はじめに
耳鼻咽喉科の対象領域は,解剖学的にきわめて複雑な部位であり,補助診断法としての画像読影は容易ではない.さらに近年CTやMRIなどの導入により,骨はもとより軟部組織の正確な読み取りが要求されるようになった.しかも,これらの画像描出技術の進歩はまことに目覚ましく,より細部にわたる描出を可能としつつある.このため,より複雑な解剖学的知識とより詳細な病態像の知識なくしては正しい読影は不可能で,いうなれば「猫に小判」となってしまう恐れがある.
しかし,それぞれの画像あるいは各断面像について,複雑な解剖学的知識と詳細な病態像の知識をもって読影することは,一朝一夕にできることではない.この莫大な知識を効率よく把握するには,常に「なぜこのような画像を呈するのか」という問い掛けと納得が必要である.本書はこの目的を達成すべく企図されたものである.幸い,各執筆者のご協力によりこの意図が充分生かされたものとなった.すなわち,前半の基礎編ではそれぞれの画像の撮り方と描出された構造が,適切な写真と線画で簡にして要を得,しかも適宜病態像にも言及して記載されている.そしてそれぞれの画像診断法の利点と限界が述べられているのも読者にとっては大いに参考となるであろう.また,CT,MRIなどについては,その原理の分かりやすい説明は本書の特色といってよい.後半の臨床編では耳,鼻,のどの各部について病像にもとづく画像の異常が記載されており,ここでは単に画像の説明でなく疾病の本態や経過にも触れ,他の症状も考察に入れながら診断に進むという当然ではあるが大切な基本姿勢が貫かれている.
このような企図を生かすため,基礎編と臨床編とであえて重複を厭わない方針とした.したがって読者は自己の知識に応じてどのページから読まれてもよいと思う.ただ初心者は基礎編をできれば頭蓋骨標本を手元におきながら読んで,しっかりと基礎知識を頭に入れて欲しい.そうすれば臨床像で「なぜこのような画像を呈するのか」の理解が容易にでき,応用の効く「読影力」が具わるはずである.
本書を企画するにあたっての懸念は,工学技術の進歩が早いため上梓されたときは時代遅れとなりはしないかということであった.この懸念は,各執筆者が多忙のなか短期間に書き上げていただき,出版に賛同された中外医学社社長青木三千雄氏,直接担当された高橋衛氏の適切な対応により見事に吹き飛んだ.ここに心から感謝の意を表する次第である.
1993年2月
舩坂宗太郎