高次脳機能障害の考えかたと画像診断
内容
高次脳機能障害の適切な診療のために必須となる膨大な知識に加え,それらを体系化して把握する力,臨床的な経験値,それらを総合的に検討し適切な診断と治療に結びつけるための論理的思考力など,臨床・研究に欠かせない知見のすべてをエキスパートによる懇切丁寧かつ生き生きとした解説で伝える.高次脳機能障害を学ぶ人のための最良のテキスト!
序文
序
高次脳機能障害は,勉強してみたいがなかなか難しい,とっつきにくい分野だと感じておられる初学者の方も多いのではないだろうか.何しろ,専門用語が多い.神経内科,精神科の細々とした症候名も知っておかねばならない.脳の各部位の名称を覚え,脳画像の判読もある程度できなければならない.検査の解釈の際には統計学の基礎知識まで要求される.
実際,その通りである.高次脳機能障害について学ぶことは難しい.
高次脳機能障害をよく理解するには,たくさんの臨床例を実際に自分で診療して,肌感覚で知ることが必須である.現実の症例を知らなければどんな理論も空論となる.ただし,多種多様な高次脳機能障害の理解には,こうした経験値の積み重ねだけでは不十分であり,経験的知識を体系的に整理することも必須である.そのため,神経解剖学や神経生物学全般についての基礎知識,主要な認知心理学的仮説・モデルの理解が,どうしても必要となってくる.それだけではない.教科書の知識や既存の理論を借りてくるだけでなく,自分で論理的に考える力まで要求される.教科書に記載されているのはあくまで典型例であって,実臨床では,病変部位の多様性(多発性病変には無数の組み合わせがある),個々人の背景因子の多様性(たとえば先天性の聴覚障害を持つ人に生じた失語症をどう評価するか)によって,非典型例に遭遇することは日常茶飯事である.そのような時,どういう検査を行うべきかの判断,そしてその結果の妥当な解釈は,個別の臨床家の論理的思考力に依存している.
本書を読み始めていただければすぐにおわかりいただけるように,本書は,高次脳機能障害の臨床に必須の「経験値」,「体系的知識」,「論理的思考」を備えた力作揃いとなっている.高次脳機能障害の勉強は大変であるが,さまざまな知識が有機的につながってきた時,その喜びはそれだけ大きいものとなり,学びの苦労は必ず報われる.初学者の皆様には,是非,そうした学びの一助として,本書を活用していただきたい.
話は変わるが,編者の立場で次々に寄せられてくる原稿をみて抱いたのは,「この種の学術書にしては,それぞれに個性的な原稿だな!」という感想である.執筆陣は,私たちが普段から懇意にさせていただいている方々であり,原稿からは,それぞれの方が,講演会で話されている姿が目に浮かぶような気がした.
高次脳機能障害学(伝統的な言い方で言うと神経心理学)は,少し大げさかもしれないが,人間全体を扱う総合的学問であるということもいえよう.それだけに,そこにどうアプローチするかは,当然,それぞれの臨床家・研究者の個性が反映される.無味乾燥とした知識の羅列ではない,生き生きとした学問を,読者の皆様が本書から感じとっていただければ嬉しいことである.
ということで,高次脳機能障害の臨床・研究にかかわるすべての職種の方に本書をお薦めしたい.
2016年10月
村 井 俊 哉
武 田 克 彦
目次
目 次
Chapter 1 神経心理学序論[武田克彦]
I 神経心理学の成り立ち
II 神経心理学は科学か
III 神経心理学の診察
Chapter 2 神経心理学的評価[山下 光]
I 神経心理学的評価とは
II 神経心理学的評価の目的
III 神経心理学的評価の情報源
IV 神経心理学的検査
V 神経心理学的検査の結果に影響を与える変数
VI 反復実施の問題
VII 詐病をめぐる問題
VIII ICTの導入
Chapter 3 神経心理に必要な画像読影の基本
1 画像診断1:CT,MRIを中心に[板東充秋]
I 画像で何がわかるか
II 画像の読み方:脳の構造との関連づけ
III 画像ソフトとその問題点
2 画像診断2:統計学的画像解析(MRI,SPECT)[松田博史]
I 統計学的画像解析(MRI)
II 統計学的画像解析(SPECT)
Chapter 4 記憶障害
1 記憶障害[数井裕光,佐藤俊介]
I 記憶の分類
II 障害部位による記憶障害
III 記憶障害の評価方法
2 記憶障害のリハビリテーション[原 貴敏,原 寛美]
I 記憶障害患者の回復過程とリハビリテーションプログラムの立案について
II 記憶障害に対するリハビリテーションのエビデンス
III 症例呈示
IV 非侵襲的脳刺激(NBS)
Chapter 5 注意障害[船山道隆,中島明日佳]
I 注意機能とは
II 注意機能の下位分類
III 注意障害
IV 注意障害のリハビリテーション
Chapter 6 遂行機能障害
1 遂行機能障害[田渕 肇,三村 將]
I 遂行機能とは
II 問診場面における遂行機能障害
III 遂行機能障害の評価法
IV 遂行機能障害と前頭葉
V 症例呈示
2 遂行機能障害に対するリハビリテーション[原 寛美]
I 遂行機能障害に対する認知リハビリテーションのエビデンス
II 持続性注意・ワーキングメモリーの訓練
III ストラテジー訓練
IV 反復性経頭蓋磁気刺激(rTMS)を用いたneuromodulationによる高次脳機能障害の改善
Chapter 7 失語
1 古典的失語症候群の症候と画像診断[飯塚 統,松田 実]
I 比較的限局した病変で症状との対応がほぼ確定的な症候群
II 大病変の場合が多く,症状も多因子的な症候群
III 病巣症状対応が非確定的で,症状の個人差も大きい症候群
2 失語の画像診断―病変局在をめぐる諸問題[大槻美佳]
I 言語症候の局在を巡る知見
II 要素的言語機能障害とその局在
3 読字書字障害[櫻井靖久]
I 非失語性失読・失書の分類
II 純粋失読
III 角回性失読失書
IV 側頭葉後下部型失読失書
V 中側頭回後部病変による漢字の失書
VI 縁上回病変による仮名の失書
VII 上頭頂小葉(頭頂間溝)病変による失行性失書
VIII 中前頭回後部病変による純粋失書
IX 二次性非失語性失読・失書
X 読字・書字の認知心理学的モデル
Chapter 8 失行[中川賀嗣]
I 「機能区分および関連する脳部位」と行為・動作障害
II 失行
III 症状判定のポイントと画像の見かた
Chapter 9 失認
1 視覚性失認[平山和美]
I 視覚性失認とは?
II 視覚性失認の分類
III 視覚性失認の病態
IV 視覚性失認に関係する脳領域のMRIによる同定
V 視覚性失認の諸型
2 聴覚失認[佐藤正之]
I 聴覚情報の脳内処理過程:背側経路と腹側経路
II 皮質聾,皮質性聴覚障害,皮質性難聴
III 聴覚失認
IV 聴覚失認の自験例
Chapter 10 空間認知障害[高橋伸佳]
I 視空間知覚障害
II 注視空間における障害
III 地理的障害
Chapter 11 半側空間無視
1 半側空間無視[今福一郎,武田克彦]
I 定義
II 症候と検査法
III 左半側空間無視の脳の病巣について
IV 症例呈示
V 半側空間無視のメカニズム説
VI 半側空間無視をめぐるいくつかの問題
2 半側空間無視のリハビリテーション[太田久晶]
I 左半側空間無視症状に対する評価
II 左USN症状に対する治療介入方法
Chapter 12 病態失認[鈴木匡子]
I 片麻痺の病態失認
II 半側空間無視の病態失認
III 盲・聾の病態失認(Anton症候群)
IV 同名性半盲の病態失認
V 視覚性失認の病態失認
VI 健忘の病態失認
VII 失語の病態失認
VIII その他の神経学的症状・認知機能障害に対する病態失認
IX 症例呈示
Chapter 13 脳梁[東山雄一,田中章景]
I 脳梁の解剖
II 脳梁離断症候の歴史
III 脳梁離断症候の診察
IV 脳梁離断症候群
V 脳梁と意識
Chapter 14 行動変化
1 アパシー[上田敬太,村井俊哉]
I 医学用語としてのアパシー
II アパシーの下位分類
III アパシーの発生機序
IV アパシーの評価尺度
V アパシーの類義語および鑑別すべき状態像
VI アパシーの治療
2 社会的行動障害[村井俊哉,生方志浦]
I 高次脳機能障害の症候としての社会的行動障害
II 前頭葉を神経学的基盤とした社会的行動障害
III 臨床場面における社会的行動障害の評価と対応
IV 社会的行動障害の治療・対応
V 症例提示
Chapter 15 認知症
1 認知症の新しい診断基準について[橋本 衛,池田 学]
I DSM—5のMajororMildNeurocognitiveDisordersの特徴
II アルツハイマー病診断基準
III レビー小体型認知症(DLB)の診断基準
IV 前頭側頭葉変性症(FTLD)の診断基準
V 血管性認知症(VaD)の診断基準
2 認知症 各論[長谷川千洋,博野信次]
I アルツハイマー病
II レビー小体型認知症
III 前頭側頭葉変性症
IV 皮質基底核変性症
V 進行性核上性麻痺
VI 認知症で用いられる認知機能検査
VII 各疾患の画像
VIII 精神症状と介護負担度の評価
索引