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書籍詳細

厄介で関わりたくないアディクション患者とどうかかわるか

厄介で関わりたくないアディクション患者とどうかかわるか

成瀬暢也 著

A5判 216頁

定価3,740円(本体3,400円 + 税)

ISBN978-4-498-22976-1

2025年11月発行

在庫あり


「やめさせる」から「理解する」へ.アディクション患者に向き合う治療者のための実践書.
アディクション患者に向き合うことは,しばしば支援者を疲弊させます.本書は,「厄介で関わりたくない」と感じたときにこそ役立つ,“支援者のための実践書”です.ハームリダクションの理念を軸に,「やめさせよう」とせず「つながりを回復する」ための関わり方を提示しました.患者の行動の背景にある生育歴,人間不信,自己否定を理解し,信頼関係を築くための具体的手法を,豊富な臨床経験から解説.治療者が孤立せず,希望をもって支援を続けるための指針となる一冊です.

序 文

 筆者は日々依存症臨床に携わる一精神科医である.長年にわたって依存症患者の治療に当たってきた.また,数年前から児童思春期外来も始めた.そこで驚いたのは若年層へのアディクション問題の広がりであった.
 これまで,筆者が臨床における苦悩の経験から学んだことを,「厄介で関わりたくない精神科患者とどうかかわるか」「厄介で関わりたくないアルコール依存症患者とどうかかわるか」の拙著にまとめた.いずれも治療者向けに書いたものであるが,治療者のみならず,家族や患者さんにまで広く読まれていることを知り,この上ない喜びであった.そして,今回「厄介で関わりたくない」シリーズ第3作として本書を刊行することができた.依存症はアディクションに含まれる.本書では,アルコール依存症を除くアディクション全般について広く取り上げた.
 世の中の「人の問題」を概観すると,アディクション問題に占められていることに気づかされる.アルコールをはじめとして,覚せい剤・大麻などの違法薬物,社会問題となった危険ドラッグ,医療現場で問題となっているベンゾジアゼピン,市販薬のオーバードーズ,北米に広がるオピオイドクライシスなど,物質関連のアディクション問題は収まるどころか拡大の一途である.
 さらに,行為のアディクションとして,受診者数が急増しているギャンブル,インターネット・ゲーム,リストカットなどの自傷,繰り返される自殺企図,過食嘔吐,ひきこもり,恋愛,セックス,性犯罪・セクハラ,ストーカー,万引き,買い物,暴力・DV・パワハラ,過度の運動・仕事・研究など,アディクションやその周辺に目をやると,人の活動の広範な部分で「あることにのめり込んでコントロールを失い,問題が起きていても修正できない」という現象がみられる.
 本書では,これらのアディクションの特徴と対応について,臨床現場での経験をもとに説明を試みた.学術的な研究に基づいたものではなく,日々の臨床場面で筆者が苦労し,悩んで,気づき,実践し,自分なりに理解するに至ったことを主としている.したがって,多くは実際の患者さんや回復した人たちから教わったことである.
 「アディクションは厄介だ」と感じて敬遠している治療者は多い.しかし,その問題で困っている人々の膨大な数を前にして,「苦手だ」と避けることはできないのではないだろうか.とくに精神科医療に携わる治療者にとって,もはや避けては通れない現状がある.このような状況で,「厄介そうだけど診てみようか」と思ってもらえる方に役立てる1冊になれば幸いである.
 現代社会は,便利で快適なものへと疑うことなく突き進んできた.そして,現在もこの傾向は加速し続けている.その結果,人はストレスに脆弱になり,孤立に向かい,生きる力を失い,希望や生きる喜びをもてなくなっている.人のつながりが希薄になると人間不信がはびこる.人間不信と自己否定はアディクションの温床となる.現代はまさにアディクション社会であると言えよう.
 では,私たちはアディクション患者に対してどうすればいいのであろうか.人はアディクションから回復することができるのだろうか.回復のために何が必要なのだろうか.
 アディクションは人とのかかわりにおいて回復する病気である.健康な人とのかかわりにおいて回復する病気である.そのために,治療者自身が健康でなければならない.治療者は,周囲の大切な人と信頼関係を築けており,人から癒され,エンパワメントされている必要がある.人と信頼関係を築けている治療者が,人間不信にまみれたアディクション患者と信頼関係を築いていける.逆に治療を妨げている元凶は,患者に対して共感や信頼をもてないことであり,患者に対する陰性感情・忌避感情であり,誤解とスティグマである.
 アディクション患者の回復支援は実はシンプルである.人間不信がアディクションを発生・増悪させ,人間信頼がアディクションを回復に向かわせる.治療者が,「厄介で関わりたくない」という思いを払拭して,一人の人間として敬意をもって向き合い,信頼関係を築くことができれば,患者はゆっくりと変わり始める.そのとき,治療者も信頼の喜びを実感できるはずである.そのために,アディクション患者を正しく理解することから始めよう.

2025年10月
成瀬暢也

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目 次

はじめに

I.アディクションとは何か
1.アディクションとは
2.アディクション患者はどうして厄介なのだろうか
3.誤解されているアディクション
4.アディクションの背景に何があるのかを知ろう
  1)アディクション患者の背景にある6つの特徴
  2)アディクション患者の背景にある「人間不信」と「自己否定」
  3)厄介な患者ほど人間不信が強い
  4)患者は不安で苦しんでいる
5.アディクション患者の生い立ちを想像してみよう
  1)生育環境が依存症患者を作る
  2)患者の「人間不信」の背景を想像する
  3)「孤独な自己治療」としてのアディクション
6.アディクションをどう理解するか

II.さまざまなアディクションの特徴とその対応
1.物質のアディクション:依存症
  1)覚せい剤
  2)大麻
  3)処方薬(1):ベンゾジアゼピン系鎮静薬
コラム1
  4)処方薬(2):オピオイド鎮痛薬
  5)処方薬(3):ADHD治療薬
  6)市販薬
  7)危険ドラッグ
2.行為のアディクション
  1)ギャンブル
  2)ゲーム・インターネット・スマホ
  3)自傷
  4)自殺企図
  5)過食嘔吐
  6)ひきこもり
  7)セックス
  8)性犯罪・セクハラ
  9)恋愛・ストーカー・ホスト
  10)万引き・窃盗
  11)買い物・コレクション
  12)暴力・虐待・DV・パワハラ
  13)筋トレ・運動・仕事・研究

III.アディクションの共通した特徴とは
1.意志の問題でなくコントロール障害である
2.経過中に次々と大切なものを失う
3.患者にとって一時的にメリットがある
4.「孤独な自己治療」と捉えられる
5.背景に人間関係の問題がある
6.「人間不信」と「自己否定」が中心問題である
7.生育環境の影響を受けている
8.他の精神疾患や症状が併存することが多い
9.発達特性・知的能力の影響も受ける
10.誤解と偏見でみられ責められることが多い
11.犯罪につながり罰せられることも多い
12.家族内での葛藤が大きくなり溝が深まる
13.自助グループや回復施設が有効である
14.認知行動療法など集団での治療が基本である
15.人とのかかわりにおいて回復する

IV.厄介なアディクション患者が回復するために
1.どうして自助グループで回復するのだろうか
  1)自助グループとは何か?
  2)自助グループは効果があるのか?
  3)自助グループは傷の舐め合いではないのか?
  4)どうしてアディクション患者は自助グループを敬遠するのか?
  5)自助グループにつなぐにはどうすればいいのか?
  6)自助グループにどの程度通えばよくなるのか?
2.最重症の薬物依存症患者がダルクで回復する理由
  1)ダルクとは
  2)ダルクで回復が生まれる理由
  3)ダルクの優れたところと問題点
  4)ダルクが起こしてきた奇跡:絶望から希望へ
3.アディクションからの回復に何が必要か
4.アディクションからの回復がうまくいかない理由
5.支援者の意識を変えれば見方も変わる
6.アディクション患者とのかかわり方の基本
7.ハームリダクションの考えは患者と支援者を救う
8.厄介なアディクション患者でも回復できる
9.回復支援に大切なことはとてもシンプルである

V.ハームリダクションの考えを取り入れたアディクション治療
1.ハームリダクションとは?
2.ハームリダクションの背景にある理念
3.アディクション治療におけるハームリダクションアプローチ
  1)やめさせようとしないアディクション治療・支援とは
  2)当センター外来での患者の意識調査から
  3)患者は「やめない」のではなく「やめられない」のである
4.ハームリダクションに基づいたアディクション治療の実際
  1)ハームリダクション外来
  2)ハームリダクション外来プログラム「LIFE」
  3)入院治療のハームリダクション化
5.臨床場面での個別の具体的な介入について
6.ハームリダクションアプローチの留意点

VI.やめさせなくてよいアディクション支援
1.やめさせようとするデメリットとやめさせようとしないメリット
2.アディクションはやめさせようとしてはいけない
3.まじめで誠実な治療者が陥る罠
4.もうアディクション支援で傷つけ合うことはやめよう
5.患者の「やめない権利を認める」ということの意味
6.「ダメ.ゼッタイ.」至上主義の呪縛を解く
7.かつての依存症病棟で起きていたこと
8.海外のエビデンスやハームリダクションが突きつける現実
9.やめさせなくてよいアディクション支援

VII.具体的にアディクション患者とどうかかわればいいのか
1.患者とかかわる前にしておきたいこと
  1)自助グループやセミナー・フォーラムで回復者の話を聴く
  2)依存症の回復をイメージできるようになる
  3)回復が生まれる温かい雰囲気を感じられる
  4)回復を楽観的に信じられるようになれる
2.患者と初めてかかわる際の流れ(治療契約まで)
  1)患者に対して「困っている人」として向き合う覚悟をする
  2)患者が受診することの大変さを理解しておく
  3)患者の受診を歓迎の意を表して親切に受け入れる
  4)同伴者がいる場合,一緒がいいか別がいいか聞く
  5)患者が困っていることを丁寧に聴く
  6)患者がどうしたいか・どうなりたいかを丁寧に聴く
  7)これまでの病歴を話してもらい,流れをつかむ
  8)これまでの生い立ちを話してもらい,丁寧に聴く
  9)生きづらさを認めた場合は,苦労をねぎらう
  10)生きづらさの原因・逆境体験などを丁寧に聴く
  11)これまで一人で頑張ってきたことを十分評価する
  12)依存症の背景にある6項目の問題について尋ねる
  13)原因は「人間不信」「自己否定」では,と投げかける
  14)アディクションが果たしてきた役割を確認する
  15)苦しければアディクションは悪化していくことを説明する
  16)アディクションは「孤独な自己治療である」ことを確認する
  17)アディクションなしで生きられなくなっていないかを問う
  18)アディクションのコントロール障害について説明する
  19)アディクションになるとストレスに弱くなると説明する
  20)コントロールできないのは意志の問題ではないと説明する
  21)「あなたの場合はどうでしたか?」と投げかける
  22)治療に取り組めばよくなることを伝え治療契約を結ぶ
3.治療では何をするのか?
  1)アディクションに求めていたものを別のものから得る
  2)それが「人からの癒し」であると思う
  3)これまで人に癒されることが少なかったのでは?
  4)回復のためには6項目の問題の改善が必要である
  5)人を信じられなかったから孤独で生きづらかったのでは?
  6)まずは正直な思いを話してもらえる場にしてほしい

VIII.治療者・支援者に大切なこと
1.治療者・支援者が健康であること
2.治療者・支援者が人と信頼関係を築けていること
3.治療者・支援者が周囲の人から癒されていること
4.治療者・支援者が患者の回復を信じられていること
5.治療者・支援者が患者を否定しないこと
6.治療者・支援者が患者を人として尊重できること
7.治療者・支援者が患者を無理に変えようとしないこと
8.治療者・支援者が余裕をもって患者とかかわれること
9.治療者・支援者が患者の救世主になろうとしないこと
10.治療者・支援者が孤立せず他の支援者と協働できること
11.治療者・支援者が信頼でつながる喜びを知っていること
12.治療者・支援者が粘り強く患者に寄り添えること
コラム2

IX.女性とアディクション
1.硬直化・固定化した女性の役割
  1)妊娠・出産,育児,家事
  2)男性・子供らに尽くすことの期待と強要
2.社会的弱者としての女性:偏見・性差別
  1)男尊女卑
  2)社会的・経済的・地域内・職場内・家庭内・体格的弱者
3.「性的対象物」としての女性
  1)性風俗,売春,パパ活,水商売
  2)セクハラ
4.外傷体験・逆境体験・暴力被害
  1)被虐待・暴力被害
  2)性被害
5.女性に多い症状:慢性疼痛,不定愁訴,心身症,PMS,解離
6.女性に多いアディクション:過量服薬,自傷行為,過食嘔吐
7.女性のアディクション治療・支援体制の問題
コラム3
8.女性のアディクション患者支援に大切なこと

X.子供のアディクションとその対応
1.子供とアディクション
2.子供にアディクションが多い理由
3.子供のアディクション支援の留意点
4.オーバードーズ・リスカ・自殺企図の対応
  1)オーバードーズについて
  2)リストカットなどの自傷行為について
  3)自殺企図について
5.ゲームとその対応
6.ひきこもり・不登校とその対応
7.過食嘔吐とその対応
8.アディクションのある子供の対応
9.具体的にどのようにかかわるか
10.親への介入の重要性
11.子供の未来を考える

Ⅺ.「アディクションの時代」をどう生きるか
1.アディクションは誰にでも起こるものである
2.アディクションを否定しない
3.アディクションの肯定的な面を認める
4.人とのつながりとアディクション
5.人間不信がアディクションを蔓延させる
6.世界にはびこる人間不信
7.人間不信が人を,家族を,社会を,国を,世界を滅ぼす
8.人間不信から人間信頼へ
9.アディクションからの回復が示している大切なこと
10.「アディクションの時代」をどう生きるか

 おわりに
 文献

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執筆者一覧

成瀬暢也 埼玉県立精神医療センター副病院長 著

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厄介で関わりたくないアディクション患者とどうかかわるか
   定価3,740円(本体3,400円 + 税)
   2025年11月発行
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