誰も罹ったことのない回帰熱ボレリアが……?
輸入感染症早見表
索 引