序
小児のアレルギー疾患を総合的に解説する書物の作成を依頼されたのは,2000年春のことであった.本書は,私の恩師である小林 登,早川 浩,両先生編著になる「小児気管支喘息診療ガイド(1993年)」のあとを受ける形で,同じ中外医学社より依頼され,気管支喘息にとどまらず,アレルギー疾患全般に広げたものにすべく,企画されたものである.手元において必要時に参照できる,コンパクトであるが内容的には最新のものをそろえた専門家にとっても読みごたえのあるもの,という難しい条件の企画であった.東京大学本院ならびに分院でアレルギーグループとして診療を行ってきた気心の知れた,ということは診療に対する考え方がある程度似通った者で執筆できればと考えたが,項目立てをする中で,よりよい書物を生むために,特にその分野においての専門家である先生方にも何人か執筆をお願いをした.小児科医以外のエキスパートである先生方には,日頃から個人的にも御教示をいただき改めて感謝申し上げる次第である.また,「疾患修飾因子としての心理的背景,心理的修飾因子としての疾患」という妙な項目名でお願いをした,赤坂 徹先生には斯界第一人者として長年の蓄積を執筆していただき,特に感謝申し上げる.
さて,21世紀に入り,子どもたちを取り巻く環境は,さらにどのように変化をしていくのであろうか.アレルギー疾患を抱えて,競争社会を生きていくには並大抵ではないことは自明である.小林 登先生に「21世紀の小児医療と子どものアレルギー疾患」という題で序説をいただき,さらに僭越ながら書かせていただいた§1でアレルギー疾患診療の際の理念的なものを,まだよくこなれていないことは承知のうえでお示しした.各論では,アレルギー疾患の病態生理の要約とそれに基づく治療法の解説と,実用書としての性格も強く意識をしたが,将来へつなぐ夢のある項目は,予防法である.現在はまだ,真の意味での一次予防(発症そのものの予防)は,そもそも発症機序そのものの理解がまだ不完全であるがゆえに不充分であるが,あと何年かの後にはかなり明確な予防法の提示が可能となるであろう.小児医療に携わる方々に本書がなにがしかのお役に立てれば幸いである.
2001年9月
岩田 力