序
武田多一君は,筑波大学を卒業した後,同大学病院で2年間研修し,1988年4月から私共の杏林大学医学部救急医学教室に在籍している非常に秀れた人柄の良い青年医師である.この間,Harvard大学にも留学し,臨床面では侵襲に対する生体の反応,ショックの病態生理,基礎面では血管内皮細胞の増殖制御,血管透過性亢進の機序などの研究をしている学究である.
通常生体は様々な内的外的条件が一定範囲内で維持されている場合にのみ生存が可能である.しかしながら,これらの条件が大出血,重症外傷や熱傷,ならびに心筋梗塞などの場合には急激に変化し,その結果生命維持が困難となることがある.この様な緊急事態に対する対応の基本は,外界の酸素を体内の末梢に充分量取り込ませ,併せて体内の諸因子の均衡を保つための局所治療を講ずることにある.
本書はこの様なlife-threatening conditionに体し,CPAから始まる様々なbedside techniqueを目的,適応,注意,器具,方法の順に図解入りで極めてわかり易く述べた解説書である.
臨床医学は,単なる技術の集積ではなく,学識と経験と患者に対する深い思いやりをもつ人柄の裏づけがあって始めて成り立つものである.
本書には,編集された島崎修次教授の力添えもあり,武田多一君の永年の研究成果と臨床経験と誠実な人柄の反映が随所に見られ,救急医学・救急医療を専門とする医師,看護婦だけでなく各科の医師,看護婦にとっても日常不可欠な好書である.
本書の出版を大変嬉しく思っている.
1995年10月
杏林大学理事長 松田博青
はじめに
本書は,主として研修医を対象として書かれた,救急医療・集中治療に必要なベッドサイド手技の,イラストマニュアルである.
著者は我々の高度救命救急センターで,日夜第一線で中核となって働く医師の一人である.彼は卒後10年を越え,救急医としては油の乗った医師であり,しかもハーバード大学をはじめさまざまな施設で研修,治療を行い,その間,種々の診療手技を身につけている.今回は,その中からとくに取捨選択して,最も容易で合理的方法を本書にまとめた.
内容は日本球急医学会認定医取得に必要な基本手技に加え,救急現場に必要なものをほぼ網羅している.各項目ごとに目的,適応,準備用具等が明記され,手技が図で解説されている.しかも術者が,イメージトレーニングしやすいように特別に工夫された図が使用されているのが特徴で,研修医あるいは卒後間もない初心者にはうってつけであり,さらには専門家が知識を再確認できように高度な内容でもある.
あちこちの頁を参照することなく,必要な項目を読むだけで必要な知識が得られるように,デザインされている.基本的な項目は研修医に限らず学生・看護婦にも役立ち,また,専門的事項は救命救急センターや集中治療室(ICU)で働いている専門医にも充分に役立つであろう.
本書が標準的な手技マニュアルとして広く利用されることを期待する.
1995年9月
島崎修次