脊髄損傷における下部尿路機能障害の診療ガイドライン 2019年版
内容
『脊髄損傷における排尿障害の診療ガイドライン(第2版)』(2011年)の全面改訂版.主な改訂内容:(1)主要な項目に関する「総説」を追加.クリニカルクエスチョンと相まって内容の理解が深まるように配慮した.(2)「尿路合併症の防止・(社会的)尿禁制の獲得・生活の質(QOL)の改善」を主なアウトカムとして設定し,これを実現するようなガイドラインたることを目指した.(3)コストベネフィット・保険診療上の留意点にも言及した.
序文
巻頭言
本ガイドラインの初版である「慢性期脊髄損傷における排尿障害の診療ガイドライン」は2005年に「過活動膀胱診療ガイドライン」の付録として刊行された.その後,2011年に独立の出版物として,「脊髄損傷における排尿障害の診療ガイドライン」という名称で改訂版(第2版)が刊行された.2011年版では将来の改訂を2017年に予定すると記載されており,今回はその後の神経因性下部尿路機能障害に対する医療の進歩,あるいは,国際泌尿器科学会とInternational Consultation on Urological Diseasesの共同事業である“Urological management of the spinal cord injured patient”が2016年の国際泌尿器科学会の期間中に開催されたことなどを踏まえ,予定通り改訂作業を行うことになった.改訂作業に際しては,2017年9月に開催された日本排尿機能学会の理事会と総会,同10月に開催された日本脊髄障害医学会の理事会,評議員会,総会にて改訂に関する提案書の承認を得た後に,規定により新たに編集に加わることとなった日本泌尿器科学会の理事会の承認を得た.改訂の具体的な方法に関しては,「はじめに」を参照願いたい.
第3版の主な改訂内容は以下の通りである.
表題名:「排尿障害」を「下部尿路機能障害」に変更した.
構成:第2版は44のクリニカルクエスチョンのみから構成されていた.しかし,疫学や病態生理,あるいは診断的事項に関してはクリニカルクエスチョンでは十分に解説できない項目もあると考えられた.このため,第3版では,主要な項目毎の総説とクリニカルクエスチョンの2本立てとした.また,それぞれの病態の特殊性に鑑み,頸髄損傷,高齢者と小児の脊髄損傷,自律神経過緊張反射(自律神経過反射)に関しては独立した章を設けた.診断に関しては,「検査と診断の手順」という項目を設け,診断に至る検査の流れが理解しやすくなるように配慮した.
アルゴリズム:初版,第2版を継承する形とした.ただし,「はじめに」の「3. 作成の背景」に記載されている,「尿路合併症の防止,(社会的)尿禁制の獲得,生活の質の改善を主なアウトカム」に設定してガイドラインを改訂するという方針をアルゴリズムに反映させるため,ガイドライン委員会での議論の結果,尿路管理法の選択に関する部分に若干の変更が生じた.初版,第2版では「良好な排尿」の有無が選択の基準となっていたが,今回の改訂に当たっては,CQ1,2で述べられている腎障害・症候性尿路感染のリスク因子と,初版,第2版の「良好な排尿」に含まれる3項目(高圧排尿なし,有意な残尿なし,膀胱変形なし)に基づき,これらが認められなければ原則として自排尿,認められれば清潔間欠導尿という流れにした.
尿路管理法:「排尿管理」という用語は,「二分脊椎に伴う下部尿路機能障害の診療ガイドライン」に準じて「尿路管理」に変更した.また,第2版での「各排尿管理法の長所と短所」に相当する「尿路管理法」の項目は,第3版の内容を踏まえてその体裁を変更した.
クリニカルクエスチョン:アルゴリズムに関連するものを中心に取り上げた.総説との2本立ての構成となったために,第3版でのクリニカルクエスチョンの数は,前回の44から21に減少し,質問内容にも改訂を加えた.
医療費・保険診療:増加し続ける医療費の問題や脊髄損傷患者に対する診療の特殊性を踏まえ,脊髄損傷の診療におけるコストベネフィット,脊髄損傷患者の下部尿路機能障害における保険診療上の留意点に関する内容を加えた.
このガイドラインが脊髄損傷患者の診療にかかわっている多くの関係者に利用され,本邦での脊髄損傷患者における下部尿路機能障害に対する診療の質の向上につながることを祈念する次第である.
2019年7月
脊髄損傷における下部尿路機能障害の診療ガイドライン作成委員一同
目次
■目 次■
巻頭言
脊髄損傷における下部尿路機能障害の診療ガイドライン作成委員
脊髄損傷における下部尿路機能障害の診療ガイドライン評価委員
目次
はじめに
脊髄損傷における下部尿路機能障害の診療アルゴリズム
脊髄損傷における下部尿路機能障害の診療アルゴリズム (解説)
尿路管理法のまとめ
第1部 総論
§1.脊髄損傷の疫学
§2.脊髄損傷における下部尿路機能障害の病態生理
§3.脊髄損傷における下部尿路機能障害の診断
I.検査と診断の手順
II.一般的診察
III.尿流動態検査
IV.画像検査・内視鏡検査
§4.脊髄損傷における下部尿路機能障害の治療
§4-1.尿路管理法
I.急性期の尿路管理法
II.自排尿
III.清潔間欠導尿 (clean intermittent catheterization:CIC)
IV.カテーテル留置(尿道カテーテル留置・恥骨上膀胱瘻カテーテル留置)
§4-2.行動療法
I.生活指導
II.生活指導以外の行動療法
§4-3.薬物療法
I.抗コリン薬
II.β3アドレナリン受容体作動薬(β3受容体作動薬)
III.α1遮断薬,コリン作動薬,その他の下部尿路に作用する薬剤
§4-4.外科的治療
I.膀胱拡大術
II.尿失禁防止術
III.尿路変向術(失禁型,禁制型)
IV.括約筋切開術
V.尿道ステント
§4-5.その他の治療法
I.経尿道的ボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法
II.ボツリヌス毒素括約筋内注入療法
III.電気・磁気刺激療法
§5.脊髄損傷患者における症候性尿路感染の診断と治療
§6.小児の脊髄損傷
§7.高齢者の脊髄損傷
§8.頸髄損傷
§9.自律神経過緊張反射 (自律神経過反射)
§10.脊髄損傷の診療におけるコストベネフィット
第2部 クリニカルクエスチョン (CQ)
CQ1:脊髄損傷患者において,腎障害(腎機能障害,上部尿路障害)の危険因子にはどのようなものがあるか?
CQ2:脊髄損傷患者において,症候性尿路感染の危険因子にはどのようなものがあるか?
CQ3:脊髄損傷患者において,尿失禁の危険因子にはどのようなものがあるか?
CQ4:脊髄損傷患者において,下部尿路機能障害に関連したQOL低下の危険因子にはどのようなものがあるか?
CQ5:脊髄損傷患者の腎機能障害を早期にとらえる臨床検査値として,シスタチンCは推奨されるか?
CQ6:脊髄損傷患者の尿路管理法の決定において,透視下尿流動態検査は膀胱尿道造影単独よりも
推奨されるか?
CQ7:脊髄損傷患者において膀胱癌のスクリーニングのために定期的な尿細胞診や膀胱鏡検査は推奨されるか?
CQ8:清潔間欠導尿の適応がある脊髄損傷患者において,清潔間欠導尿は反射性排尿やクレーデ排尿/
バルサルバ排尿,尿道カテーテル留置や恥骨上膀胱瘻カテーテル留置と比べて推奨されるか?
CQ9:脊髄損傷患者における清潔間欠導尿において,親水性コーティング付きディスポーザブルカテーテルを
用いることが推奨されるか?
CQ10:夜間多尿あるいは外出時に清潔間欠導尿が困難な脊髄損傷患者において,間欠式バルーンカテーテルの
併用は推奨されるか?
CQ11:清潔間欠導尿を実施中の脊髄損傷患者における無症候性膿尿・細菌尿に対して,抗菌薬投与は
推奨されるか?
CQ12:カテーテル留置を選択せざるを得ない脊髄損傷患者において,恥骨上膀胱瘻カテーテル留置は
尿道カテーテル留置と比べて推奨されるか?
CQ13:カテーテル留置で管理されている脊髄損傷患者において,膀胱洗浄は推奨されるか?
CQ14:腎障害や症候性尿路感染の危険因子を有する,あるいは尿失禁を認める脊髄損傷患者において,
抗コリン薬の投与は推奨されるか?
CQ15:腎障害や症候性尿路感染の危険因子を有する,あるいは尿失禁を認める脊髄損傷患者において,
β3受容体作動薬の投与は推奨されるか?
CQ16:保存的治療に抵抗性の膀胱蓄尿機能障害を有する脊髄損傷患者において,膀胱拡大術は推奨されるか?
CQ17:保存的治療に抵抗性の尿失禁を有する脊髄損傷患者において,尿失禁防止術は推奨されるか?
CQ18:清潔間欠導尿が困難と考えられる頸髄脊髄損傷患者において,括約筋切開術は,尿道ステント,
膀胱瘻,尿道カテーテル留置と比べて推奨されるか?
CQ19:保存的治療に抵抗性の膀胱蓄尿機能障害を有する脊髄損傷患者において,経尿道的ボツリヌス毒素
膀胱壁内注入療法は推奨されるか?
CQ20:下部尿路機能障害を有する脊髄損傷患者において,どのような経過観察が推奨されるか?
CQ21:脊髄損傷患者の下部尿路機能障害における保険診療上の留意点は何か?
索 引