序
今日では,腹部臓器の疾患の診断は,CTなしには考えられないとい っても過言ではありません.内科・外科・産婦人科・泌尿器科・小児科など,関連するあらゆる臨床科において,CTの読影に関する知識は,診断学の基礎として必須のものとな っています.腹部CTの検査・読影に関する知見は,数年前にはい ったん完成の域に達したかと思われましたが,前世紀末に出現したマルチスライスCT(multidetector-row CT)によ って,いちだんと飛躍的な発展を遂げようとしています.
本書は,雑誌『臨床医』に「腹部CTのよみかた」と題して2年間にわた って連載した内容をまとめたものです.腹部CTを基礎から学ぼうという方を念頭におき,正常解剖や読影の進めかたについて,基本的なところからわかりやすく解説するよう心がけました.日常の臨床で腹部CTを活用しておられる関連各科の先生方のお役に立つことを企図していますが,もちろん放射線科専門医をめざす研修医・若手医師や,医学部高学年の学生諸君の勉学の参考にもなるものと思います.
基本的には臓器ごとに記述を進めていますが,連載として各回読切りの形で構成したので,肝臓・腎臓など内容の多い重要臓器は複数の章に分けています.一方,臓器ごとの記述では疾患の全体像を理解しにくい悪性リンパ腫や全身疾患については,特に独立した1章を設けて,複数臓器にまたがる多彩な病変を統一して扱うことを試みました.
腹部CTが対象とする臓器・疾患は多岐にわたり,専門が細分化・高度化した今日では,ひとりの著者がその全分野をカバ ーすることは容易ではありません.内外の先達の著述・文献をじ ゅうぶん検討して誤りなきよう努めましたが,至らぬ点についてご高批をたまわりたく願 っています.
CT診断の精髄は何よりもその画像にありますので,病変を鮮明にあらわす図版を呈示することには,とくに意を尽くしました.東京大学医学部附属病院放射線科および関連施設の多数の症例を用い,大多数の図版について最新の装置による鮮明な画像を掲載できたことは,本書の特色のひとつと思います.ご支援,ご協力いただいた医師・技師の皆様には,この場を借りて厚くお礼申し上げます.
本書が腹部CT診断を学ぶ方々のお役に立ち,ひいては病に苦しむ人々に少しでも助けとなるところがあれば,著者としてこれに過ぎる喜びはありません.
2001年7月
岡田吉隆