序
早期食道癌に遭遇する機会は著しく増加した.年間100余例扱う食道癌の半数以上が表在癌であり,その過半数が粘膜癌である.外国ではまだ表在癌が少ないようであるが,本邦では既に誰でも見たことのある馴染み深いものとなっている.これは,直視の細径内視鏡とヨード染色の普及によるものであろう.
本書では早期食道癌を発見するためにはどうしたらよいか,その治療方針決定のために必要な事項とその診断,内視鏡的治療のノウハウなど,基礎から臨床の最先端までがわかりやすく述べられている.早期食道癌の内視鏡について,入門書となると共に,何かの折に疑問に思ったことについて,一寸ひもといてみるのに最適で,内視鏡室に,医局の机の上に,1冊置いておくべきものとなったと思っている.
食道癌は扁平上皮に発生した扁平上皮癌が95%以上を占め,腺癌である胃癌や大腸癌とかなり異なる.凹凸に乏しく,アレアの変化やピットパターンの変化は認められず無愛想な顔付きをしている.観察は接線方向となり唾液や粘液を洗い流さなければ粘膜癌の発見は困難であり,基底層型上皮内癌ではどう見ても見えないということになる.そのうえ,粘膜癌のうちはリンパ節転移はまずないと言ってよいが,粘膜下層癌となると一気に半数近くの症例にリンパ節転移を生じて,進行癌ともいうべき病態を呈する.しかし,そんな食道癌ではあるが,胃より優れている点が1つある.それは,ヨード染色さえ行えば誰にでも粘膜癌が発見できるということであり,病巣の範囲を正確に把握できるということである.食道癌の外科的根治術は極めて侵襲が大きく,かつ,術後のQOLに及ぼす影響も甚大である.本書を参考にされ,1例でも多くの粘膜癌が発見され,内視鏡的粘膜切除術で治療されれば,編者達にとって無上の喜びである.
さて,執筆者としては新進気鋭の食道専門医を選び,最新の内容を網羅した.さらに,編者が全て目を通し,内容の不揃いを改め,読者が理解しやすいように統一を図った.この書籍を広く世に問い,読者の御批判を仰ぎたい.
本書の発行にあたっては中外医学社の皆様の絶大なる御協力があったればこそであり,遅れそうになる度に重ね重ねの電話連絡,日曜・休日を何日もつぶしての出社等,心から感謝している.特に,荻野邦義,上村裕也両氏に御礼を申し述べたい.
1997年10月
幕内博康
吉田 操
神津照雄