序
局所麻酔法に関する書物はすでに数多く見られる.今回の主旨は初心者が局所麻酔を行うにあたって必要とされる知識,手技,合併症およびその実際を具体的にわかりやすく解説するというものである.したがって,なるべく多くの図,写真,表などを用いて視覚的に注意点,コツ等を理解してもらうように試みた.
執筆は当麻酔科学教室の教室員に分担してもらい,執筆も兼ねた編集には小生と,同僚でありまたペインクリニック,疼痛治療に造詣の深い宮崎東洋教授があたった.基本的手技は当然のことながら当教室の方法が主として書かれているが,当大学病院の分院である浦安病院,伊豆長岡病院の教室員にも参画してもらっており,それら病院における手技,また各人が個人的に好んで用いている手技なども特に制限はつけずに執筆してもらった.このようなことから,同じ局所麻酔法でも執筆者により多少とも手技が異なっている場合もあるが,編集段階では特に訂正等は行わなかったことを念頭に置いて読んでいただきたいと思っていると同時に,このような編集方針をとったことで,今までの教科書とはひと味違ったニュアンスが出れば幸いであると考えている.
局所麻酔法は全身麻酔法に比べて手軽に施行でき,偶発症なども稀で,安全な麻酔法であると一般的には考えられており,実際もその通りであることが多い.しかしながら,局所麻酔薬やブロックに伴う基本的な知識,注意事項等を熟知していないと,重大な偶発症を惹起し,取り返しのつかないような結果になる可能性もあることを知っておいてほしい.したがって,本書の「I.局所麻酔の基礎,II.局所麻酔薬による偶発症,III.救急蘇生,IV.局所麻酔に必要な器具」は,実際に局所麻酔を施行する前にぜひ熟読し,完全に理解してほしいものである.
多忙な臨床業務にもかかわらず本書のために時間を割いて原稿を仕上げてくれた教室員および本企画を立て,編集していただいた中外医学社の荻野邦義,稲垣義夫両氏に心より感謝の意を表したい.
1996年1月
順天堂大学医学部麻酔科学教室
釘宮豊城