序
神経学,特に臨床神経学を学ぶ,あるいは専門とする臨床医にとって中枢神経系の解剖,すなわち脳の局所解剖学は,病巣の診断および治療のため必要不可欠です.しかし,臨床神経解剖学の大御所の一人であるJohanes Lang 教授(University of W殲zburg,Germany)が“Anatomy is extremely necessary,but not at all easy.”と述べておられるように,神経系の解剖学は複雑で,理解,記憶するのが困難です.
また昨今,中枢神経系の画像診断の進歩,脳神経外科における手術用顕微鏡下手術および血管内手術の普及などにより,従来の巨視的な肉眼解剖と異なり,より詳細な解剖学的知識,特に,詳細,精緻な局所解剖が臨床の現場で必要となってきました.
本書の特徴は,今までの神経解剖の成書では余り詳しく記載されていない臨床に必要な解剖学的事柄について,イラストを活用して簡潔明瞭にまとめ,理解しやすい内容になるように心がけた点です.特に脳血管,脳神経あるいは頭蓋内の構造物について歴史的に広く認められている解剖学的記述をreview し,一部,著者らのデータを付け加え,図や表を多くして視覚的に理解しやすいように配慮しました.例えば,1 mm 以下の穿通枝動脈 perforating artery の親血管からの発生部位や分布,穿通枝動脈の脳実質への入口部にあたる有孔質について,あるいは海綿静脈洞の壁についてのイラストなどに,本書の特徴が出ていると思います.
本書は,1991年3月から1999年12月まで合計106回に渡り,雑誌「CLINICAL NEUROSCIENCE」(中外医学社)に連載した内容を,刊行に際してすべてを再検討し,一部修正または手直しを加え,一冊にまとめたものです.主に3名(宜保,外間,大沢)で執筆しており,全体にわたって可能な限り統一性および完璧を期したつもりですが,誤りがあれば著者らの責任であり,ご一報いただければ訂正したいと存じます.
本書が,中外医学社よりすでに刊行され好評を得ている『臨床のための神経機能解剖学』(後藤文男,天野隆弘 著)と同様に,中枢神経系に関係する分野の研修医,レジデントを含む臨床医(脳神経外科,神経内科,神経放射線など)あるいは神経学に興味のある学生諸君に有益であり,幅広い支持を得られるならば幸いです.
最後に,御多忙にもかかわらず,この本の出版に御援助,御尽力いただいた中外医学社「CLINICAL NEUROSCIENCE」編集部中田久夫氏,および担当各位,素晴らしいイラストを書いていただいたイラストレーターの大熊 伸氏に深謝の意を表します.
2000年4月
宜保浩彦
外間政信
大沢道彦