序
　画像診断の進歩は，放射線科医は言うに及ばず，他科の臨床医にとっても非常に関心の深い所である.ここ20年あまりの間に超音波，CT，MRI等の新しい診断法が確立し，単純Ｘ線を用いた時代は，もはや過去のものとなった.なかでも，超音波診断法はＸ線を用いた診断法と異なり，生体に無侵襲であり，比較的手軽にリアルタイムにさまざまな角度から画像を得られる診断法として急速に普及してきた.しかし，一方ではその画像をすべて理解するには，相当な病理学的，解剖学的知識をようすることもまた事実である.それに対応するように，最近では，超音波診断に冠する解説書を多く目にするようになったが，ほとんどが腹部，心臓，婦人科領域に冠するものに限られているように見受けられる.
　本書は，類書のほとんどない甲状腺，唾液腺，リンパ節等の頭頸部の疾病を，超音波画像を中心に，CT，MRI，シンチグラム等の画像を駆使して解説したものである.臓器ごとに多くの貴重な症例を，種々の画像を用いて呈示するとともに，病態別にそれぞれ超音波診断の特徴をポイントとして強調している.また，超音波画像のシェーマを的確に描くことで，初学者でも一見して容易に所見を把握できるように構成した.病態に冠しても要領よく簡潔に記載し，臨床研修医および医学部学生がテキストとして一読されることを願ってやまない.
　最後に，御多忙の中，本書の執筆に御協力戴いた愛知県がんセンター放射線治療部長菊池雄三先生，旭川医科大学放射線医学講座内村弥生女史，中外医学社編集部の皆様，ほか関係各位に衷心より感謝の念を捧げる次第である.

1994年12月
旭川医科大学放射線医学講座
油野民雄

目　次

I 超音波像を読影する上で知っておきたいこと
　1.超音波の原理に関連して
　2.頭頸部超音波検査の実際
　3.アーティファクト
　4.頭頸部領域でのドプラ法の利用と注意すべきこと

II 甲状腺
　解剖
　正常甲状腺像
　1.腫瘍性疾患
　　A.甲状腺悪性腫瘍
　　　1.病理
　　　2.甲状腺癌のTNM分類
　　　3.超音波所見
　　　　乳頭癌
　　　　濾胞癌
　　　　髄様癌
　　　　悪性リンパ腫
　　B.甲状腺良性腫瘍
　　　1.病理
　　　2.超音波所見
　　　　濾胞腺腫
　　　　腺腫様甲状腺腫
　2.非腫瘍性疾患
　　　1.病理およびエコー所見
　　　　橋本病
　　　　バセドウ病

III 上皮小体(副甲状腺)
　解剖
　上皮小体の超音波像
　原発性上皮小体機能亢進症
　続発性上皮小体機能亢進症

IV 唾液腺
　1.耳下腺
　解剖
　正常耳下腺超音波像
　　A.腫瘍性疾患
　　　1.病理
　　　2.超音波所見
　　　3.良性腫瘍
　　　4.悪性腫瘍
　　　　耳下腺多形腺腫
　　　　耳下腺単形腺腫
　　　　耳下腺の悪性腫瘍
　　B.炎症性疾患
　　　1.非特異性唾液腺炎
　　　2.特異性唾液腺炎
　　　　急性耳下腺炎
　　　　シェーグレイ症候群
　　　　唾液腺結核症
　　C.耳下腺外疾患
　　　　耳下腺外疾患
　2.顎下腺
　解剖
　正常超音波所見
　　A.顎下腺疾患
　　　　顎下腺多形腺腫
　　　　唾石症
　　　　ガマ腫
　3.舌下腺
　解剖および超音波所見
　疾患
　舌下腺癌

V 先天性頸部腫瘤
　発生部位と超音波所見
　正中頸嚢胞
　側頸嚢胞
　皮様嚢胞
　血管腫
　嚢胞性リンパ腫

VI 頸部リンパ節
　解剖
　撮像方法
　リンパ節転移
　悪性リンパ腫
　炎症性リンパ節腫腫

VIIその他の疾患
　扁桃部腫瘍
　脂肪腫
　頸動脈小体腫瘍
　神経鞘腫
　malignant fibrous histocytoma(MFH)
　皮膚癌
　歯肉癌
　異物肉芽腫
　炎症性腫瘤
　悪性黒色腫
　皮下血腫

索引

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