序文
イベント心電図(Event ECG)は主としていつどこで起こるかわからない発作時(症状のあるとき)の心電図を検討するものである.そして一般的には小型のモバイル心電図(mobile ECG)ともいうべき携帯用心電計が用いられ,電話伝送心電図(Transtelephonic ECG)としての機能を有するものが多いが,電話以外のネットワークを利用したものもある.通常ホルター心電図が連続した24時間の心電図のモニターであるのに対して,イベント心電図はあくまでも症状をターゲットとした長期間にわたる非連続心電図モニターである.欧米ではすでに一般化してホルター心電図に匹敵する頻度で使用され,診療報酬もホルター心電図より高い請求がなされている.本邦でもイベント心電図がようやく保険点数を請求できるようになり,一般に普及しつつある.
一方では,イベント心電図の伝送機能を利用して,患者以外の一般人を対照とした心臓の健康管理に役立たせようとの試みがある.この場合の心電計は家庭用心電計とでも言うべきものであり,中には携帯用でなく家庭内に固定設置して利用するものもある.
突然死の大部分が心臓に起因し,その救命率を如何に向上させるかが現在大きな問題になっている.欧米では一般市民への救命処置の教育や,自動電気的除細動器を広域に設置し,医師でなくてもそれを使用できる方向での展開がみられ,アメリカ心臓協会(American Heart Association)から,心肺蘇生と救急心血管治療のための国際ガイドライン2000が発表されている.これらの目的は,救命が必要な心臓発作を起こしたときの速やかな対処法の進展と一般化であり,そのような場合には心電図記録より救命処置を先行すべきなのは言うまでもない.
しかし,致命的な結果をまねく前の対処法はもっと重要な課題であり,心電図はより広い領域での利用や判読に対する理解が求められる時代になった.そしてイベント心電図は家庭用心電図としても簡単に利用できるよい方法の一つであり,臨床のみならず,予防医学の面からも心臓病の早期発見・早期治療のために有効な方法である.
私どもは本邦で早くから,イベント心電計の一つである小型携帯用電話伝送心電図の開発に関与してきたので,その経験をもとに臨床応用から,心臓健康管理での利用など,イベント心電図の利用法を解説し,その有用性と注意点などを本書にまとめてみた.
本書が広く臨床にたずさわる医師・検査技師・看護師・学生をはじめ,救急救命士などの救急現場や心電図に興味を持つ多くの方々のお役に立てば幸いである.
本書の出版にあたり,イベント心電図の発展に協力して下さった日本大学医学部付属板橋病院循環器科,循環機能検査室の皆さん,およびカードガードジャパン解析センターの和田さんに感謝します.
また,本書の出版を実現して下さった中外医学社の青木三千雄社長および企画頂いた荻野邦義氏,編集の秀島悟氏に感謝します.
2004年春
小沢 友紀雄