序文
本書はオーバーヘッドアスリートにみられる肩と肘のスポーツ障害にフォーカスを当て,機能解剖から理学所見の取り方,画像診断,機能診断と理学療法,そして肩・肘それぞれの各論についてと,この分野で臨床に携わる医師やセラピストがマスターすべき必須事項をほぼ網羅している.各項目の執筆者も,いずれも経験豊富で第一線で活躍されている若手の先生方に敢えてお願いした.上肢のスポーツ障害の特性として,つい局所の画像所見に目が行きがちであるが,実は肩甲帯や体幹などの中枢部の機能的影響を受けやすいという特徴があり,この機能異常の修正なくして局所の解剖学的異常を手術によって治したとしても,症状にまったく変化がないか,症状が軽減したとしてもパフォーマンスの低下までは改善させることはできない.したがって,肩と肘のスポーツ障害では,局所所見を評価すると同時に,肩甲胸郭関節機能などの中枢側の機能障害を見極め,異常があればこれを修正していくことが重要となる.本書では,まず解剖と理学所見の取り方と画像診断について新進気鋭の若手医師に解説して頂き,次いで上肢のスポーツ障害という括りの中で,機能的問題点と解剖学的問題点,および投球フォームについて,現場での経験豊富な先生方にそれぞれの視点から述べていただいた.また,スポーツ選手の治療経験豊富な理学療法士に,肩と肘それぞれについての理学療法の実際についても解説していただいた.各論では,肩・肘のそれぞれについて,投球スポーツにみられる典型的な疾患について第一線で活躍される先生方に執筆していただいた.
以上のように,本書は肩と肘のスポーツ障害の診断と治療に関して最新かつ実践的な内容となっており,スポーツ障害に携わるすべての医療関係者にとって必携のテキストとなり得ると確信している.
2012年8月
菅谷啓之