第5版の序
今回の改訂は,癌取り扱い規約の改定に伴う変更が多くを占めている.見直しで内容不足と思われる箇所がいくつも見つかるが,充分に書き足せば厚い書物となって簡潔さが失われてしまう.それでも,疾患やサインの追加,内容の一部変更と補足,項目名の変更などを若干させて頂いた.初版からすでに12年を経て,引用文献の年代が古く感じられるようになってきたが,たとえ古典になろうとも優れた内容であれば常に活用し得るのであり,先駆者の努力を大切にしたいと思っている.
再度改訂する機会を与えられたことを感謝するとともに,本書が超音波診断の習得を目指す読者の熱意に少しでも応えられれば幸いである.
2002年2月
著者
初版の序
近年,エレクトロニクスの進歩に伴い続々と登場した医療機器のなかで,超音波断層装置,CTスキャン,MRI(磁気共鳴画像)などに代表される診断機器の発達により,現代はまさに画像診断の時代といえる.いわゆる総合画像診断というものは,対象臓器,対象疾患に対する各々の診断法の特徴を引き出して総合的により的確な優れた診断を進めていくことである.その一端を担う超音波検査は,大掛かりな他の診断機器に比べコンパクトで,非侵襲性,簡便性に優れ,安価であるにも拘らず,病変によっては,最も高い診断能を発揮する.とくに,しばしば臨床医の触診や聴診器代わりとたとえられているように,外来やベッドサイドで体内の情報をリアルタイム像でただちに得られることは超音波装置が広く普及した要因の一つである.現在では,心臓,産婦人科領域,腹部全般,表在臓器の検査に限らず,超音波ガイド下の穿刺術,術中検査,超音波内視鏡などに幅広く応用されている.実際の診療では,多くの超音波診断の専門家が活躍しているが,専門とする医師や技師のみならず,すべての臨床医が超音波装置を自由に扱えることが望ましい.しかし,現代の多忙な医療のなかでは,多くの時間を割いて一つの検査法を修得することはなかなか困難である.かといって,手軽な検査だけに不十分な知識で施行し診断を下すことは危険である.本書は,腹部超音波診断に必要な解剖と疾患像をシェーマを交えながらコンパクトにまとめたものである.検査時だけでなく,診断結果の報告書作成の際の参考書として,超音波診断に携わる方々の一助となれば幸いである.
最後に,本書の作成にあたり御助言を頂いた慶応大学医学部放射線診断科久直史先生,そして企画から出版まで終始御尽力頂いた中外医学社,荻野邦義氏,久保田恭史氏,川添千景氏に心から感謝致します.
1989年4月
著者