序

　このたび「泌尿器科診療の掟」というタイトルで新しいタイプの医学書をみなさまにお届けできる運びとなり，心より嬉しく思います．
いままで数多くの泌尿器科の教科書または手術書が出版されてきましたが，基本的にすべてエビデンスに則った内容であり，そこには多数の症例の集積と高度な統計学を使って裏付けされた「数の原理」で構成された真理が記載されています．その一方で各領域のエキスパートの個人的意見やtips and tricks（技や秘訣）は，学会やウェブセミナーで語られることがあっても，または雑誌の特集として組まれることはあっても，成書として残されることは多くありません．また「こうするとうまくいった」という成功体験は煌びやかに報告されますが，逆に苦汁を舐めるような辛い失敗症例はフロアトークで語られることがあっても，活字として公表されることはめったにありません．
　本書は，「ガイドラインやエビデンスを根拠にしながらも，教科書的な記載ではなく，教科書には書かれていない臨床で注意すべきポイントや間違いやすいポイントについて，自由に解説する」というポリシーで，各領域のエキスパートに執筆を依頼しました．校正段階でエキスパートの先生方の原稿に目を通している際にも，そのすばらしい内容に校正するのを忘れて読み耽ってしまうほどでした．後期研修医のみならず，自立して診療を始めているまさに研鑽中の中堅クラスのドクターにとっても，または部長・教授のような指導的立場にあるドクターにとっても「へー，知らなかった！」という「目から鱗が落ちる」情報が満載されています．
　本書を手に取っていただいた先生から「知っていて得した」「知っていなければ大失敗するところだった」という声がいまにも聞こえてきそうで，編集委員一同いまからワクワクしています．

2024年10月吉日
兵庫医科大学 泌尿器科学教室　山本新吾
札幌医科大学 泌尿器科学講座　舛森直哉
愛媛大学大学院 泌尿器科学講座　雑賀隆史

目　次

1章検査・処置・手術
 1　経皮的腎瘻造設術 ─ 腎ドレナージの最終手段　〈小林憲市　影山　進〉
 2　画像診断 ─ 画像診断を使いこなすことがより良い診療への鍵である　〈伊藤敬一〉
 3　手術　〈武中 篤〉

2章疾患各論
 4　副腎腫瘍─ 内分泌代謝科専門医・放射線診断専門医とのチーム医療で適切な診断と治療を行う　〈市川智彦〉
 5　腎癌 ─ 的確な診断は適切な治療法選択の鍵　〈雑賀隆史　西村謙一〉
 6　腎嚢胞・その他の腎腫瘍─ 画像診断を活用して良性悪性を鑑別する　〈田中　一　藤井靖久〉
 7　尿路上皮癌─ 丁寧な診療と慎重な選択を　〈三宅牧人　西村伸隆　藤本清秀〉
 8　前立腺癌 ─ 診断から治療までオーダーメイド医療を！　〈赤松秀輔〉
 9　陰茎癌 ─ 希少癌だからこそ，ガイドラインに沿った治療戦略を　〈村上洋嗣　神波大己〉
10　精巣腫瘍 ─ 診断・薬物療法・手術　〈西山博之　河原貴史〉
11　後腹膜腫瘍　〈松井喜之〉
12　尿路結石症 ─ 診断・薬物療法・手術・予防など　〈海野　怜　安井孝周〉
13　尿路・性器感染症─ 単純性か複雑性か，軽症か重症か，を鋭く見極める　〈東郷容和　山本新吾〉
14　性感染症 ─ 疑ったらすぐ検査，パートナーまでケアできる余裕をもつ　〈和田耕一郎〉
15　前立腺肥大症─ 適切な診断を行い，長期成績を見据えた適切な治療選択を行う　〈舛森直哉　京田有樹　福多史昌〉
16　間質性膀胱炎・膀胱痛症候群　〈秋山佳之〉
17　過活動膀胱・夜間頻尿─ 適切な診断のもと，患者のQOLを考えた適切な行動療法および薬物療法を行う　〈吉田正貴〉
18　神経因性下部尿路機能障害─ 腎障害・症候性尿路感染のリスクを判定し，適切な尿路管理を行う　〈関戸哲利〉
19　女性泌尿器科　〈藤原敦子〉
20　性分化疾患（小児泌尿器科）─ 性分化疾患による性別判定不明瞭児の取り扱いは，泌尿器科緊急疾患！　〈野口　満〉
21　救急疾患 ─ 的確な診断と初期治療の重要性を認識しよう　〈井上幸治〉
22　アンドロロジー　〈白石晃司〉
23　腎移植 ─ 正確な手術と入念な患者観察が良好な予後への秘訣　〈今村亮一〉

索引

執筆者一覧

山本新吾　兵庫医科大学医学部泌尿器科学教室主任教授　編著
舛森直哉　札幌医科大学医学部泌尿器科学講座教授　編著
雑賀隆史　愛媛大学大学院医学系研究科泌尿器科学講座教授　編著