初版の序
刊行目的1 「肺癌取扱い規約」改訂と「肺癌診療ガイドライン」改訂から生まれる疑問に答える
肺癌診療は,ここ2〜3年で大きく変化しました.
第一にあげられる変化は,2009年のUICC(国際対がん連合)/IASLC(世界肺癌学会)TNM病期分類改訂版を採用した2010年の日本肺癌学会「肺癌取扱い規約」の改訂であります.また,2009年から2010年にかけての「治療の個別化」の確立も大きな変化で,これは,2010年の「肺癌診療ガイドライン」5年ぶりの改訂につながりました.このような大きな改訂や変化がありますと,その変化に伴う多くの疑問が生まれます.本書刊行の目的の一つは,そのような疑問に対する,それぞれの領域における気鋭のリーダーの解答を紹介することです.
刊行目的2 新概念や新技術,エビデンスの少ない診療ポイントなどに対する気鋭の医師たちの「個人的見解」を紹介する
もう一つの本書刊行の目的は,新たな概念や新技術の意味付け,エビデンスの得られにくい診療ポイントなどに対する気鋭の医師たちの「個人的見解」を伺うことです.
現在,肺癌領域では,「検診のエビデンス」「病理分類の方向性」「LCNEC」「ALK変異肺癌」「バイオマーカー」「PET所見の解釈」「EBUSの利用法」など,コンセンサスの得られつつある新概念や新技術が目白押しであります.また,エビデンスに基づいた医療の確立は十分なサンプルサイズの研究が出来るポイントに限られてしまうため,臨床現場で多くの医師が迷う問題点が数多く存在することになります.「非定型カルチノイド」「多発GGO」「臓器機能障害患者の治療」「単発再発」「副作用対策」など多くの問題があげられます.このような状況を考慮し,本書では,我々が他の医師の見解を聞いてみたいと考えるポイントをピックアップして,不躾なQuestionを試みました.その後,お書きいただいた原稿を拝見し,正直なところ,想像をはるかに越えた内容の深さに,執筆者の方々には,ただ,感謝するばかりであります.
最後に繰り返しになりますが,今回の出版に際しまして特に配慮した点として,それぞれの領域で気鋭のリーダーにご執筆をお願いしたことより,新しい難問題に対し,最新の情報や豊富な経験を織り込んで執筆いただきました.その結果,肺癌診療の現場で大いに参考にしていただける内容の一冊になったと確信しております.幅広い皆様にご活用いただいて,皆様の「もう一つ上を行く診療の実践」のお役に立てることを願います.
2011年5月
日本医科大学内科学講座(呼吸器・感染・腫瘍部門)主任教授
弦間 昭彦