序--改訂にあたって
「腹部CT診断100ステップ」の初版が1990年である.この十余年の間にCT診断も大きく変化してきた.まずCT装置.ヘリカルCTがあたりまえになり,マルチスライス(多列検出器型)CTも普及してきた.山梨医大附属病院のCTも2台がマルチスライス,1台がヘリカルである.これらには,時間分解能がよい(撮像時間が短い)ことと,長軸方向の撮像データが連続しているという特徴がある.画像マトリクスは従来と同じ512×512であるから基本的な空間分解能に差はないはずであるが,高速であるために容易に薄いスライスで広い範囲を撮像することができ,体動による画像の劣化を抑制できるため躯幹部における空間分解能も実際には向上している.時間分解能がよいために簡単に多時相のダイナミックCTが施行でき,患者のスループットが向上した.MPR画像や三次元画像もルーチン化している.
そして何よりも画像診断における役割が変わってきた.CTが最も情報量の多い画像診断であることに異論はないであろう.しかし,かつては「CTは時間がかかる」「CTは混んでいてすぐできない」ために,必要なときに撮影できないことも少なくなかった.しかし今やCTは単純X線撮影や超音波とならんで,時にはこれらに先んじて行う検査であり,いつでも可能な検査でなければならなくなってきた.急性疾患における役割も大きい.
さらに疾患概念や分類の変化.肝におけるAH(腺腫様過形成),NRH(結節性再生性過形成)など多様な結節群,膵や胆道におけるIPMT(管内乳頭状粘液産性腫瘍),膵炎診断におけるCTの役割etc.
これらを踏まえて,新しく「腹部CT診断120ステップ」として発刊することにした.日常診療に役立てば幸いである.
2001年12月 北岳,間の岳,農鳥岳が一夜のうちに真っ白になった朝に
荒木 力
初版の序
本書はCTを中心にした腹部画像診断を解説したものです.診断は画像診断だけで成されるものではありませんし,画像診断がCTだけで足りるものでもありません.しかし,CTや超音波に代表される非浸襲的診断法の進歩と普及により,診断能力が飛躍的に向上したことは万人の認めるところです.
画像診断学に入る道は様々です.X線検査から入る場合,CTから入る場合,超音波から入る場合,あるいは病理学から入る場合もあります.画像診断学を専門としている人でも,得意の分野も不得意の分野もあります.しかし,患者の立場に立てば,「何でもよいから,できるだけ苦しくない,痛くない方法で,早く診断して,治してほしい」と考えるはずです.
ここでは,CTを中心として診断を進め,CTの弱点を他の診断法(特に超音波,シンチグラフィ)で補うという流れで進めています.その理由は次の4つのCTの属性によります.
(1) CTは現在広く普及し,容易に撮影することができる.
(2) 画像として客観性が高く,独善的診断,すなわち応用の効かない診断学に陥りにくい.
(3) 患者の体格によらず,ある程度の診断レベルが保証される画像を得ることができる.
(4) 機能的診断や「透視」(real-time display)能力に欠ける.
CTの長所と短所(できれば他の診断法の長所と短所)を理解して,患者の為になる診断学を身につける一助となれば幸いです.
画像診断学の基礎は,CTや超音波やシンチグラムの理論を熟知することではなく,解剖学と病理学にあります.また画像診断学を修得するには,より多くの症例に出会うことが必要条件です.このため,より多くの画像を提示しようと,中外医学社の小川孝志,山口由紀子両氏には,多大な迷惑をおかけすることとなってしまいました.幸いにも,両氏の努力により,多くの画像とシェーマを掲載することができました.改めて御礼申し上げます.
また助言,ご指導下さった山梨医科大学放射線科,放射線部および各診療科諸氏,症例を提供して頂いた東大病院,聖マリアンナ医大病院,諏訪中央病院,朝霞台中央病院,飯富病院の皆様に厚く御礼申し上げます.
1990年3月
著 者