抗HIV/エイズ薬の考え方、使い方、そして飲み方 ver.2
内容
HIV/エイズの診療は治療薬の進歩を背景に標準化され、予後も改善されています。しかしその一方で新規患者は増え続け、また予後改善に伴う患者の高齢化という新たな問題も浮上しています。本書では、旧版の内容をアップデートし、増え続ける「元気なHIV患者」に接する機会があるかもしれないプライマリ・ケア医、ナース、薬剤師、そして当事者である患者さんにとって必要な情報をリーダブルにまとめました。
序文
「抗菌薬の考え方,使い方ver. 4」に続き,HIV/エイズについてもまとめることができて本当に良かったです.まあ,この領域も進歩が激しいのでまたすぐに改訂せねばならないような気がしていますが.
本書作成については,中外医学社の岩松宏典氏,稲垣義夫氏にお世話になりました.また,「抗菌薬〜」同様,原稿をチェックしてくれた神戸大感染症内科の方々にも御礼申し上げます.とくに津村明子先生にはたくさんのコメントをいただきました.
本書作成時に,英国政府が「2030年までに新規HIV感染をゼロに」という宣言を出しました.2019年1月30日のことです.
https://www.gov.uk/government/news/health-secretary-announces-goal-to-end-hiv-transmissions-by-2030
大したものです.日本でも同様の宣言を出すべきだし,出せるはずです.本書で述べたように,やるべきことはわかっています.あとは,やるか,やらないかの問題です.そして,選択肢は「やる」しかないはずなのです.
2019年2月
岩田健太郎
ver.1の「はじめに」
こんにちは.岩田健太郎と申します.本書を手に取っていただきましてありがとうございました.
これを書いているのが2011年,エイズという病気が認識されるようになったのが1981年.あれから30年の月日が流れたのでした.当時は不治の病であったエイズですが,治療の進歩のおかげでこの病気のあり方は劇的に変化しました.外来治療で薬を飲み続ければ,(おそらく)天寿を全うできるのではないか,という病気,糖尿病や高血圧のような慢性の病気にかなり近づいてきたのです.
治療が進歩したのはとてもよかったのですが,ちょっと困ったことが起きました.治療薬の選択肢が増え,これを理解したり使用することが難しくなってしまったのです.エイズ診療は日進月歩.診療ガイドラインも毎年……いや年に何度も改定されるというスピードです.情報量は爆発的に増え,患者さんはおろか,治療者も最新の知識についていくのに必死というありさまです.
で,本書はこうした進歩の早いエイズの治療薬についてまとめた本です.治療が進歩しても変わらないコアな部分をまとめ,爆発的に増える情報に翻弄されなくても(比較的)気軽にエイズとその治療薬について勉強できるように工夫してみました.できるだけとっつきやすいところから順番にやっていき,最後まで通読しやすいような構成になっています.また,たとえ最後まで読めなかったとしても,それなりの成果が得られることも目指しています(でも,最後まで読んでね).
村上春樹の小説がそうであるように,ぼくはこの本をできるだけ読みやすい,リーダブルなものにしようと工夫しています.エイズが専門でない薬剤師さんや看護師さん,ソシアルワーカーさんや保健師さん,医学生,これから患者さんを診ようか…という感染症医,内科医,プライマリケア医などが読んでもさらさらと読めるよう努力しました(これは文字通り「努力」です.本は小難しく書くのは割と簡単ですが,易しく,優しく書くのは結構大変なのです).そして,ちょっと背伸びすれば実際に薬を飲んでいる,これから飲もうとしている患者さんにも読破できるような本を目指しました.
村上春樹の小説がそうであるように,この本は内容については全く妥協しないように努力しました.読みやすいけれども,内容のしっかりした本であるよう一所懸命この本を書きました.
ぼくは治療薬の開発者でもなければ,カッティングエッジな臨床試験の実践者でもありません.治療薬を処方してエイズの患者さんに処方しているユーザーの一人です.エイズの治療薬について何でも知っているバリバリのスペシャリスト,というわけではありません.
その代わり,ぼくのような「街場の」診療医はエイズの治療薬でつまずきそうなところ,難しいところ,誤解しやすいところを熟知しています.エイズの治療薬でつまずいたり,悩んだり,誤解した体験知は割とたくさんあるからです.そのような体験知は,まあ失敗談に基づくものが多いので,胸を張るような代物ではないですが.
教科書的な知識をバックボーンに,このような体験知を血肉にして,リズム感があり,読みやすい教科書になっていればよいなあ,と思います.
ちょっと定型的な注意です.本書に記載されている内容は正確を期すよう,著者が最善の努力を払いました.しかし,医学・医療の進歩のスピードはとてもはやく,とくにHIVの領域はそうです.また,患者さんの個別の事情により,本書の内容が必ずしも全ての患者さんに適応できない可能性があります.そのため,本書記載の内容に関した患者さんへの不測の事故に対して,著者ならびに出版社はその責を負いかねます.ご了承ください.最新の情報をゲットする助けとして,巻末に参考文献,参考サイトを示しました.こちらもご活用ください.
では,HIVとエイズの薬についてのお話,気楽にお付き合いください.
2011年3月
胸ふさがれる毎日なれど,春遠からじ関西にて 岩田健太郎
目次
目次
第1章 エイズ治療の世界に触れてみよう
1 ぼくとHIVのささやかな歴史
2 なぜ,抗HIV薬は「わかりやすく」なったのか
抗HIV薬の名前は複数ある
抗HIV薬は組み合わせて使う
ARTを実際に使ってみよう
3 ARTのざっくりな様相
INSTIとは
日本におけるHIV/AIDS
4 HIVのしくみ,ARTのしくみ
HIVとは何か
エイズとは?
大切なのは,CD4とウイルス量
HIV感染・エイズの自然歴
エイズの診断
いつからARTを始めるか?
実際の治療例
アイリス(IRIS)とは何か?
ARTとお金の話
Dual therapyの可能性
実際のARTの始め方
何を目標にするか?
副作用の問題
耐性の問題
ARTはいつまで飲むのか? いつになったら止めてもよいか?
ART治療がうまくいかないときは?
5 耐性検査とは?
薬剤耐性検査の読み方
6 ARTの基本骨格
第2章 抗HIV薬各論
1 インテグラーゼ阻害薬
ラルテグラビル(RAL)
ドルテグラビル(DTG)
エルビテグラビル(EVG)/コビシスタット(COBI)
Bictegravir
2 NRTI
ラミブジン(3TC)・エムトリシタビン(FTC)
アバカビル(ABC)
テノホビル(TDF)
ジドブジン(AZT)など,その他のNRTI
3 NNRTI
エファビレンツ(EFV)
リルピビリン(RPV)
4 プロテアーゼ阻害薬(PI)
ダルナビル(DRV)
5 CCR5阻害薬
マラビロク(MVC)
第3章 さまざまな合併症のことなど
1 結核になったら
2 B型肝炎(HBV感染)の合併時は……
3 C型肝炎合併例
4 肝機能が悪いときのART
5 腎機能が悪いときのART
6 妊婦および小児
7 プライマリ・ケアとHIV
相互作用のチェック
メンタルヘルスのスクリーニング
内分泌代謝疾患のチェック
薬を使わない治療も選択肢に
性感染症のチェック
予防接種のチャンスを逃さない
がんのスクリーニング
骨密度
非HIVのコモンな問題に気をつける
食事
ペット
8 急性レトロウイルス症候群
9 針刺し対応,レイプ対応
10 神経症状がある場合
11 脂質異常の治療
12 日和見感染(OI)やその他の合併症の治療
予防薬
OIの治療(コモンなもの)
おわりに
参考文献
索引
【付録1】抗HIV薬一覧(よく使うもの)
【付録2】よく使う薬剤組み合わせ