第2版の序
本著を手に取って頂きまして,誠にありがとうございます.「みんなの脳神経内科」は2021年に初版が刊行され,この度2024年に改訂させていただくこととなりました.
常々,医療における情報の「賞味期限」のようなものについて考えます.かなりの労力と時間をかけて,かつ著者の想いがこめられて書かれた論文や著作に私たちは日々出会います.それらは私たちに尊い価値を与えてくれる一方で,過ぎていく時間とともに大量の情報の中で世界に埋もれていってしまいます.これは至極当然の道理ではありますが,その事実には「切なさ」や「もったいなさ」を感じます.医学におけるその価値の普遍性を感じながらも,総じてはその存在は消費されながら,薄まっていくものだと理解します.もちろん,本著もその道理にあらがうことはできません.
また,初版で本著は「三軍著者によって書かれていることに価値がある」と図々しく述べました.今でもその気持ちには変わりありません.あえて私は,私自身にも・本著にも,「matureでない」こと自体に特別な意味を見出せるはずだと主張させていただきました.しかしながら,本音ではそれは詭弁です.本音では言い訳もなしに,私も著作自体もできるだけmatureでありたい,と願わないはずはありません.
著作が時間で消費されてなくなる切なさと,それ自体がmatureでないことの不全感.このモヤモヤをどうすればよいか,と考えるわけです.その思考の結果,自分が成長した分だけ本著も成長させて,少しずつでもmatureにし続けることでこの本を生き続けさせることができないだろうか,という考えに至りました.日々患者さんから教えていただきながら,臨床家として繰り返し続け,少しずつ,よりよく変えていく「日々の実践する医療」を,前向きな形で成長させ続けることの体現として,私はこの本を成長させ続けたいのです.ですから,図太くしぶとく,よりよい書籍としてこの本を改訂し続けることが私の願いであります.改訂に際しては,初版から時代に合うように加筆し,また新たに2章を加えました.いつか,どこかに真のmatureがあるなら,それを目指しながら続く,本著でありたいです.そして,初心は忘れず,いつまでも三軍だからこそ表現できる「みんなの」「脳神経内科」を体現していきたいと考えています.改めまして,どうぞお付き合いよろしくお願い致します.
2024年2月
湘南鎌倉総合病院 脳神経内科
山本大介