序
磁気共鳴画像法MRI(magnetic resonance imaging)は,最近の15年ほどで急速に進歩し,脳脊髄系をはじめとしていまや日常診療に欠くことのできない画像検査となってきています.しかし,進歩が急であったこともあり,撮像法の進歩などを中心に雑誌の特集などは数多く刊行されていますが,臨床に重点を置いた入門書はあまり見当たらないようです.この本はMRIを一通り勉強したい学生,研修医の方々などが,夏休みなどに,一日1章をざっと読んでもらえば2週間で臨床MRIの読影に必要な知識を身につけられる,少なくとも一度は聞いたことがあるようになるために作った本です.最初の原理,信号強度の解釈,頭部その1はできるだけ先に読んだ方がよいですが,それ以外はどの部位を先に読んでもかまいませんので,脳だけ,脊髄だけ,肝だけなどの一部のみを早く知ろうという場合にも対応しているつもりです.
各部位の最初には適応,検査方法,正常解剖を挙げ,基本的には奇形,感染症,腫瘍,外傷,血管障害,代謝・内分泌,その他に分けて,MRIがとくに有用な病変はできるだけ網羅したつもりです.画像診断を行ううえで,臨床情報は非常に重要ですが,とくに年齢は各年齢ごとに正常像が異なり,さらに鑑別疾患も異なるため欠くことができない情報と思います.そのため,この種の本では省略されることも多い年齢と性別をつけるようにしました.病変部以外の部位も年齢を考慮しながら観察すれば,読影力が向上すると思います.また,脳脊髄関係が多くなっていますが,それは最近の医療環境から考えて,超音波,CTでは代替できない,他に代わる検査のない分野が,MRでは今後さらに重要視されると思われたためです.
MRは現在まだ発展途上で,MRアンギオ,MRCP,EPI法とその応用,interventional MRなど,大きなフロンティアが開けていると思います.しかし,臨床の画像診断という点では極端にかわることなく,画質の向上より検査時間の短縮に向かうと思われます.若輩浅学のため不備な点があるとは思われますが,この時点で臨床の入門書をまとめる意味はあるのではないかと考えて執筆いたしました.
この本の刊行にあたって,これまで多方面にわたり御指導を賜わった山梨医科大学,東京大学および,東京都立駒込病院の放射線科の諸先生方,豊富な症例を検討する機会を与えて下さった他科の諸先生方に心から感謝いたします.そして多くの技師・看護婦の方々には無理な検査を快くひきうけて下さったことを改めて感謝いたします.最後になりましたが,この本の企画・制作に尽力いただいた,中外医学社の小川孝志氏,上村裕也氏に書面を借りて深謝いたします.
1997年4月 ヘール・ボップ彗星を観望しつつ
青木茂樹