序 文
コロナが猛威を振るう直前あたりか,中外医学社の上岡さんから単純X線写真の本を出版したいという相談を受けた.正直,なんで今さら単純X線写真の本なのだろうかと思った.今日ではCTやMRIが進歩しすぎており,放射線科医はおそらくどの臨床医より単純X線写真を読まなくなった.関節の単純X線写真だったらなおさらである.初学者の学習はCT解剖からでは無かろうか? 情報量の少ない単純X線写真を読むために時間を使う放射線科医がどれほどいるのだろうか,採算がとれるのだろうか?……数日間考え込んでしまった.それでも自分の勉強になるかもしれない,と思い原稿依頼を引き受けることにした.
まずは単純X線写真が重要なファーストステップになる外傷から症例を集めることにした.実はこれが非常に大変な作業であった.当たり前だが骨の数だけ外傷があり,いろいろな骨折・脱臼のタイプがあり,何種類もの画像を集めなければならなかった.おそらく満足できる程度の症例は掲載されていると思う.
次に今でも現役な骨腫瘍の単純X線写真の症例を集めることにした.さまざまな骨に発生した同じ腫瘍を収集することに努めた.症例を集めながら再度勉強するのは楽しい作業であった.軟部腫瘍は単純X線写真ではあまりお役に立てないが,CTやMRIなど他のモダリティと比較すると有意義な症例を集めている.関節症や関節炎はそれぞれの原因となる疾患の好発部位や骨の変化がわかりやすい症例を集めた.代謝性疾患は特に症例が集まらなくて苦労したところである.多少症例の古さには目をつむってほしい.
術後の画像診断は主にCTを利用するきらいがあるが,CTを撮影してまで異常を調べなければならないきっかけを見せるのはフォローで撮影した単純X線写真での所見の移り変わりである.単純写真で異常をよく観察してほしい.
本来であればもっと早くに原稿を仕上げる予定であったが,コロナ禍が思いのほか長かったことで自分の放射線科医としてのモチベーションがさがってしまった.脱稿が遅れたことを深くお詫びいたします.また本の作成に当たりお世話になりました中外医学社編集部の高橋洋一様,上岡里織様にはお礼を申し上げます.
2024年1月
日本大学医学部放射線医学系放射線医学分野准教授 小橋由紋子