序
自治医科大学に救急医学教室ができて8年,この間,救急救命士制度の確立,災害医療の充実,ヘリコプター搬送の推進など,救急医療をめぐる状況も大きく変化しました.
われわれは,地方にある大学の救急医学教室として,地域住民のための救急医療を行う努力を重ねてきました.院内独立型でもなく,ふりわけ外来でもなく,各専門科を尊重しつつ,教室の独立性も失わないという,一見不可能な命題に挑戦しつつ進んできた8年間でした.
現在は,急患数も当初の数倍に増えましたが,教室のスタッフを中核として,専門科の協力も得て,病院全体で一次から三次までの救急患者に適切な医療を提供する体制を作りました.
異なった地域で育ち,異なった経験をもつ病院全体の医師と意思疎通をはかり,トリアージをしながら救急医療を行うには,基礎となる幅広い知識と救急医療の専門性とが必要ですが,医療の進歩は激しく,教室のスタッフにとって追いついていくのは大変です.
このために,救急患者の初療の知識や技能の勉強会,毎日のカンファランスを通しての勉強を行ってきましたが,教室の皆が作ったその時の資料がスタッフやレジデントにとって共通事項のメモとしてとても役に立ちました.本書はこれをまとめて加筆したものですが,メモですので,言葉たらずの所や,不統一の表現が残っているかもしれません.また技術的な部分は省きました.
大都市の救命センターではなく,地方でわれわれ同様,一次から三次までの急患を受け入れて苦労している施設はたくさんあるのではないかと思います.このような所で働く方々に本書が役に立てば幸いです.
2000年8月
救急医学教室教授
鈴川正之