前　書　き

　私どもが精神科・神経科と脳神経内科で連携し，大学病院に認知症専門外来を開設したのは2008年のことです．当時は，4〜5年以内にはアルツハイマー病の疾患修飾薬が実用化されると楽観しておりました．しかし，それから15年以上もの間，厳しい状況が続きました．幾多の治験に参加しましたが，そのたびに苦渋を味わう結果となりました．患者様への貢献が十分でないことはもとより，研修医のリクルートや病院収支への寄与も乏しく，認知症専門外来の意義について自問自答する日々が続いておりました．
　そのような中，私どもも参加したレカネマブの第III相試験が成功し，その上市に至ったことは感無量でございます．この成功は認知症診療における大きな変革をもたらし，若い医師たちからも注目を集めるようになりました．まさに，認知症専門医としての日常は大きく変わりました．
　抗アミロイドβ抗体療法の戦略は，アルツハイマー病の治療のみならず，他の神経変性疾患（proteinopathy）の治療戦略を先導するものと確信しております．また，抗アミロイドβ抗体療法の適切な普及は，私どもの重要な使命であると考え，本書を刊行する運びとなりました．
　本書が皆様の診療にお役立ていただけますことを，心より祈念しております．
　最後に，この本の執筆にあたり，診察させていただいた患者様，抗アミロイドβ抗体療法外来の運営にご協力いただいているメモリークリニック医師，病院事務の皆様，そして日頃から私の診療を支えてくださる神経心理士や看護師の皆様に，深く感謝申し上げます．
　2025年3月
慶應義塾大学病院メモリーセンター長
伊東大介

目　次

1．抗アミロイドβ抗体とは
2．レカネマブ（レケンビ®）第III相試験の結果
3．初回投与に際して必要な体制
4．レカネマブの適応
5．腰椎穿刺
6．アミロイドPET 〈岩渕　雄〉
7．レカネマブ投与の実際
8．MRIによるARIAのモニタリング
9．副作用
　A　Infusion reaction
　B　アミロイド関連画像異常（ARIA） 〈長谷　学〉
10．併用に注意すべき薬剤
11．本剤の関与が示唆され死亡に至った症例の検討
12．ARIA発現時の対処
13．APOE4遺伝子型
14．レカネマブの費用対効果
15．血液バイオマーカー：アミロイドβ42／40
16．当院でのレカネマブ導入フロー
17．ドナネマブ（ケサンラ®）

付録
A　臨床認知症評価尺度（CDR）
B　Alzheimerʼs Disease Assessment Scale（ADAS）
C　Functional assessment staging（FAST）
D　Lawton IADL
E　Zarit介護負担尺度日本語版
F　患者さんへの説明の書面

索引

執筆者一覧

伊東大介　慶應義塾大学医学部内科学(神経)／メモリーセンター　編著
岩渕　雄　慶應義塾大学医学部放射線科学教室（診断） 専任講師　
長谷　学　慶應義塾大学医学部放射線科学教室（診断） 助教