序
このたび,一般社団法人 日本認知症予防学会監修『軽度認知障害(MCI)診療マニュアル』を出版することができたことをとても喜ばしく思っております.
日本認知症予防学会では認知症予防に携わる専門人材の育成を目指して,認知症予防専門士制度,認定認知症領域検査技師制度(日本臨床衛生検査技師会と共同運営),認知症予防専門医制度,認知症予防専門看護師制度,認知症予防専門薬剤師制度(日本薬剤師会と共同運営)の5つの制度を順次創設してきました.認知症予防専門医制度は2016年に初代認知症予防専門医制度委員会委員長であった岡山大学医学部脳神経内科教授の阿部康二先生(現 国立精神・神経医療研究センター病院 病院長)の発案で立ちあげ,認知症予防の最前線で活躍する専門医の育成を始めました.地域でかかりつけ医として医療を担って頂いている医師は,認知症早期発見の最前線にいて生活習慣病の管理をしておられ,まさに認知症予防専門医であると考えます.その後2代目の委員長である群馬大学医学部脳神経内科教授の池田佳生先生に認知症予防専門医制度は引き継がれ,2018年に初回の認定がなされ現時点で認知症予防専門医は411名(2023年4月28日時点)を数えるに至っております.認知症予防専門医は認知症の診断や治療に最前線で携わっており,当然,軽度認知障害(MCI)の診断に至る機会は多くなります.これまで,MCIには薬物治療が認められていないために診断のみで終わってしまうことも少なくなかったと思われます.2023年8月21日に疾患修飾薬であるレカネマブが本邦で承認されました.疾患修飾薬の投与対象はMCIと軽度の認知症になると思われ,MCI診断の重要性がこれまで以上に増してきています.このような状況の中,認知症予防専門医はもちろんのこと,認知症医療に携わる多くの医師にMCIを正しく理解して診断し,マネジメントして頂けるように本書を作成することになりました.本書では,特にMCIへの非薬物的アプローチについて科学的なエビデンスのあるものを紹介しております.MCIの診断後支援の一貫として患者ならびに家族へのアドバイスの参考にして頂ければと希望します.
本書の作成ができたのは,認知症予防専門医制度委員会の委員長である群馬大学医学部脳神経内科教授の池田佳生先生の多大なご尽力によるところであり深く感謝いたします.また,本書の作成,編集にご高配を頂いた中外医学社の上岡里織様,輿石祐輝様にお礼申し上げます.
2023年8月
一般社団法人 日本認知症予防学会 代表理事
鳥取大学医学部保健学科認知症予防学講座(寄附講座)教授
浦上克哉