序
脳卒中は高血圧などの危険因子のコントロールによって,その発症率は大きく減少した.その結果,脳血管障害による死亡率は1981(昭和56)年についに第1位の座を悪性新生物に譲り,1985(昭和60)年には心疾患についで第3位となった.しかし死亡診断書の書き方が変わり,1995(平成7)年度以降の脳血管障害の死亡順位は依然第2位であることが判明し,死亡率低下のさらなる努力が必要であることが改めて専門家の間で話題になっている.
さらにやっかいなことに,脳血管障害は生命予後が改善しても,機能予後に依然問題が山積みになっており,国民の生活,医療に及ぼす影響は最も大きい疾患と考えられる.この意味で第一線の医療従事者にとっても絶えずup-to-dateな知識を身につけ臨床にあたることが重要であろう.
今回25年ぶりに「専門医にきく脳血管障害の臨床」を「脳卒中-専門医にきく最新の臨床」として新たに出版することになった.前書の出版以後,臨床面では,CTスキャンは日常臨床で当たり前の診療機器となり,またMRIも主な医療機関にはほとんど普及するようになってきた.SPECT,Xe CT-CBF,さらには一部の施設ではあるがPETさえも普及し,脳血流,代謝の情報も画像化して容易に把握できるようになってきた.脳血管撮影に代わり,頸部超音波エコーやMRアンギオグラフィーで無侵襲に脳血管系の一応の評価が可能になってきた.このように,この10数年間での脳卒中診療に使用される医療機器の開発,改良には目を見張るものがある.
研究面では,特に脳梗塞の病態生理に関して各種細胞内伝達物質,細胞内Ca濃度,興奮性アミノ酸の研究が進み,さらには分子生物学の導入でこの10年足らずに飛躍的に新しい知識が増加してきた.
これらの知識を背景に,全く新しい急性期治療を始めるべく次々と新しい薬剤が臨床の場で評価検討されているのが現状である.
以上のように,ここ10年あまりの脳卒中学の発展,変化はめざましく,膨大な知識をコンパクトにかつ要領よく整理して理解することが要求されているのが現状であろう.そこで本書では,実際に臨床の第一線の現場で活躍中の先生方に,具体的かつ平易に,日常診療にすぐさま役立つかたちで,簡明に解説をお願いした次第である.
この内容的にも欲張った一冊が,現場の先生方の日常診療に役立ち,また脳卒中全体の最新の知識を手っ取り早く得たい研修医の方々にも役立つことを願ってやまない.
終わりに,発行までこぎつけるにあたり,忍耐強く我々の進行状況をお待ちいただいた中外医学社の関係者の方々に深謝いたします.
1998年2月
編者しるす