序

　1971年にイギリスのHounsfieldによりCTの臨床実験が成功し，その後CTは装置およびソフトウェアの発展・進歩により，ほぼ同時期に発展，普及してきた超音波検査とともに被検者に負担の少ない低侵襲性の検査として画像診断の中核となった．初期の装置が撮像に数分必要であったものが技術革新により数秒にまで改善され，画像の質も向上した．これにより臨床的有用性も確立し，なくてはならない画像検査法の一つとなった．ただし，画像検査法としては100％満足できるものではなかった．これは従来の方法によるCTの限界が見えてきたということであり，使用者側もCTの能力を前提として最善の検査を行う努力をしてきたというのが現実である．つまり，使用者側にはより多くの希望や願望があったが，CTでは無理であろうというあきらめがあったわけである．
　さらに，この時期にMRIの臨床応用が実現し，その後の発展，進歩は初期のCT以上に急速であり，コントラスト分解能の高さや撮像方向の多様性などCTの欠点を補う部分もあり，CTに置き変わる検査法となって行き，将来的にはMRIがCTを駆遂するであろうと考えられた時期もある．
　そのような状況下に出現したのがヘリカル（スパイラル，螺旋）CTである．1987年にスリップリングを使用したCT装置が出現し，その後の進歩は非常に速かった．さらに驚くべきことはその普及の速さであり，新たに導入されるCTのほとんど全てがヘリカルCTという状況である．ここで問題となるのが従来のCTとヘリカルCTとの検査法の相違ということである．連続データの収集による縦軸分解能が高いことによる３次元表示が容易かつ詳細になったことは大きな利点である．ただし，このことは従来のCTでは大きな期待を抱かれなかったものであり，新たな検査法として受け入れ習得することは困難なことではない．それよりも問題となるのは通常のCT検査における従来のCTとヘリカルCTとの差異である．全ての部位，全てのCT検査がヘリカルCTが従来のCTに優っているわけではなく，従来のCTを使用すべき場合もある．また，造影剤の注入速度や撮像のタイミングなど種々の問題点があり，各々に対して試行錯誤により多くの検討がなされてきた．検討のあいだには様々な議論があり，未だ解決されていない問題もある．
　上述のことはヘリカルCTを初めて使用する検査者にとって重大な問題であり，さらには既にヘリカルCTを使用している検査者にとっても現在行っている方法が正しいか否かの疑問が生ずることもある．ヘリカルCTの発展が少し落ち着き，臨床の現場でも普通の画像診断装置となったこの時期に上述の問題を可能な限り解決し明日からの臨床に役に立つことを目的として，ヘリカルCTの現場に携わっている諸氏に企画意図を理解していただいて本書を製作した．
　ヘリカルCTを始める諸氏に必読の書となると確信しており，明日からの臨床に役立ち被検者にも利益をもたらすと期待している．

1999年２月
河野　敦

目　次

１　ヘリカルCTをはじめるために―原理と基本　〈河野　敦〉
　　１．通常のCTとヘリカルCTの違い
　　２．ヘリカルCTのためのハードウェア
　　３．ヘリカルCTのためのソフトウェア
　　４．ヘリカルCTの実施
　　　ａ．コリメーションとテーブル移動速度
　　　ｂ．画像再構築間隔

２　頭　部　〈牧田幸三〉
　　１．頭部におけるヘリカルスキャンの有用性と注意点
　　２．ヘリカルスキャンによる3D-CT，MPR

３　頭頸部〈酒井　修〉
　　１．検査目的と撮像条件
　　２．ルーチン検査でのヘリカルCT
　　　ａ．頭頸部腫瘤性病変でのヘリカルCT
　　　ｂ．頭頸部でのCT angiography（CTA）
　　　ｃ．副鼻腔
　　　ｄ．側頭骨
　　　ｅ．顎　骨
　　　ｆ．顔面外傷
　　　ｇ．頭蓋骨早期癒合症
　　３．最近の新しい後処理法
　　　ａ．自動骨削除法
　　　ｂ．後処理による縦軸方向分解能の改善
　　　ｃ．新しいアルゴリズムによる階段状アーチファクトの改善
　　　ｄ．内視鏡モード

４　胸　部〈櫛橋民生，宗近宏次〉
　　１．検査法
　　　ａ．スキャン方法
　　　ｂ．造影方法
　　　ｃ．MPRs， MPVRs， external rendering， internal rendering
　　２．ヘリカルCTの実際
　　　ａ．肺結節の描出
　　　ｂ．気管気管支病変

５　心・大血管〈竹田　寛，加藤憲幸，佐久間肇，瀬田秀俊〉
　　１．検査法
　　２．ヘリカルCTの実際
　　　ａ．大動脈瘤
　　　ｂ．大動脈解離
　　　ｃ．狭窄性病変
　　　ｄ．動脈硬化性病変
　　　ｅ．心　臓
　　　ｆ．ヘリカルCTの欠点

６　腹　部
　Ａ．肝　臓 〈藤田信行，清水　匠〉
　　１．肝ヘリカルCTの種類
　　　ａ．Herical dynamic CT
　　　ｂ．CT during arterial portography（CTAP）
　　　ｃ．CT during hepatic arteriography（CTA）
　　２．撮像パラメーター
　　　ａ．ヘリカルダイナミックCT
　　　ｂ．CTAP
　　　ｃ．CTA
　　３．ヘリカルCTの実際
　　　ａ．肝細胞癌
　　　ｂ．腺腫様過形成
　　　ｃ．転移性肝腫瘍
　　　ｄ．胆管細胞癌
　　　ｅ．肝血管腫
　　　ｆ．限局性結節性過形成
　Ｂ．胆，膵，脾 〈市川太郎，隈崎達夫〉
　　１．検査法
　　　ａ．胆
　　　ｂ．膵
　　　ｃ．脾
　　２．ヘリカルCTの実際
　　　ａ．胆
　　　ｂ．膵
　　　ｃ．脾

７　腸管，腹膜〈松枝　清，荒井保明，稲葉吉隆，斎田幸久，板井悠二〉
　　１．腸管および腹膜のCT画像解剖
　　２．検査法
　　３．ヘリカルCTの実際
　　　ａ．腫瘍性病変
　　　ｂ．炎症性疾患
　　　ｃ．腸閉塞
　　　ｄ．腸管・腸間膜損傷

８　腎臓，副腎，後腹膜〈後閑武彦，宗近宏次，吉田英機，片岡肇一〉
　　１．検査法
　　２．ヘリカルCTの実際
　　　ａ．腎病変
　　　ｂ．副腎病変
　　　ｃ．後腹膜病変

９　骨　盤
　Ａ．膀胱，前立腺 〈竹林茂生〉
　　１．膀　胱
　　　ａ．前処置
　　　ｂ．スキャン方法
　　　ｃ．膀胱腫瘍
　　　ｄ．再構成CT画像
　　　ｅ．３次元CT内視鏡
　　２．前立腺
　　　ａ．スキャン方法
　　　ｂ．前立腺石灰化
　　　ｃ．前立腺癌
　　　ｄ．前立腺体積測定
　　　ｅ．骨盤内リンパ節
　Ｂ．子宮，卵巣 〈今岡いずみ，杉村和朗〉
　　１．検査法
　　２．ヘリカルCTの実際
　　　ａ．子　宮
　　　ｂ．卵　巣
　　　ｃ．リンパ節

10　骨，軟部〈辰野　聡〉
　　１．ヘリカルCTの特徴
　　２．ヘリカルCTの問題点
　　３．撮像法
　　４．ヘリカルCTの実際
　　　ａ．先天性・後天性疾患
　　　ｂ．外　傷
　　　ｃ．骨腫瘍
　　　ｄ．軟部腫瘍，感染症

11　小　児〈青木克彦〉
　　１．検査法の実際
　　　ａ．小児の鎮静
　　　ｂ．固　定
　　　ｃ．経静脈性造影
　　　ｄ．スキャン方法
　　２．らせんCTの後処理
　　　ａ．再構成厚の設定
　　　ｂ．補間法
　　　ｃ．動きによるノイズの修正
　　３．小児領域のヘリカルCTによる3D表示例
　　　ａ．頭　部
　　　ｂ．頭頸部
　　　ｃ．胸　部
　　　ｄ．腹　部
　　　ｅ．四　肢

12　３次元CT，３次元血管造影―検査法と画像の作り方〈片田和廣〉
　　１．３次元画像とは
　　２．データ取得法の実際
　　３．３次元画像再構成アルゴリズム
　　　ａ．サーフェスレンダリング
　　　ｂ．ボリュームレンダリング
　　４．3D-CTA像作成の実際

索　引

執筆者一覧

河野　敦　　編著