2版の序
編者が初めて疫学調査,疫学研究にかかわったのは昭和40年代後半の長崎県五島列島の肝癌・肝硬変の調査であったと記憶している.すでにそれから四半世紀以上が経過したこととなる.当時編者らはある大学の疫学教室で,疫学調査研究を続けていたが,そのころ大学で「疫学」を標榜する研究室はごく少なく,新聞やニュースなどで,「日本の大学には疫学の研究室はない」などと報じられると,少し怒りを覚えると同時にこの分野のマイナー性を再認識させられるものであった.しかし,最近は「疫学」をつける研究室もふえ,臨床疫学,EBM(Evidence-Based Medicine)の隆盛を見るとまさに隔世の感がある.
編者らがEBMの普及,啓蒙活動を始めて4,5年になる.そのような活動が出版社の目にとまったのか,そこからの依頼でEBM関連の連載を始めたのは3年前であった.そして,2年前には日本で初めてのEBMのテキストブックを発刊した.欧米のEBMの単なる受け売りではなく,日本の事情を考慮して内容を検討,選択,記述したものであった.その後多くの出版社から,EBMブームということでEBMの訳本,テキストブックが発売されているが,編者の目から見ると,日本の実状を考慮せず受け売り的に出版している感を強くするものが多い.幸い編者らのテキストブックは多くの支持を得,改訂,追加の要望もたくさんいただいた.それらを考慮し,今回改訂版を出版する運びとなった.新たな著者には,この分野で,最近活躍著しい若手の3名,大御所1名に加わっていただくこととした.
内容的には全般的に見直し,最新情報に置き換えると同時に,何点かは新たに書き下ろし,全面改訂をした.1章にはEBMの関連項目,関連分野を追加し,厚生省のEBMへの取り組み,ガイドラインなども解説した.10章は新たに章を設け,EBMの実践について,情報検索,実践の実例を掲載した.また,8,9章は大きく改訂し,11,12章も全面的に最新情報で改訂した.
本書は初版でも示したように,現在,医学界の大きな潮流となっているEvidence-Based Medicineについて,原理,方法論を日本の現状を充分考慮して解説したものである.
現在,多くの情報が氾濫する状況の中で,臨床医学を実践する臨床医,医学研究者に求められるものは,単なる直感や,あやふやな経験に基づく医療ではなく,より明確な根拠に基づく医療の実践,およびその根拠を導き出す方法論の確立と実際の根拠の提出である.それを実践するためのテキストが本書である.
また,本著は数名の著者で記載しているため,用語の統一,一冊の本としての流れの一貫性などには編著者,分担著者が細心の注意を払った.しかし,編集・校正期間が短かったため,不完全の部分があるやもしれない.この点に関しては読者の皆様方の忌憚のない御意見をいただきたい.
また,類似した図表が何カ所かに見られるが,これは1箇所にまとめるよりも,適宜必要箇所で参照できた方が煩雑さがなくなり,理解を助けるものと判断したので,そのような形式とした.これらの点に関しても読者の皆様方の御批判,御意見をいただきたい.
企画から,校正,編集に至るまで長期にわたり,ひとかたならぬ協力と激励をいただいた中外医学社の小川孝志氏を初めとする編集スタッフ一同には心から感謝を申し上げたい.また,資料整理,イラスト作成などにご協力をいただいた縣千聖嬢,縣賢太郎氏には最大の謝意を表したい.
2000年2月
編著者
縣 俊彦