序

　呼吸は生命維持に不可欠で‘息のうち’が命という言葉につながるとも言われる．息がうまくできないこと，つまり呼吸不全は命にかかわることになる．特に酸素化が障害されると生命維持は困難になる．呼吸不全に対しては，当然ながら治療つまり呼吸管理が必要になる．いかなる臓器不全も同様であるが，適切な治療が行われなければ患者の予後は悪化する．さらに呼吸不全に対する適切な治療は他の臓器不全よりも時間的余裕がない．
　呼吸不全の病態については医学教育に含まれているが，呼吸不全に対する治療，特に急性の重篤な低酸素性呼吸不全に対する治療については系統的な教育は行われていない．新型コロナウイルス感染症患者の治療に限らず，集中治療の経験がなく，呼吸管理の研修を受けていない医師でも，酸素療法をはじめ人工呼吸管理を担わなければならないことがある．本書は呼吸管理を担わなければならない医療現場で，どうすればいいのか途方に暮れた時や疑問が生じた時に必要不可欠な知識を提供できることを目的に企画した．それぞれの項目が独立しているので，疑問に思った項目だけを読んでもらってもよい．もちろん，全体を通して読んでもらってもよい．より詳しいことを知りたい場合には参考文献等を参照して知識を深めてほしい．呼吸管理を学んでおくことはどの分野の医療従事者にとっても将来役に立つことは確実である．この書がきっかけになり，呼吸管理の実際の研修を受けてみようと思う人が一人でも生まれれば，望外の喜びである．

2021年7月
西村匡司

目　次

 1　気体の性質〈西村匡司〉
 2　呼吸器の換気力学（メカニクス）〈西村匡司〉
 3　肺循環〈佐藤直樹〉
 4　酸素療法〈鈴木  聡〉
 5　気道確保と管理〈橘  一也〉
 6　陽圧人工呼吸の基礎〈小野寺睦雄〉
 7　人工呼吸各種換気様式・モードと設定〈小尾口邦彦〉
 8　各種人工呼吸器〈三住拓誉〉
 9　NPPV〈内田由紀　竹田晋浩〉
10　人工呼吸管理中のモニタリング〈小畠久和〉
11　鎮痛・鎮静方法〈細川康二〉
12　PEEP〈中根正樹〉
13　患者-人工呼吸器非同調〈板垣大雅〉
14　COPD〈長谷川隆一〉
15　ARDS〈成宮博理〉
16　小児患者の人工呼吸管理〈稲田  雄〉
17　腹臥位療法〈小谷  透〉
18　人工呼吸からの離脱，ウィーニング〈星野太希　内山昭則〉

索引

執筆者一覧

西村匡司　石井記念愛染園附属愛染橋病院院長　編著
佐藤直樹　かわぐち心臓呼吸器病院副院長　
鈴木　聡　岡山大学病院集中治療部　
橘　一也　大阪母子医療センター麻酔科主任部長　
小野寺睦雄　倉敷中央病院集中治療科主任部長　
小尾口邦彦　京都市立病院集中治療科部長　
三住拓誉　兵庫県立尼崎総合医療センター集中治療科部長　
内田由紀　かわぐち心臓呼吸器病院 / 広島大学大学院救急集中治療医学　
竹田晋浩　かわぐち心臓呼吸器病院院長　
小畠久和　堺市立総合医療センター集中治療科部長　
細川康二　福井大学附属病院麻酔科蘇生科講師　
中根正樹　山形大学医学部附属病院救急部部長 / 高度集中治療センター　
板垣大雅　徳島大学病院ER・災害医療診療部特任教授　
長谷川隆一　獨協医科大学埼玉医療センター集中治療科教授　
成宮博理　京都第二赤十字病院救急科副部長　
稲田　雄　大阪母子医療センター集中治療科副部長　
小谷　透　昭和大学医学部集中治療医学教授　
星野太希　大阪大学医学部附属病院集中治療部　
内山昭則　大阪大学医学部附属病院集中治療部副部長