巻頭言
1983年に国内で初めての体外受精が成功して以来,わが国の生殖医療のレベルはこの40年間に着実に進化し,現時点では国際的にも最高水準にあると言えます.課題としては,妊娠を望む女性の近年の高年齢化に伴う諸問題以外にも,体外受精による反復着床障害に対する母体側の病態解明,ならびにその治療法の開発と,染色体異常のない良質の胚を作出する方法の確立などがあります.
ところで生殖医療の現場では,さまざまな職種の方々が活躍しています.すなわち直接診療を担当する医師(産婦人科・泌尿器科)や看護師以外にも,専門的なスキルをもつカウンセラー(遺伝・心理),あるいは精子,卵子や受精卵を取り扱う胚培養士などがチーム一丸となり,挙児を切望するクライアントに対して上述のように最高水準の医療を提供しています.
そこで本書は,中外医学社のグリーンノートシリーズが目指す臨床現場で役立つ実践的な内容を満載した,研修医および医療スタッフ向けのハンドブックを出版するという趣旨に沿い,現時点における生殖医療のあらゆる知見を,わかりやすく理解できることを目標に編集致しました.また最新のガイドラインも数多く引用しましたので,是非とも日常の診療で気軽にご活用いただけましたら幸いに存じます.
執筆陣には,生殖医療の分野において永年にわたり豊富な実績と経験を有する兵庫医科大学医学部産科婦人科/兵庫医科大学病院生殖医療センターで実際に診療に携わるメンバー,および本学OBの先生や,関連不妊症診療施設のスタッフにお願い致しました.本書の刊行にあたり,ご多忙な中ご執筆頂いた先生方に喪心より感謝を申し上げます.
また本書の企画以来,中外医学社の皆様方からは献身的なご協力,ご指導をいただきましたことに,深く感謝を申し上げます.
令和4年3月
兵庫医科大学医学部産科婦人科学講座主任教授
兵庫医科大学病院生殖医療センター長
柴原浩章