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書籍詳細

経験から科学する老年医療

経験から科学する老年医療

山本 章  著

A5判 226頁

定価(本体2,000円 + 税)

ISBN978-4-498-05910-8

2013年11月発行

在庫なし

老年医療は総合医療の重要な一分野で,高度な専門的知識がもとめられる.豊富な臨床経験をもとに,感染症・糖尿病・免疫・排尿障害と便秘・皮膚疾患・栄養など診療の現場で遭遇するさまざまな問題についてエビデンスを踏まえて解説した書.

「経験から科学する老年医療」の出版に当たって

 大学院終了後、1961年から1977年まで大学病院の内科での臨床研究と教育、1978年から1994年まで国立循環器病センター研究所で動脈硬化関連疾患の基礎研究、そして1996年から現在 (2012年度末) まで介護老人保健施設(老健)での老年医療と、丁度17年を区切って異なる場所で医療と医学研究に与かってきた。現在82歳、この年でなお診療を続けられていることを幸せに思っている。
 老健の仕事に慣れて強く意識するようになったのが「総合医療」である。筆者が医師となってから今日までの50年間に医療界は大きく変貌した。システムの面では専門分化であり、内科(medicine)と外科(surgery)にまとまっていたメジャーの分野は、循環器、消化器、脳神経など、主に臓器別に、そして研究面ではさらに細分化され、それぞれ新しい診断技術と治療法を競い合うようになった。しかし、人の体は機械ではなく、一つの病気が複数の臓器を侵すこともしばしばである。欧米ではこの点を補うために総合医療の専門医も作られ、初期研修でも「医者」としての価値を醸成する場となっているが、「縄張り尊重で、お互いの議論を避ける」日本社会では総合医療はいまだ検討の段階にとどまっている。
 総合医療を担当する医師は一般的にはgeneralistと呼ばれ、家庭医が主たる部分を占めている。一方、病院の救急診療医にはそれなりの高度の技術が要求されるし、有名なティアリー先生の診断学のように病気の本質を的確に診断することは病院での総合医療として極めて重要である。筆者の働く老健は元々病院から家庭への中間施設として設定されたもので、正式の医療機関ではない。しかし、利用者の高齢化と長期滞在者の増加に伴って、老健の医師には家庭医としての重要な役割を与えられるようになった。老人は幾つもの病気を持ち、治療には若い患者相手とは違った配慮が必要である。総合医療は幅広いスペクトルを持つ。
 最近ではインターネットで専門用語を検索し、PubMedを通じ、また大学や研究センターの図書館からコピーを取り寄せて、世界中の論文を容易に検索することができる。施設入所者には脳卒中後遺症の人々が多く、糖尿病を持っている人々が多い。このほうは筆者の専門領域なので、大きな苦労なしに、新しい知識を入れて、症例に役立てることができた。阪大の保健学科の大学院生に糞便中の抗菌薬耐性(ESBL)大腸菌を調べてもらった折、保菌のリスクファクターに、化膿性疾患の既往と並んで糖尿病が出てきたのは当然と言えばそうかもしれないが、一つの驚きであった。下肢の厥冷に対して毎日足浴を必要とする入所者が多いので、文献を調べていると、末梢の毛細血管に動静脈シャントがあって毛細血管の流量を調節しており、糖尿病性自律神経障害ではこれが開きっぱなしになるため、皮膚の実質的な血液還流ができなくなっているという論文を見つけた。自分の専門分野で細かいことにばかりこだわっていたのでは、こうした新しい知識に接する、医者としての喜びはなかったであろう。
 風邪の小流行の後、アルブミンや血小板の減少、抗菌薬に対するアレルギー反応など、色々な現象が見られたのを機会に、免疫と炎症の勉強をした。DNAの損傷が起こると、造血幹細胞が増殖しなくなる一方、リンパ球に分化しかけのものはそのまま全部成熟してしまって、ひずみを持ったまま末梢のリンパ節で増殖し続けるという仮説には感心した。このところ医学部ではウイルスを研究しようとする若い医学生が少なくて困っているとのこと。しかし最近、『誰も教えてくれなかった「風邪」の診かた (岸田春樹著、医学書院、2012年11月)』を読んで、時代が進んできていることを感じた。この本の著者のような臨床研究者の下で、薬学や理学部出の若い基礎研究者が多く働けたら、日本の医学に大きな進歩がもたらされるだろう。機械に使われる医者ばかりを育てずに、基礎研究者に貴重なヒント(研究材料)を与える能力のある臨床医を育てるのも急務である。
 先の著書『経験から学ぶ老年医療』は、看護師や薬剤師にも読んでもらえるように、できるだけ身近な項目を対象とした。今回の「経験から科学する老年医療」は思い切って、難解なものは難解なりに、将来を見据えた人だけにでもわかってもらえればよいという「開き直った」気持ちで著述した。専門家が専門の狭い領域だけ掘り進んでいたのでは(領域間の摩擦、あるいは接合なしには)進歩はない。別の著書「ゆとりなき社会への提言」にも書いたことだが、駆り立てられる一方で、広く周りを見渡し、討論し、考える「ゆとり」がなければ、社会は進歩しないであろう。
 この本を読んで、老年医療が総合医療の重要な一分野で、高度の専門的知識の集積の上に成り立つことを理解していただける医療関係者、医学研究者が増えてくれることを切に期待する次第である。

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第1章 感染症 
(1)高齢者施設における尿路感染症と多剤耐性(ESBL産生)大腸菌
(2)ウンチ学のすすめ、糞便移植の時代が来た 
(3)耐性菌を俯瞰する、ペットの感染症の知識も必要 
(4)施設では毎年特異な風邪がはやる:風邪学のすすめ ─病原微生物と宿主の組織抗原類似性の問題を考える 
(5)感染症をなくするには建物の構造から:特にダクトのシステム改善を 

第2章 糖尿病をめぐる諸問題 
(1)糖尿病と認知症 
(2)低血糖と低体温 
(3)血糖コントロールははたして合併症の予防に繋がるのか  
(4)薬の選択に悩む糖尿病治療 ─とりわけ新しい糖尿病治療薬に注意 
(5)臨床的に解明されつつある糖尿病性心血管病の病理学的特性 
(6)腎性貧血とエリスロポイエチン製剤 

第3章 高齢者における副腎機能不全 
(1)低ナトリウム血症 
(2)低血圧を起こす風邪もある(自律神経障害、副腎機能低下、心筋炎?) 

第4章 炎症と血栓 
(1)感染症と血栓 
(2)抗凝固療法と血栓溶解療法を高齢者ではどう使う 
(3)脳梗塞への対応:施設入所者についての経験と反省から学ぶ 

第5章 免疫の老化 
(1)自然免疫の老化 
(2)獲得免疫の老化 
(3)治療を通じて知る免疫細胞の過激反応の実態 
(4)DNA 損傷が免疫のバランスを崩し、慢性炎症を引き起こす 
(5)免疫異常から臓器障害へ:臨床への繋がり 
(6)火のない所に煙は立たぬ 
(7)風邪学のすすめ 

第6章 排尿障害と便秘:タブーにしてはならない排泄と性機能の問題
(1)前立腺がんの早期診断をめぐって 
(2)前立腺肥大と下部尿路症候群 
(3)男性・女性双方にまたがる骨盤痛症候群(骨盤臓器機能不全症候群) 
(4)過活動性膀胱(overactive bladder)とその治療 
(5) 高齢女性の残尿 
(6)加齢と便秘 

第7章 皮膚病はMedicine(内科学:医学)の最重要拠点の一つ 
(1)乾癬:感染・免疫遺伝学的研究の突破口 
(2)アナフィラキトイド紫斑病か、単純疱疹か 
(3)免疫再構築性炎症症候群 
(4)軟部組織の損傷:自ら車の事故に遭遇して学んだ傷の治り方 

第8章 高齢者の栄養 
(1)地中海食に学ぶ:経済力に相応した、おいしく栄養のある食事を
(2)栄養学:その矛盾の数々 

第9章 切実な、医療と医学教育問題 
(1)総合的視野を欠いた専門分化は正しい医療を損なう 
(2)どうする専門偏重からの脱却、複雑な病気への対応 
(3)医療の格差を解消する手段はないのか 
(4)総合内科医の育成に向けた制度改革 
(5)医療における看護師の役割:深刻な看護師不足 

第10章 稿を終えるに当たって

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