救急超音波テキスト ―point of careとしての実践的活用法
内容
序文
序
日本は1980年代より超音波検査が「聴診代わりに」広く行われるようになり,機器の性能も世界の最先端を走ってきた.小生も超音波検査を外傷患者の診療へ活用することに尽力し,後にFASTと命名された迅速簡易法を1990年に米国の学会で発表し,1991年にそれを論文*化した.しかしその後は主に米国において,ものすごい勢いで多くの患者にてその有用性が追試・検証され,あっという間に主導権は米国に移ってしまった.また超音波検査の応用範囲も急速に拡大されていった.さらに2000年代に入ると,欧米においてシステマティックな教育方法も確立されグローバルに展開されるようになり, point of careの概念が導入され,2010年代にはPOCUSという医学上のジャンルが確立されるにいたった.その間我が国においては,救急や総合診療の現場における超音波検査の活用に関する研究や教育が,欧米に比べて周回遅れとなっていたことを,一部の医師しか認識していなかったように思われる.高性能な超音波機器も世界各国で作られるようになり,価格面なども考慮すると日本の優位性も失われつつある.
小生としてもこのような現状を打開するために,WINFOCUS講師の招聘,遅まきながらPOCUS研究会の発展や日本救急医学会にけるPOCUSに関する委員会設立に尽力してきているが,未だ不十分と言わざるを得ない.また最近まで,POSUSに関するマニュアル本は数多く執筆されたが,バイブル的な日本語成書が存在していなかった.
今回本書が編纂されるにあたり,技術的原理から各臨床応用まで網羅的な日本語のテキストブックがやっと出版されるようになり,初版であるため至らない部分も多々あるが,今後版を重ねれば日本の救急領域POCUSのバイブルとなっていくものと大きな期待を抱いている.救急科専攻医のみならず多くの研修医の必携の書となり,日本のPOCUSの発展を加速する起爆剤となることを願ってやまない.
平成30年9月吉日
国立国際医療研究センター病院 救命救急センター長
木村昭夫
*Kimura A, Otsuka T. Emergency center ultrasonography in the evaluation
of hemoperitoneum a prospective study. J Trauma. 1991;31:20-3.
推薦のことば
「救急超音波テキスト─point of careとしての実践的活用法」は,まさに今求められているテキストである.既に心臓,腹部など臓器ごとの超音波検査テキストは数多くあり,これらは循環器・消化器の医師にとっては適切かもしれない.しかし,救急医療という臓器横断的診療を行う医師にとっては,各領域の詳しい知識が多すぎ,何が重要で何がそうでないかがわかりにくい.一方本書は,救急医療にとり実践的で必要な知識がよく整理され,携わる先生方にご一読いただきたい内容となっている.もちろん,広く一般診療を行われる先生方にとっても,救急の患者を診る場面でどこが重要かわかりやすく役立つものと思われる.拝見して,特に興味深かったのは,これまで超音波検査で注目されることが少なかった肺エコーによる心不全・肺疾患・気胸の診断についてである.この領域の検査は,今後救急のみでなく一般臨床のpoint-of-care ultrasound(POCUS)として広く利用されると期待している
さて,サブタイトルにも使用されているpoint of care(POC)としての超音波は,必要な時にその場で行う超音波検査のことで最近のトレンドである.というとこれまでなかった新たな流行に聞こえるかもしれないが,実は超音波検査が普及し始めた1980〜90年代の臨床家は,必要に応じて外来,病棟においてPOCとして超音波検査を行ってきていた.最近になって,特に救急部門でPOCUSが注目されてきたのには訳がある.当初医師が主体的に行ってきた超音波検査は,最近の20〜30年間をみると,外国では放射線部門で,本邦では検査室主体で行われることが一般的であり,逆に医師が直接検査することが少なくなってきた.急ぎでない検査は,超音波検査室に予約しその結果を待つことも可能であるが,時間との勝負である救急の場面ではそうはいかない.そのためには,理学的所見をとってすぐに行うPOCUSとして,一定の手技を習得した救急医が自分で行うことが最も効率的である.
本書の内容には,心臓,肺,腹部,運動器など救急の場面で必要な項目が余すところなく取り上げられている.とくに,気道,肺と胸膜の章は救急の視点で実用に重点が置かれており,第III章から読み始めることで,この領域の超音波検査の最先端の情報を得ることができる.第V章は心エコーについて述べられ,FOCUSをはじめとした救急の場面で役立つ内容が網羅されている.例えば,救急の場面では時間的制約から心駆出率を計測することは一般的でないが,このあたりの経緯も書かれている.
急性腹症も,理学的所見を得た後すぐに超音波検査を行いたい.検査所見を加味すると,診断精度が上がるだけでなく,次の検査,治療の計画を容易に立てられる.特に,超音波検査が役立つ急性胆嚢炎,尿管結石,動脈瘤などの超音波検査について詳しく記載されている.それ以外の領域として,注目されるのは運動器への利用である.超音波検査による骨折,血種の有無の判断は外傷時のdecision treeにおいて有用であり,この領域も今後ますます利用されると思われる.
最後に,病態・症候別活用として救急の場面で多く出くわす外傷,呼吸困難,ショックなどについて,解りやすくまとめられており,症状から入って前章の臓器別所見と合わせることで,一層理解が深まると思われる.
本書は,救急医療に携わる先生に是非ご一読いただきたい書であり,現場で超音波検査の経験を重ねられるとともに,本書を読みなおしていただくことで,その診療に一層役立つことをお祈りしております.
2018年9月
自治医科大学臨床検査医学講座 教授
谷口信行
目次
目 次
本書の動画視聴方法
第I章 総論
1 Point-of-care ultrasound (POCUS) 〈亀田 徹〉
1 POCUSの概念
2 POCUSのフレームワーク
3 POCUSの課題
2 ACEP(American College of Emergency Physicians)超音波ガイドラインの概説 〈児玉貴光〉
1 ガイドラインの成り立ち
2 ガイドラインの構成
3 ガイドラインの実践
4 ガイドラインの今後
3 SCCM(Society of Critical Care Medicine)超音波ガイドラインの概説 〈山口嘉一 野村岳志〉
Part I 一般超音波検査
Part II 心臓超音波検査
4 救急超音波による緊急度・重症度評価 〈本多英喜〉
1 救急診療における緊急度評価
2 「緊急度」を意識した救急診療
3 救急超音波検査における「重症度」の評価
4 「緊急度」と「重症度」は,いつでも,どこでも評価する
5 救急超音波検査のピットフォール
6 緊急度と重症度を適確に素早く評価するー「救急超音波診」とは?
第II章 超音波検査の基礎
1 臨床で役立つ音響工学 〈神山直久〉
1 超音波の周波数と強さ
2 伝搬と減衰
3 超音波音場と分解能
4 エコー:反射と散乱
5 反射と透過
6 波の干渉とスペックルパターン
2 プローブ操作と画像の描出 〈亀田 徹〉
1 プローブの選択
2 画像の表示
3 マーカー
4 プローブの操作
5 プローブの保守・管理
3 検査の実際と超音波診断装置の取り扱い 〈紺野 啓〉
1 超音波診断装置の取り扱い
2 超音波断層法
4 ドプラ法 〈尾本きよか〉
1 ドプラ法
2 ドプラ効果
3 カラードプラ法・カラーフローマッピング
4 血流速度の測定方法
5 アーチファクト 〈長沼裕子 石田秀明〉
1 Mirror image
2 多重反射(reverberation)
3 Ring-down artifact
4 Twinkling artifact
第III章 気道
1 気道超音波の基礎と気管挿管の確認 〈丹保亜希仁 鈴木昭広〉
1 正常解剖
2 走査と画像の描出
3 気管挿管・食道挿管の確認法
2 ガイド下輪状甲状靱帯切開・気管切開 〈二階哲朗〉
1 経皮的気管切開(PDT)におけるPOCUSの活用
2 外科的気管切開について
3 輪状甲状靱帯穿刺と切開におけるPOCUSの応用
第IV章 肺と胸膜
1 肺超音波の基礎 〈福原信一〉
1 走査と画像の描出
2 基本画像
2 気胸 〈濱野雄二朗〉
3 胸水・血胸 〈山田直人〉
1 病態別の解説
2 超音波ガイド下胸腔穿刺
4 心原性肺水腫と鑑別疾患 〈谷口隼人〉
1 B-lines
2 呼吸不全患者における肺エコー
3 B-linesを用いた鑑別
4 Diffuse multiple B-linesを呈する病態の各論
5 Diffuse multiple B-linesを呈する疾患の鑑別フローチャート
5 細菌性肺炎 〈福原信一〉
疾患・病態別の解説
1 細菌性肺炎における超音波検査の適応・走査
2 細菌性肺炎における超音波検査所見
第V章 心臓
1 FOCUSの概要 〈坂東美佳 山田博胤〉
1 現代の心エコー図検査とFOCUSの誕生
2 FOCUSと包括的心エコー図検査の差異
3 FOCUSのターゲット
4 FOCUSが活用されるシナリオ
5 FOCUSの実際
2 収縮不全 〈常松尚志 竹内一郎〉
1 FOCUSの国際的エビデンス
2 救急におけるFOCUSの役割 左室全体の収縮機能の評価について
3 ショックの場合の評価法
4 視覚的評価の妥当性に関するエビデンス
3 肺塞栓症 〈吉田拓生〉
1 正常解剖
2 走査と画像の描出
3 疾患・病態別の解説
4 心嚢液貯留と心タンポナーデ 〈方波見謙一〉
1 疾患・病態別の解説
2 走行と画像の描出
3 ガイド下手技と解説
5 下大静脈 〈八塩章弘〉
1 正常解剖
2 走査と画像の描出
3 疾患・病態の解説
6 Advanced FOCUS 〈出雲昌樹〉
1 急性冠症候群
2 大動脈解離
3 急性肺塞栓症
第VI章 腹部
1 腹腔内出血・腹腔穿刺 〈佐々木 亮〉
1 走査と画像の描出
2 疾患・病態別の解説
3 ガイド下手技と解説
2 胆嚢 〈田口 大〉
1 正常解剖
2 走査と画像の描出
3 疾患・病態別の解説
3 尿路 〈東 秀律〉
1 正常解剖
2 各臓器の超音波走査と正常画像の描出
3 疾患・病態別の解説
4 腹部大動脈 〈石井浩統〉
1 正常解剖
2 走査と画像の描出
3 腹部大動脈瘤
4 大動脈解離
5 消化管 〈大西新介〉
1 正常解剖
2 操作と画像の描出
3 疾患・病態別の解説
6 小児腹部 〈竹井寛和〉
1 正常解剖
2 走査と画像の描出
3 疾患・病態の解説
第VII章 血管
1 下肢深部静脈血栓症〜2-point ultrasonography 〈入江 仁〉
1 正常解剖
2 走査と画像の描出
2 ガイド下血管穿刺 〈伊藤亜紗実 川本英嗣 今井 寛〉
1 中心静脈穿刺
2 末梢動静脈穿刺
第VIII章 神経
1 視神経鞘と頭蓋内圧亢進 〈小室哲也〉
1 正常解剖
2 走査と画像の描出
3 疾患・病態別の解説
2 超音波ガイド下神経ブロック 〈石田亮介〉
1 総 論
2 各 論
第IX章 運動器・軟部組織
1 骨折 〈森 崇晃〉
1 正常解剖
2 走査と画像の描出
2 軟部組織感染・異物 〈東 裕之〉
1 正常解剖
2 走査と画像の描出
3 疾患・病態別の解説
4 ガイド下手技と解説
第X章 病態・症候別活用
1 外傷初期診療 〈多田祐介 福島英賢〉
1 外傷初期診療
2 FAST(focused assessment with sonography for trauma)
3 EFAST(extended FAST)
4 症例呈示
2 呼吸困難 〈瀬良 誠〉
1 初期評価
2 超音波検査による呼吸困難鑑別診断
3 呼吸困難診断プロトコル
3 ショック 〈小淵岳恒〉
1 ショックと認識し,応援を呼ぶ
2 超音波診断装置を準備し実施する
3 ショックの原因は何か?
4 では実際に「RUSH」ってどうやるの?
5 PUMP
6 TANK
7 PIPE
4 心停止 〈亀田 徹〉
1 蘇生時のFOCUS活用法
2 FOCUSにおける評価項目
5 急性腹症 〈真弓俊彦 畠 二郎〉
1 診療アルゴリズム
2 急性腹症でも既往歴,現病歴,身体所見を必ず確認する
3 超音波検査は急性腹症のどのような場合に施行するか?
4 腹部全体を痛がる場合,ショック
5 腹痛部位が不明確の場合,POCUS急性腹症プロトコル
第Ⅺ章 救急超音波の新たな活用
1 ポケットエコー 〈松本 敬〉
1 ポケットエコーの活用場面
2 ポケットエコーに求められる機能
3 ポケットエコーの現状
4 ポケットエコーのこれから
5 院内での活用事例
2 病院前救急での活用 〈早川達也〉
1 病院前救急診療の実際
2 病院前における超音波検査の活用
3 病院前における超音波検査施行にあたっての留意点
3 災害現場での活用 〈児玉貴光〉
1 災害と災害医療
2 Disaster ultrasoundの成り立ち
3 災害現場での利用例
4 テロ現場での利用例
4 看護師による超音波機器の活用 〈木澤晃代〉
1 諸外国における救急領域での看護師による超音波の活用
2 看護師が超音波機器を扱うことに関する障壁
3 看護師の特定行為に係る研修制度における超音波の活用
4 超音波ガイド下穿刺に関する教育プログラムの開発
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