序文
2013年12月6,7日,岐阜市で第40回日本肝臓学会西部会を開催させて頂きました.メインテーマは「臨床現場からラボへ─次のニーズは何か」とし,おかげさまで主題,一般演題を合わせて合計477題のプログラムとなり,部会として過去最大規模に達しました.多くの演題をご応募頂き,さらに活発な討論で会を盛り上げて下さいました会員諸先生方に心から御礼を申し上げます.
さて近年,肝疾患の診断技術,とくに遺伝子解析,画像診断などの進歩や,治療薬の開発には目覚ましいものがあります.たとえばC型肝炎の治療も経口薬のみで可能となる時代が到来しました.また慢性肝不全に対しても従来の治療に加え脳症や腹水に対する新規薬剤が導入され,B型非代償性肝硬変を核酸アナログで治療し,高い効率で肝不全症状から脱却できることも明らかになりました.さらに肝発癌の予防も初発についてはかなり目途が立っています.しかし一方では治療抵抗性のウイルス肝炎や制御困難な肝癌再発,難治性の腹水や潜在性肝性脳症など,次の課題が明らかになってきました.
このような肝疾患診療の現状と今後待ち受ける課題を見据え,本学会は「臨床現場からラボへ─次のニーズは何か」というテーマで企画しました.中でも小生が永年研究テーマの一つとしてきた慢性肝不全については,最近の疫学や病像・治療成績に関する包括的なデータがないことも臨床上おおきな問題であり,主題ポスターとして取り上げ,平成25年度におけるまとめを行うこととしました.先に述べた新薬の効果をフィールドで評価する際のバックグラウンド・データ構築も狙ったものです.この趣旨で久留米大学医学部内科学講座消化器内科部門川口巧先生と岐阜大学医学部附属病院第1内科清水雅仁先生に,西部会におけるデータのとりまとめをお願いした次第です.幸い,諸施設の先生方と問題意識を共有でき,ポスター発表数は合計24題に上りました.本書は第2部でこれらのポスター発表内容を記録に残すとともに,第1部には慢性肝不全の各領域に関する総説7論文を,それぞれ臨床と研究の最前線でご活躍の先生方にご執筆頂きました.読者の先生方が実際の症例を前にして慢性肝不全に関する様々な問題に遭遇したとき,本書の目次あるいは索引をご覧頂くと必ず該当する項目を探し出せる書物に仕上げることができたと自負しています.
本書が臨床現場で幅広く活用されることを期待し,序文と致します.
2014年9月
岐阜大学学長 森脇久隆
(第40回日本肝臓学会西部会会長)