序 文
皆様の日々の診療において,認知症という言葉を聞かない日はないと思います.認知症を専門としない各科の医師も,認知症を有している患者さんを診る機会は多いことでしょう.日本にはすでに400万人を超える認知症者がいるとされ,認知症は稀少疾患ではなくコモンディシーズとなり,医療者として認知症を正しく理解することは必須のことです.私事で恐縮ですが,この序文を書く少し前に15年にわたって診療をしてきた認知症患者さんが亡くなり病理解剖を行いました.最初は軽い物忘れで受診をされ,徐々に症状は進行していきました.毎月診療をさせていただき,私自身の認知症に対する考え方も随分と変わったと思います.それは医学の進歩ということもありますが,患者さんやご家族からたくさんのことを教えていただいたこともあります.一方,日々の診療で困ったときに,認知症のことをまとめた読みやすい日本語テキストがあまり出版されていないことが気になっていました.そのようなこともあって,この企画のご相談をいただいたときに,日常の診療の中ですぐに役に立ち,そしてできるだけ最新の知識を入れ込んだテキストを目指したいと思った次第です.
『認知症のみかた,考えかた』はまさにタイムリーな一冊であります.本書のコンセプトは大きく2つあります.第1に認知症の専門家からも批判に耐えうる内容であると同時に,認知症を専門としない医師,看護師,医療関係者と学生にも理解でき真に役立つ内容であること.第2に,各分野のエキスパートが1つのテーマすべてを執筆し,著者の「みかた,考え方」を明解に表出していただいたことです.少し欲張ったコンセプトですが,それぞれの著者の認知症診療における情熱が伝わってくる素敵な本になったと思います.お読みいただければ実感いただけると思いますが,診断,検査,治療,法律といった認知症診療における多面的な問題を,最新の診断方法や抗体療法といった重要情報も踏まえ実に明解にまとめていただきました.私自身,校正刷をすべて1日で読み,あらためて認知症に関しての知識の整理と最新情報を取得できました.認知症の診療は患者さんとのお付き合いが長いものだと思います.これからの診療のために,『認知症のみかた,考えかた』を最初から最後まで通してお読みいただき,読者それぞれの「みかた,考えかた」へと発展させていただければ幸いです.
2024年9月
高 尾 昌 樹