序
血液学は,基礎医学,臨床医学の両分野において目覚ましい進歩を続けている.基礎医学によって白血病のゲノム異常がすべて解明されつつあり,臨床医学によってこれらのゲノム異常が病態・予後に及ぼす影響も明らかにされつつある.
急性白血病の治療は,寛解導入療法,同種移植を含めた寛解後療法,そして,これらを通じて必要な感染症対策などの補助療法から構成される.各症例の病態,背景は極めて多様であり,血液内科医は治療の各局面においてEBM(evidence based medicine)に基づいた,しかも各患者さんに最も適した治療選択についての総合的な判断を求められる.一方,慢性骨髄性白血病に対してはチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)が治療の主役であるが,治療効果の適切な評価,TKI抵抗性例に対する次の治療選択,TKIの副作用に対する適切な対応などが求められる.また,骨髄異形成症候群においてもメチル化阻害薬,エリスロポエチン製剤が登場し,同種移植を含めて治療は極めて多様化している.
このような状況下では,血液内科の専門家でも自らの診断,治療選択がEBMに則った最適のものであるかどうか迷わざるを得ない.これに対応するため,日本血液学会は,造血器腫瘍診療ガイドライン(第1.0版)を2013年に冊子として出版し,現在は改訂第1.1版をWeb上で公開している.本ガイドラインは診断,治療アルゴリズム,CQとそれに対する回答から構成され,白血病の項目は第I章として取り扱われている.しかし,本ガイドラインでは紙面の都合上,いくつかの重要な項目を掲載しきれず,また,記載内容の背景を十分に述べきれなかった部分も多い.
そこで,本書では,血液専門医が日常診療で白血病治療を行う際に遭遇する数々の疑問に答えるべく,特に造血器腫瘍診療ガイドラインだけでは不十分な部分を補完するよう必要な項目をQ&Aとして追加した.また,ガイドラインのみでは満足できない読者に対して「一歩進んだ」内容も盛り込んだ.これらに回答してくださった著者は,いずれも担当領域の一線で活躍する我が国のリーダーであり,各回答が適確かつ簡潔にまとめられている.本書が読者の先生方の日常診療の一助となれば幸いである.
2015年3月
近畿大学医学部血液・膠原病内科 松村 到