第2版の序
第1版が1995年に発行されてから,この4年間でのMRIの進歩は予想以上でありました.T1強調像,T2強調像がルーチンであることには変わりはないですが,T2強調像は高速SE法となり,さらにMRAやFLAIR法も普及し,かなりの施設でルーチンとしてT1・T2強調像に加え使用しているようです.さらに,EPI法の臨床応用が進み,拡散画像,潅流画像,functional MR,造影MRAなどが,日常臨床に用いられるようになってきています.臨床では,発症1時間といった超急性期の脳梗塞が拡散強調画像で容易に異常を指摘できるようになったのは,驚きでありましたし,脳研究においてのfunctional MRの活躍もめざましいものがあります.
この間,画像診断以外の分野でも,遺伝子診断が普及し,いままで診断がつかなかったものが診断可能となり,特に変性・代謝疾患でMRI所見も整理されてきました.また脳腫瘍ではWHOの新分類に基づいたまれな腫瘍の診断もなされ,その画像も経験するようになってきました.
今回の改訂ではこれらの進歩を第1版当初の「アトラスとして使える入門書」というコンセプトを保ちつつ,出来るだけ取り入れるよう努力しました.超急性期脳梗塞,脳腫瘍,代謝,変性疾患を中心に新たな項目を追加し,正常を含め多くの画像を新しいものにしました.
改訂に当たって,旧版でお世話になった皆さまに加え,山梨医大の皆さま,貴重な症例を提供いただいたNR懇話会の先生方に深く感謝いたします.
1999年3月
青木茂樹
序
磁気共鳴画像法MRI(magnetic resonance imaging)さらに略してMRは1980年代初めから臨床応用が進み,現在では脳神経系においては,不可欠の検査となっています.多くの成書,雑誌の特集が刊行されていますが,一通りの疾患を扱っているアトラスとして使える入門書はあまり見当たらないようです.
この本は,脳脊髄領域のMRIの読影に必要な知識をコンパクトにまとめることに主眼を置いて書きました.脳脊髄の画像に接する機会の多い脳外科,神経内科,整形外科,放射線科などの研修医を考えて記述したつもりです.比較的稀な疾患でも,MRIが診断の鍵となるものについてはできる限り触れましたので,専門医試験などの前にも画像のレビューとして使えると思います.それ以外の科を目指す学生,研修医が教科書などを読みながら画像が見たくなったときや,MRI担当の技師が疾患について簡単に知りたいときのアトラスとしても対応できるように配慮しました.
携帯して,日常の検査・読影の際に見てもらえるように,本の大きさを小さくし,MRIの原理については,巻末の用語で触れるのみとしました.文献に関してはCD-ROMなどが普及しているので思いきってこれも省略しました.そのかわり,正常解剖,索引を充実させ,疾患も漏れのないように心がけたつもりです.また,できるだけ各疾患毎に鑑別診断を記載して,神経放射線診断の入門書としての配慮をしました.
この本は,基本的には見開きのアトラスとなっています.読影の際,知りたい疾患を目次または索引で引いて,読影のポイントと図の説明を読めば最低限の情報が得られるようにレイアウトしました.とくに放射線科で疾患の定義を曖昧なまま病名のみ独り歩きしている感がある点を反省して,疾患の定義・概念については画像アトラスとしてはかなり詳しく記載したつもりです.巻末には簡単な鑑別診断の手引きを載せて,参照すべき項目を引く助けとなるようにしました.
MRは現在まだ発展途上で,MRアンギオ,MRS,EPI法とその応用,MRを用いた透視など,大きなフロンティアが開けていると思います.しかし,臨床の画像診断という点ではMRA以外は極端にかわることなく,画質の向上より検査時間の短縮に向かうと思われます.若輩浅学のため不備な点があるとは思われますが,この時点で画像のアトラスをまとめる意味はあるのではないかと考えて執筆いたしました.
この本の刊行にあたって,これまで多方面にわたり御指導御鞭撻を賜った佐々木康人先生,板井悠二先生,荒木力先生,鈴木謙三先生をはじめ東大および,駒込病院の放射線科の諸先生方,豊富な症例を検討する機会を与えてくださった東大脳神経外科,神経内科をはじめとする他科の諸先生に心から感謝いたします.またこの本の図譜は多くの方々の日常診療での努力の賜物で,著者はそれに多少の解説を付けただけであります.東大の神経放射線部門を創設し,画像ファイルのシステムを作ってくださった前原忠行先生,怠け者の著者に読影・検査手技を初歩から厳しく教えてくださった町田徹先生,同僚の佐々木泰志,白水一郎,大久保敏之,林直人,阿部修の諸先生方と研修医の皆さんの日々の努力がなければ,この本は陰も形もなかったはずです.そして多くの技師・看護婦の方々,とくに東大の古川金之輔氏,駒込病院の保志栄一氏,須藤泰信氏,堀井譲氏,南春日部中央病院の浜走倫人氏,横浜総合病院の山田勝氏には無理な検査を快くひきうけてくださったことを改めて感謝いたします.最後になりましたが,この本の企画・制作に尽力いただいた,中外医学社の小川孝志氏,青木滋氏に書面を借りて深謝いたします.
1995年3月
青木茂樹