は じ め に
〜本書が伝えたいこと,目的別本書の読み方〜
本書は,当初「がん専門施設以外の,がん専門医以外の人たちに,わかりやすくかつポイントを押さえたirAE対応を伝えたい」ということで企画されました.その時点では想定読者のコアは「がん診療をそれほど行っていない一般病院で2次救急を担当されている,後期研修医や専攻医,共に働く看護師や薬剤師たち」でした.しかしながら,その先生方に「響く」本はむしろ総合診療医や救急の先生方が作られる本になるのでは? という考えや,irAEにfocusした本はすでに良いものがあることに気づいたことなどが重なり,次第に「なぜ患者さんはirAEのリスクを引き受けて免疫チェックポイント阻害薬に挑戦しているのか」もわかりやすく伝えるなど,免疫チェックポイント阻害薬の有効性と安全性の両方をバランスよくまとめる方向性にシフトしていきました.現在進歩がめざましい分野なのでがん治療の各論部分はすぐに陳腐化しますが,学びの出発点として「ある時点でのがん治療全体での横断像をキチンと切り取ってコンパクトに解説している本」も必要であろうと考えました.最終的に,想定読者としてはがん診療を行っている施設の様々なスタッフも対象として,「irAEの本というよりも,irAEにもしっかり言及している免疫チェックポイント阻害薬の本」を目指すこととしました.
作業をはじめてみて,膨大な薬剤やレジメンの種類,またがんという言葉で括るのはやや乱暴とも感じる原疾患の多様さ(がん,という共通点はあるものの患者像は年齢,性別,よくある既往症や合併症で極めて多様であり,また同じ種類のがんでも周術期から再発後の後方ラインまでと状況の幅は非常に広い)に我々自身も圧倒されそうになりました.幸い執筆者の先生方に恵まれ,熱い原稿を多数頂きました.原稿全体を俯瞰して,「本書は部分別に想定読者が大分異なる」ことを再認識し,構成にも少し手を加えました.以下,目的別に本書の読み方を概説します.
? irAEへの対応をサクッと学びたい(がん専門施設以外でirAE対応に従事されている方,がん専門施設で勤務しているがこれからirAE対応を学ぶ方)
→ 第II部 各論:irAE編をまずお読みください.できれば,第I部 各論:レジメン編の冒頭,特にirAEの頻度,のところも確認ください.
? 特定の領域での免疫チェックポイント阻害薬の現状を大まかに把握したい(がん専門施設でこれから薬物療法を学ぶ方)
→ 上に加えて,第I部 各論:レジメン編のご自身が担当される領域のところも確認ください.少し余裕が出来れば,ぜひ第III部 エキスパート編もお読みください.
? 免疫チェックポイント阻害薬を横断的に学びたい,知識を再整理したい
→ まず第III部 エキスパート編をしっかりお読みください.その上で,第I部 各論:レジメン編のうちご自身が普段あまり担当されていない領域をお読みいただき,最後におさらいとして第II部 各論:irAE編を確認ください.
第I部から第II部,第III部を通して,内容について我々4名で確認しましたが至らない点や誤りなどありましたら,忌憚なきご意見をどしどし賜りたいと思います.
執筆者の先生方におかれましては,お忙しいなか快くお引き受けくださり,また皆様タイムリーに脱稿くださいまして,改めて篤く御礼申し上げます.共同編者の森田充紀先生には,本書にかける情熱とその精力的な作業全般とに敬意を表すると共に深く感謝します.先生の「いつか教科書を書きたい」という想いがなければ,この本は生まれていません.また,編集協力として絶大な力を発揮くださった当院薬剤部の大原沙織先生,南のどか先生のお二人にも御礼申し上げます.多忙な日常業務をこなしながら,短期間に多くのチェックをしてくださるのみならずタイトルや企画,構成の再検討等と様々な場面で貴重な意見を沢山くださいました.本の作成でもチーム医療ってあるんだなと薬剤師さんの力を再認識する日々でした.
また,当科秘書の藤田孝さんもいつも陰に日向に様々なサポートをくださり,感謝しております.今後ともよろしく.最後に素人ばかりであれもこれもと欲張りそうな我々を,各部署と折衝しつつできることできないことを示しながら辛抱強く支えてくださった中外医学社の弘津香奈子様にも,深く深く感謝いたします.本当にありがとうございました.
2024年1月 大寒の候に
松本 光史