第2版の出版にあたり
早いもので,初版が出版されてから7年が過ぎようとしています.この間,超音波診断にもいろいろな変化がありました.
その最も大きなものは,Point of Care Ultrasonogram(POCUS)の普及です.POCUSは,患者を目の前にした医療従事者自らがその場で超音波検査を行うことで,診療に有用な所見を迅速に得ることです.診断や病態の把握に寄与するだけでなく,手技を安全,正確に行うことにも役立ちます.
POCUSは救急医療の現場でまず注目され,それが普及していったと考えられています.しかし,小児領域の超音波検査では以前からPOCUSが実践されてきました.それは,小児は救急疾患が多く,診療する医師がその場で自ら超音波検査をする必要があったからです.その意味で,「小児超音波検査のみかた,考えかた」は,初版から小児のPOCUSに関しても役立つ本だといえます.
この「第2版」には,いくつかの新しい内容を加えました.「1 超音波の基礎知識」の中では,画像を撮る際の基本的な注意点を追加記載し,初学者が実際に検査を始める時に役立つようにしました.「6 気道・肺」の領域では,超音波検査が気胸の診断を胸部X線よりも正確で迅速にできること,肺炎の診断においても胸部X線の弱点を補完できることなどを記載しました.「7 超音波ガイド」では,様々な手技を行うにあたり,超音波検査をガイドとして用いることで,安全かつ正確に手技を完遂できることを述べました.既存の章でもいくつかの重要な疾患を新たに加えました.これらは,明日の診療から実践できるものばかりであり,すぐにも役立つことと思います.
初版でも述べましたが,本書ではすべての臓器について記載しています.バラエティに富む疾患を診なければいけない小児科医にとってこそ,幅広く超音波検査ができることは大きなメリットになります.また,成人とともに小児も診る機会があるかかりつけ医,超音波検査士の方々も,本書に記載されている小児の基本的な検査法や代表的な疾患の画像を知ることは,とても大切だと思います.子どもたちの不要な鎮静や放射線被曝を減らし,処置を安全に行い,早期かつ正確な診断を成し遂げるのに,本書が少しでも役立つことを期待しています.
最後に,私を超音波診断の有用性に導いていただいた谷野定之先生(やの小児科医院院長),診療や研究の基本姿勢を教えていただいた伊東紘一先生(済生会陸前高田診療所院長,自治医科大学名誉教授),超音波関連学会で小児領域を育てていただいた谷口信行先生(済生会宇都宮病院超音波センター長,自治医科大学名誉教授)に深謝します.また,第2版の出版にご尽力いただいた中外医学社企画部の上岡里織様,編集部の中畑謙様に御礼申し上げます.
2024年3月
市橋 光