はじめに
本書は医師国家試験・看護婦国家試験においてそれぞれベストセラーを続けている「記憶術シリーズ」の薬剤師版として企画された.
薬剤師国家試験は難易度が高いが,その主たる原因に膨大な数にのぼる薬剤名等の記憶のしにくさがある.いわゆる〔まとめ〕本としての出版物はいずれも要点を示すだけで,理解した後の記憶の便をはかってくれたものは何ひとつない.薬学もどちらかといえば理論により結論が整然と導かれる理論科学ではなく,事実が優先して「知らなくては出来ない」という経験科学の側面が大きい.つまりいくら考えても理論科学のように答えは出てこないのである.ここに必要悪としての丸暗記の必然が生じて来ることになる.そもそも丸暗記は不確実かつ記憶の保持が難しく,古来より幾多の工夫がそれに対してなされてきたが,「ヒトヨヒトヨニヒトミゴロ」「フジサンロクニオームナク」「イヨクニガミエタ」などという語呂合わせやこじつけによる無意味語の有意味語化の工夫は広く一般に知られてきたし,実際この種の記憶法は極めて有効であることは論を待たない.
本書は記憶の立場から薬学にアプローチするという新しい手法で書かれており,如何にして記憶しやすくするかという点を徹底的に追求したものである.「おぼえる」ということを唯一最大の目的としているので,その目的に沿って無意味語の有意味化など視覚を含めた複数の記憶ルートを確立して記憶の正確かつ長時間の保持を容易にするよう可能な限り努力した.記憶の便の為に学問的見地からはやや強引な割り切り方をした部分もあるが,大半はすんなりと受け入れて下さるものと信ずる.また,本書はいわゆる教科書とは全く別のものであるから,単独でなく併用して効果の上がるものである.制作にあたっては本書に類するものが無い為まったくのゼロからスタートせねばならなかったので内容に至らない点があるかもしれないが,そこはこの本の楽しく勇気ある企画に免じて許していただきたい.本書が読者諸氏の薬学知識習得に少しでも役立てれば苦労も報われようというものである.是非御活用をお願いする.
平成六年夏
こくしおぼえかた研究会