はじめに
本書は一般の英文論文の書き方ではなく,情報学(インフォマティクス)の成果をもとに,日本からの英文論文発表の全体像を示すことから始めている.具体的には,日本からの英文論文発表数と,発表誌を識別している.つまり,日本の研究者がよく発表している国際誌を明らかにし,生化学,分子生物学,神経科学,薬理学・薬学,循環器病学,消化器病学,泌尿器病学,癌などの分野における活発な論文生産活動の実態を示した.日本からの論文発表誌リストから,分野による研究活動の活性も見えてくる.また,日本からの論文掲載の多い雑誌を特定し,それらのインパクトファクター値の推移からみた評価や,主要誌に占める日本からの掲載論文数の比率を,36の主題分野別に明らかにしている.国際誌への論文投稿を考えるための,これまでにないユニークなガイドとなっている.
国際的な論文投稿を行うために,編集や論文審査,そして投稿規定から出版倫理までの,国際ルールを知る必要がある.他国の研究者との共同研究や,海外一流誌への投稿にあたり,さまざまな摩擦が生まれているように思う.「生物医学雑誌への統一投稿規定」の意義から,オーサーシップや重複発表を含めた出版倫理への理解は,特にポイントとなる.
著名な国際誌は,日本からの投稿を待っており,編集ポリシーを伝えようとしている.生命科学と医学領域の一流誌への発表をめざすには,雑誌の特色や論文審査の方針を知ることである.さらに,日本からの掲載数や主要発表機関ランクなどを示し,国際誌への投稿をめざす研究者に役立つ情報をまとめている.最後に,研究者にとり関心の深いインパクトファクターをとりあげ,批判的に吟味している.個人の業績評価に応用することは誤りであり正しい理解が求められる.
本書は,日本の生命科学・医学領域における,国際論文発表の活性化に寄与することをめざしている.また,論文発表と科学コミュニケーションをめぐるトピックスが,新しい視点から解説されており,科学情報の発表と伝達に関心をもつ人々に,広く読んでいただければ幸いである.
本書を執筆するにあたり,図表の転載については,BMJ Publishing Group(London),Excerpta Medica Inc/Elsevier Science(Oxford),COPE(Committee On Publication Ethics: London)から許諾を得ている.Journal Citation Reportsを中心とした引用データの利用にあたり,ISIジャパン(トムソン コーポレーショングループ: 東京)からの了解を得ることができた.JAMAの出版データについては,岩石隆光氏(JAMA日本語版編集長)から情報を得た.New England Journal of Medicineのレフェリーシステムの実情については,2002年9月に開催されたJeffrey M.Drazen博士(同誌編集委員長)による慶應医学会主催の講演会から得た内容を含んでいる.BMJの編集製作方針については,Eric Newman氏(BMJ Publishing Group)との討論から有益な情報を得ることができた.また,JAMA編集委員のCheryl Iverson氏からは,同誌の国際化に関する資料の提供を受けた.
最後に,本書の出版意義を見出していただいた中外医学社の小川孝志氏と,編集担当の秀島悟氏に深く感謝する.
2003年2月12日
山崎茂明