序
MRI(magnetic resonance imaging)は核磁気共鳴(nuclear magnetic resonance : NMR)現象を利用してコンピューターで構成する画像診断法で,1973年にLauterbarらにより初めて画像の表示に成功した.その後短期間の間に改良が加えられ20年足らずで現代の医学の診断手法の中心を成すに至っており,20世紀における医学の進歩を特徴づけるepoch-makingな発明の1つと言っても過言ではなく,今やX線診断,CT検査,超音波診断と並び代表的な画像診断法としての地位を確固なものとしている.
特に婦人科領域においてはMRIの有用性が確立しており,MRIなくして婦人科診断学は語り得ない.その理由として子宮や卵巣などの骨盤内臓器は心拍動や呼吸運動の影響を受けにくい位置にあること,婦人科疾患の多くは腫瘤を形成し解剖学的異常を呈することが多いこと,さらにはMRIの特長である組織コントラストの良好性が子宮筋層と内膜の識別や多彩な性状を示す卵巣腫瘍の鑑別診断などに威力を発揮することなどがあげられる.また何と言っても矢状断面を含む多断面の画像解析が可能であることより,病変部と周囲の組織との相対的な解剖学的関係が未熟練者でも容易に把握できるということは大きな利点となっている.
MRIはこのように多くのユニークな長所を有するが,MRIによる画像抽出の原理を理解することにより一段と情報量が増加することになる.この点で本書は婦人科関連疾患を例示しつつ,MRIの原理を核医学の基礎知識を持ち合わせていなくても理解が可能なように解説しており,一般医家向けに企画されている.また正常の骨盤諸臓器がMRIでいかに描出されるかが詳述されており,MRIに関する初心者に適しているが,これまでMRIを見慣れている者にとっても新たな視点を与えるものとなっている.
本書を最も特徴付けているのは,具体的な症例を呈示しつつMRIの有用性を明示し,しかもMRIの画像を超音波,CT,X線など他の診断法と比較しており,さらに実際に摘出された臓器とも対照している点である.あたかも自らが実際に症例を経験したかの如く臨場感をもってMRIの利点を学ぶことができるように編集されている.
婦人科手術には腹腔鏡手術が普及しつつあり,これまで以上に術前に精度の高い診断技術が要求されるようになっている.このためにもMRIの読影技術の習得はminimum requirementになりつつあり,その意味でも本書の利用度は極めて高いと考える.
また本書の出版にあたり中外医学社小川孝志氏,秀島悟氏ほか編集スタッフにも深甚な感謝を捧げたい.
2000年6月
武谷雄二