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書籍詳細

心不全の New Concept

分子生物学,発生工学から考えた病態生理

心不全の New Concept

小室一成 著

B5判 158頁

定価5,500円(本体5,000円 + 税)

ISBN978-4-498-13602-1

2003年02月発行

在庫なし

心疾患の終末像である心不全は様々な原因で発症してくるため,これを理解するためには心臓に関わる発生・分化,分子生物学から学ばなければならない.本書は心不全はどこまで明らかになっているかを,心臓の発生・分化,生理学,心収縮の機序,心筋細胞におけるシグナル伝達経路,細胞骨格その他の異常による心機能障害などにわたって解説し,その病態生理と臨床を説いたものである.現時点での最新の知見をもとに心不全の発症機序と病態に迫った,循環器の臨床,研究に携わる方々に必読の書である.



Swellings that are painful... and hard indicate a danger of death in the near future; such as are soft and painless, yielding to the pressure of the finger, are of a more chronic character.
(Hippocrates, Pognostics VII)

The impact of molecular biology and genetics on cardiovascular disease is growing rapidly.
(Braunwald et al., Heart Disease, 6th ed.)

 ここ数日の間に偶然我が国と米国で心不全のシンポジウムに参加した.最近心不全に対して関心が高まっているがそれには理由がある.米国においては毎年55万もの人が新たに心不全を発症しており,約500万人が常時心不全症状を呈している.心不全の患者は年齢とともに上昇し,80歳以上では10%以上の人が心不全であり,その死亡者数は全ての癌を合わせたものを上回っている.また心筋梗塞による急性死が減少したのに対し,薬物治療や高額な非薬物治療が進歩したこと及び高齢者が増加していることより,心不全にかかる医療費は全疾患中トップである.我が国には正確な統計がないが,生活習慣が欧米化し,急速に高齢化社会を迎えている我が国においても心不全が大きな問題であるのは自明である.
 それでは心不全はどこまで明らかにされているのか? 心不全とは全身や肺に水がたまる病気というヒポクラテスの症候学的概念から血行力学的解析の進歩により心臓機能の低下によることが明らかになったものの,その原因については長らく不明であった.実験的,臨床的に交感神経系やレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系,サイトカインが心機能不全に関与していることの発見は最近の大きな進歩であるが,これとても一種の増悪因子にすぎないであろう.何故これほど心不全の発症機序に対する理解が遅れたのであろうか.その大きな原因は,分子機序を解析するための分子生物学的手法が心不全研究に応用できなかったことにある.他の多くの疾患,例えば癌,心臓でいえば心肥大であれば培養皿上で細胞の増殖や肥大の機序を解析すればよいのに対し,心臓機能の問題である心不全の研究は培養皿上では不可能である.
 10年余り前より心不全の分子的解析を可能としたのが,遺伝子改変マウスであり,マウスの心機能解析法の確立である.トランスジェニックマウスやノックアウトマウスを作成し,詳細な心機能の解析をすることにより,個々の分子の心機能における役割が明確となり,心不全の原因となるか否かを知ることが可能となった.
 心不全は多くの心疾患の終末像であり,様々な原因で発症してくる.そのためもあり未だ群盲象をなでる状態であるが,鍵となる分子は存在するはずである.例えばジストロフィンなどがその例かもしれない.ジストロフィンの異常により発症する筋ジストロフィーでは,拡張型心筋症様の心臓を呈する.このことより,ジストロフィンと密接な関係をもつサルコグリカン,アクチニン,アクチンなどの異常により拡張型心筋症となることが明らかにされた.また心筋炎後に拡張型心筋症様になることがあるが,それは心筋炎の起因ウイルスが分泌するプロテアーゼにより,ジストロフィンが切断されるために発症する可能性が報告された.さらに最近では拡張型心筋症に限らず虚血性心筋症においてもジストロフィンの分解が生じていることが報告され,心不全の共通の病因としての役割が注目されている.
 このように心不全の発症機序についての解析は始まったばかりであるが,急速にその知見は増大している.そこで遺伝子改変マウスの知見を中心に,現時点での知識をまとめようと考えた.本書を書いている間にも次々と新しい知見が集まっており,すぐに古い知識となってしまう恐れはあるものの,従来の成書とはかなり異なったものができたのではないかと思う.心不全に関する概念が大きく変化していることと,逆にまだ未解明の部分が多いことを理解していただければ幸いである.

2002年12月
La Jolla にて
小室一成

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目 次

1章 心臓の発生・分化
1.心筋細胞の分化と心筒の形成
2.心臓のループ形成と左右非対称性の制御機構
3.心臓予定領域で細胞の運命を決定付ける因子
4.心臓発生に関与する転写調節因子
 a)Csx/Nkx2.5
 b)myocyte enhancer binding factor-2(Mef2)
 c)basic helix-loop-helix(HLH)蛋白
 d)GATA4
5.先天性心疾患の分子遺伝学の発展

2章 心臓の生理学
1.Frank-Starling の法則
2.心機能曲線
3.Emax
4.左室圧の1次微分値dP/dtとτ
5.心室拡張期圧-容積関係
6.局所心機能解析法
7.マウスの心機能評価法

3章 心収縮の機序
1.心筋細胞の収縮ユニット−サルコメア
2.ミオシン/アクチン−筋収縮のメカニズム
 a)ミオシン
 b)アクチン
 c)アクトミオシン架橋形成
3.トロポニン複合体とトロポミオシンによる筋収縮の制御
 a)トロポミオシン
 b)トロポニン複合体
 c)ミオシン結合蛋白C(MBP-C)による筋収縮の制御
4.収縮蛋白異常による心不全
 a)ミオシン重鎖
 b)トロポニンT
 c)トロポニンI
 d)αトロポミオシン
 e)ミオシン結合蛋白C(MBP-C)
 f)タイチン
5.興奮収縮連関
 a)心筋細胞の膜構造
 b)心筋細胞のCa2+動態
 c)Ca2+イオン電流
 d)Ca2+の流入と流出
 e)SRの役割
 f)SRのCa2+放出機構
 g)SRからのCa2+放出の停止
 h)交感神経刺激と興奮収縮連関
6.細胞内Ca2+動態に関わる蛋白の発生工学的手法を用いた解析
 a)SERCA
 b)カルセクエストリン
 c)ホスホランバン
 d)カルレチクリン
 e)Na+/Ca2+exchanger(NCX)

4章 心筋細胞におけるシグナル伝達経路
1.G蛋白
 a)Gαq蛋白
 b)PLC,IP3,DG
 c)PKC(プロテインキナーゼC)
 d)Gαs & Gαi
 e)AC,cAMP,PKA
2.カルシウム関連
 3.JAK-STAT系
 4.MAPK
 5.small G蛋白
 6.転写因子
 7.酸化ストレス

5章 心不全の病態生理
1.神経液性因子
 a)アルドステロン
 b)バソプレッシン
 c)ナトリウム利尿ペプチド
 d)カテコラミン
 e)アンジオテンシン
 f)エンドセリン
 g)一酸化窒素(NO)
 h)ブラジキニン
 i)アドレノメデュリン
2.水電解質代謝
3.血管内皮細胞機能
4.骨格筋

6章 細胞骨格その他の異常による心機能障害
1.拡張型心筋症
2.ミトコンドリア心筋症
3.拘束型心筋症
4.不整脈源性右室異形成症

7章 心不全の臨床
1.概論
 a)収縮不全,拡張不全,混合型
 b)左心不全,右心不全,両心不全
 c)慢性,急性,急性増悪
2.急性心不全,ショック
3.慢性心不全
4.内科治療,エビデンス
 a)生活指導,心臓リハビリ
 b)薬物治療,大規模臨床試験
 5.期待されている新たな治療法
 a)エンドセリン受容体拮抗薬
 b)アルギニン・バソプレッシン受容体拮抗薬
 c)NEP阻害薬
 d)抗サイトカイン療法
6.心不全に対する侵襲的治療法
 a)HCM に対する特異的治療法
 b)両心ペーシング
 c)心筋内レーザー血行再建術(TMLR)
 d)遺伝子治療,細胞移植
 e)補助循環(IABP/PCPS/VAS)
7.外科治療
 a)左室容積縮小術
 b)心臓移植
 c)人工心臓(体外設置,体内設置,全置換型)
 d)骨格筋ポンプ
8.おわりに

索引

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