第3版の序
本脳神経外科マニュアルの初版を出版したのは1986年で,すでに10年の歳月が流れました.この間1990年には初版の誤り等を訂正して改訂版を出版いたしました.幸い多くの方々,特に研修医の方々にご利用頂くことができました.10年の間には脳神経系疾患の診断や治療法にも多くの進歩が見られていますので,この度,全般にわたって見直しを行い,再改訂をいたしました.
本マニュアルは白衣のポケットに入れて,必要に応じて術前,術後の患者管理に役立てて頂くように要点をまとめることを主眼にして編集したハンドブックであります.脳神経外科の標準的な医療に手落ちがないようにする便利帳の役割を果たすことが目的でありますから,新しい診断技術や治療法を紹介してはおりません.各項目ごとに著者の方々に,あらためて手直しをして頂いておりますが,さらに,このような項目があれば役立つとか,誤っている点等を御指摘頂ければ幸いに存じます.一層充実したマニュアルに育てたいと念願しております.
脳神経外科の若い医師の方々のみならず,病院で日夜働いておられるナースや医療技術者の方々に少しでもお役に立つことができれば幸いであると思っております.
1995年9月
高倉公朋
序
日常の脳神経外科診療においては,脳腫瘍,脳血管障害,外傷等,各々の疾患の診断,治療に必要な基礎的病態と臨床上の知識が必要であり,それぞれの専門分野に関する成書も多数出版されている.しかし,本書は脳神経外科診療に当って,患者の診断,検査と治療を円滑に運べるように,これだけは必要だと考えられる項目を,実地に則して列挙した診療マニュアルである.したがって,脳神経外科疾患の病態生理や治療の詳細を記した教科書ではなく,実地診療の手助けとなるメモ帳である.本書に洩れていて,各自が気付かれた必要な事項を補って頂ければ,一層,役立つメモが完成することと思う.日頃,脳神経外科病棟に勤務する研修医の諸兄から,このような実際に役立つメモがあったら便利であろうという要請に応えて,このマニュアルをまとめる企画が出発した.
本マニュアルには,てんかん発作・頭痛・意識障害等,日常遭遇することの多い症状の診断と対処の方法,血管撮影やX線CT等の検査を行う上での手技上の注意点や読影に,最低必要な解剖学名,脳血管障害や脳外傷患者の緊急時の対応,術前の準備,術後の管理等に手落ちがないように病棟での診療に,必要な事項をまとめてある.また悪性脳腫瘍に対する術後の放射線治療,化学療法,免疫療法等の一般的な方法や,下垂体周辺腫瘍の内分泌検査法の進め方と数値の意義,小児脳神経疾患の診療に必要な頭囲等の数値表等も盛り込んである.
本書の作製には,教室の病棟で毎日診療に当っており,認定医でもある中堅の教室員諸兄に,各人の専門分野での診療の実際と注意点をまとめて頂いた.研修医や,これから脳神経外科の専攻を志す方々が,病棟で治療する時に,これだけはチェックしておかなければならない事柄を記したメモであるから,白衣のポケットか,病棟勤務室の片隅に置いて,必要な時に頁を開いて利用して頂ければ幸いである.
まだ不備な点が多々あると思うが,御指摘頂いて,より良いマニュアルに育てたいと考えている.また本書の企画から完成まで,終始御援助,御協力頂いた中外医学社編集部の皆様に深く感謝する次第である.
1986年11月
高倉公朋